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怒り

「久しぶりだな。ロノイール。まあ、そう警戒するなよ。仲良く茶でも飲もうぜ。いい茶葉が入ったんだ」


そういってフェルナンデスが一歩前に進んだ。それに反比例するようにロノイールが後退する。


その異様な緊張感とロノイールの様子にただならぬ何かを感じ取ったロリンシスは思わず声を洩らしてしまった。


「・・・・坊ちゃん?」


その声に気付いたフェルナンデスがロリンシスへと目を向けた。その視線を遮るように後退していたロノイールがロリンシスの前に立った。まるでロリンシスを守るように。


「なあ、あんたがロノイールの世話役?新しく入ったんだって?」


フェルナンデスはさほど気にした様子もなく言葉を続けた。フェルナンデスの言葉を受けたロリンシスは徐に立ち上がるとフェルナンデスに向けて一礼し、ロリンシスですと名前だけ告げた。先ほどからロノイールの様子がおかしい。顔を覗こうにもまるでそれを拒むかのようにロノイールは下を向いている。


「まあ、いいとりあえず、ティータイムと行こうぜ。座れよ」


「ですが、私達は今勉強中でして・・・・」


それまでずっと黙っていたロノイールが慌てたように声を発した。


「そんなものいつだって出来るだろう。まあ、出来たら、な」


最後の言葉に妙な違和感を感じたロリンシスはそっと隣のロノイールを見た。しかしロノイールは下を向いたままだった。


こうしてフェルナンデスとのお茶会が始まった。フェルナンデスが連れて来ていた彼の執事らしき男が全員分の紅茶を注いでいく。


全員に紅茶がいきわたった所で、フェルナンデスが恭しくカップを掲げた。


「では、久しぶりのだんらんに」そう言ってそっと紅茶を一口飲んだ。ロリンシスもそれを見届け、自分も飲もうとした瞬間腕を強い力で掴まれた。ロノイールだ。


ロノイールは掴んだロリンシスの腕をそっと下に下ろすと、その手の平に指で文字を綴った。神経を手に集中させてその言葉を読み取る。手に書かれた言葉は『飲むな』。


飲むな、とは一体どういうことなのか。目だけを動かし隣のロノイールを見る。ロノイールは何かに耐えるように目をつむっている。未だに震えてもいるようだ。ロノイールは何かに怯えている。このフェルナンデスという男の何かに。いつまでたっても口をつけない二人にフェルナンデスが問いかけた。


「どうした。飲まないのか」フェルナンデスの瞳がつうっと細められたのを見た。本能的に危険を感じたロリンシスはそっとロノイールの手を握りゆっくり引き寄せその体を抱え込んだ。そしてロノイールにしか聞こえないくらいの声量で「俺の服を握って放さないで」と告げた。ロノイールは素直に従った。


「・・・残念だよ。さっさと騙されればいいものを」そう言ってフェルナンデスの顔が醜く歪んだのを見たのを最後にロリンシスは今いる場から飛びのいた。飛びのいた二人が見たのは先ほどまで自分達が立っていた場所にナイフが刺さっているという異様な光景だった。そしてついさっきまでフェルナンデスの後ろに静かに立っていた執事が両手にナイフを持って立っていた。どうやら彼の仕業らしい。


「ちっ、仕留め損ねたか・・。油断するなフィン、あの男中々やるぞ」フェルナンデスは憎々しげに呟くと、後は任せると言い残し、部屋を出て行った。


改めてロリンシスはフィンと呼ばれた男と対峙する。この男はかなりのやり手の様だ。相手はナイフを持っている。どうしたものか・・・。そう思案していると、あ、っと思った時には敵はもう目の前だった。間一髪で避けれたものの、ロリンシスの頬には血が滴り落ちている。どうやら頬を掠ってしまったようだ。頬が熱い。


体術を使うにしてもロノイールを抱えたままでは使えない逃げるしかないのだ。今は何とか逃げれている体力的にいつまでもつか・・・ロリンシスは心の中でそっと舌打ちする。せめて一瞬の隙が出来れば・・


するとロノイールが突然声を発した。


「おいっ!!!お前このまま僕を囮にして逃げろ!!僕はここに捨て置いていい!!!」


「はあ!?何言ってんだ!!!んな事できるか!!!」


「だがそうしなければお前が死ぬ!!!僕はいいから!!!」


その言葉を聞いた瞬間ロリンシスの中で何かがプツっと切れた。


「・・・っのいいからてめえは黙って俺に摑まっとけばいいんだよ!!!!舌噛み切りたいのか!!!」


怒りをあらわにしたロリンシスにロノイールは目を見開いた。そして先ほどよりも強くロリンシスにしがみ付く。それを確認してからロリンシスはフィンと距離を取ってざっと辺りを見回した。そしてあるものを見つけるとそこまで全力で走った。当然のごとく追いかけてくるフィンに向かってロリンシスは思いっきりテーブルクロスを引き抜きそのまま相手へと投げつけた。一瞬にして視界を奪われたフィンは急いで取り外そうともがいた。そのせいで余計絡まってしまう。それを見越したロリンシスは素早く後ろを取ると、フィンの首に手刀をかました。


「しばらく・・・眠っていて下さい」


フィンは膝から崩れ落ちるようにしてその場に倒れた。


そしてロリンシスは自分のベルトを外すと、フィンの体に巻きつけ、ほどけない様にしっかりと固定した。手足はスカーフを破いてそれぞれ縛り付けた。一通り済ませ、ロリンシスはロノイールを担ぎ直し、自身の部屋へ足を進めた。


足を進めるロリンシスの瞳にははっきりとした怒りが現れていた。

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