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「-・・・で、こういう場合は、先ほど用いた図を使ってですね・・・」


広い空間に落ち着いた声とペンを走らせる音だけが響いている。


数週間前、何の巡り合わせか、ロリンシスはロノイールの家庭教師の代役を務める機会があった。


ロリンシスの教え方は家庭教師よりも何倍も分かりやすかったらしい。勉強が終わった後休憩と言う名のティータイムを二人して楽しんでいると突然ロノイールが言ったのだ。


「・・・・お前僕にこれからも勉強を教えてはもらえないだろうか」と。突然の申し立てにロリンシスは飲んでいた紅茶が危うく鼻から出そうになった。


ロリンシスはむせながらも言葉を紡いだ。


「えっ、でも俺元々庭師ですし、その仕事をないがしろには・・・「いいんじゃないですかねえ・・・」


ロリンシスの言葉を遮るようにして、紅茶を注ぎに来ていたアルベルトがのんびりと呟いた。


「坊ちゃんが直々に教えを請うなんて事中々ありませんしねえ。貴重ですよ、貴重」アルベルトはプスプス笑っている。それを見たロノイールが不機嫌そうにアルベルトを睨んだ。


「ずいぶんと楽しそうじゃないか・・・」


「ええ、そりゃあ、楽しいですとも。何ていったって坊ちゃんの久しぶりのデレを見れましたからね!!いっつもツンツンしてばっかで爺は悲しゅうございました」


よよよっとワザとらしく泣き崩れる老執事にロノイールだけでなくロリンシスまで呆気にとられてしまった。


一足先に我に返ったロノイールが呆れたようにため息をついた。


「お前なあ、もう少しマシな泣き方をしろよ・・・」


突っ込むとこそこ!?と内心思いつつロリンシスはしかしと声を上げた。


「庭師の仕事はどうすればよろしいんでしょうか」


ロリンシスの言葉にしばし考えるような姿勢を見せそれから朗らかに微笑みながらアルベルトは言った。


「では、週に二回、そうですね・・・・週初めと週終わり、貴方が坊ちゃんに勉学を教えるというのはどうでしょう?週二回であれば貴方も両立出来ますでしょう」


それに、とアルベルトはさらに言葉を続けた。


「坊ちゃんのボディーガードとしての役割も果たしやすくなります。貴方は体術にも優れておいでのようなのでこれで上手く話しの収集がつけられると思いますが、よろしいですかお二方」


アルベルトはロリンシスとロノイール双方の顔を見た。


ロノイールは無言で頷いた。ロリンシスもまあ、異論はない。


「ま、まあ、そこまで仰っていただけるなら・・・」


ロリンシスが若干言葉を濁しつつもそう言うとアルベルトはにっこりとほほ笑んで頷く。


「では、そういうことで来週から宜しくお願いしますね。ああ、庭師のあの爺の事は気にしなくていいですからね。あやつには私から話を通しておきますので」


アルベルトはそう言い残してティーポットと共に、部屋から出て行った。




それからというもの、こうして週二回家庭教師まがいの事をしている訳なのだが!!!


「・・・・坊ちゃんは理解力が凄まじいですね・・・。俺要ります?」


「・・・・まだまだ学びきれていない物が多すぎる」


「厳しいですね・・・」


そうなのだ。ロノイールは歳の割にとても博識だ。もう十分な気さえしてくるほどには。しかし本人は満足していないらしい。一体どうしてそこまで勉強する必要があるのか。その質問は何となくしてはいけないような気がして聞けずじまいだが、ずっと心につっかかっている。


まあ、つかかっているからといって聞く事は出来ないけど。考えに耽っていたせいでぼーっとしてしまったのだろう、ロノイールがじっとこちらを見ている事に気付かなかった。


「すみません?何か分からない所でも?」


「・・・・・・いや」


そう言ってロノイールは再び本に向き直った。最近こういう事が多い。ロリンシスが笑いかけると目を逸らすのに、ロリンシスがよそ見をしていたり、ぼーっとしているとロノイールからの視線を感じる。それに気付いてロノイールの方に視線を向けると、また逸らす。それの繰り返し。


一体何なのだろうか。自分の顔に何か付いているのか。もしかして鼻毛とか出てしまっているのだろうか。急に不安になり、さりげなく鼻下を触る。あ、大丈夫だ。出てない。ロリンシスがホッと息をついていると、またもや視線を感じた。


見るとロノイールがまたしてもじっとロリンシスを見つめていた。ロリンシスは何度目かもう分からないセリフを呟いた。


「あの?どうしましたか?何か分からない・・・「いや、特にない」


・・・・遮られてしまった・・・。最近は小生意気な態度も改まって懐いてくれたかもと浮かれていたけどどうやらまだ懐いてくれてないらしい・・・・。


ロリンシスは気付かれないようにそっとでもがっくりと肩を落とした。


そんなやりとりが三回目に差し掛かろうとした時コンコンっとドアを叩く音が聞こえた。アルベルトならノックの後にアルベルトです、と言ってくるはずだ。という事はアルベルトではない。さっと心なしか警戒を強めるロリンシスに対して、ロノイールは至って普通にまるで歌うような軽やかな声でどうぞ、と声をやや張り上げた。


部屋主の了承を得て、ドアがゆっくりと開かれた。そこに立っていたのは、ロリンシスもよく知っている人物で。絵画でしか見た事がなかった人物でもある。


ロリンシスの横に座っていたロノイールがそっと静かに席を立った。椅子を引く音にはっと我に返ったロリンシスは挨拶をしようと席を立とうとした。したのだが。それを静かにロノイールが制止した。


ロリンシスの位置からはロノイールの表情は横髪と少し長めの前髪で隠れてしまって見えないが、いつもとややロノイールが纏っている雰囲気が違うように感じる。先ほどまでとはまったくといっていいほど違う。


王族特有のあの雰囲気だ。


そしてふとある事に気付いた。ロノイールが震えている。静かにロリンシスを抑え込んで立たせまいとしている彼の手が僅かだが震えているのだ。


ロリンシスはロノイールを見上げた。その視線を感じているであろうロノイールがゆっくりと息を吐いたのが見えた。そしてまっすぐ前を見据えた。


「・・・・・・お久しぶりですね。如何なされたのですか、フェルナンデス兄上・・・」


発せられた声は硬い。


ドアにもたれかかるようにして立ち、口角を吊りあげ笑っている人物こそ、ロノイールの兄であり国王の第一子である。フェルナンデス第一王子その人だった。

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