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毒薬

隣の部屋、つまりロノイール王子の部屋から何かが割れる音がした。アルベルトと共に急いで隣の部屋に駆けつけると、そこには朝食を持ってきた女中が震えながら床にへたり込んでいた。そのおびえた視線の先には当然のことロノイールがいるわけで。


怯える女中とは裏腹に無言でベットの上から彼女を見据えている。その異様な光景にロリンシスだけでなくアルベルトも驚きを隠せないようだ。アルベルトは急いで部屋の中に入り今にも倒れそうな女中を支えた。そしてロノイールを見上げ厳しい口調で何があったのかと問い詰めた。


「坊ちゃんこれは一体どういうことです。せっかく用意してくれた料理が台無しではありませんか」


問い詰めるアルベルトを一瞥するとロノイールは鼻で笑いながらこう言い放った。


「食事を台無しにしたのは僕ではなく、そいつだ」その声は意外にも凛とした力を持ち室内に響き渡った。


「わ、私そんな・・・」女中は震える声でそれだけ言うと涙をこぼし始めた。


ロリンシスは何となくその姿に違和感を覚える。いくらロノイールが生意気だったとしても意味もなく食事を無駄にしたりするだろうかそう考えたのだ。何故この状況下で彼を疑う事が出来ないのかそれは分からないけれど何となく彼はそんな事はしないと直感で思ってしまった。


ここまで来てロリンシスは視線を感じる事に気が付いた。顔を上げるとロノイールと目が合ったのだ。思わず目を見張る。ロノイールと目がこんなにもしっかり合うのは小庭以来だったと思う。ロリンシスはロノイールが何かを語ってきているように感じた。しばらく見つめているとロノイールが不意に視線を落とす。その先には女中がいた。


ロリンシスも吊られて視線を下げる。そこでロリンシスはあるものを発見した。アルベルトからは死角になって見えない所にきらりと光る”それ”。ロリンシスはツイッと目を細めると音を立てない様にしてスッと部屋へ足を踏み入れた。そしてまっすぐに女中の元へと向かう。


女中の元まで行くとさすがにアルベルトと女中も気付いたのかロリンシスへと目を向けた。ロノイールはじっと静かに見ている。全員の視線を一身に受けながらロリンシスは失礼と断った後に女中のスカートの裾から手を入れた。


突然の行動に女中が悲鳴を上げた。驚いたアルベルトが制止に入るもロリンシスはすぐに終わりますんでと払いのけた。そしてスカートの中から目的のものを見つけたロリンシスはそっとスカートから手を抜いた。


スカートの中から取り出した”それを”見てロリンシスの顔が険しくなる。ロリンシスは徐に立ち上がり女中へ向き直った。丁度背にはロノイールを庇うようにして。


アルベルトはロリンシスの手に握られている者を見て目を見開く。ロリンシスの手に握られているのは一見何の変哲もない小さな小瓶だった。中に白い粉がこびり付いている。


ロリンシスは務めて笑顔で居るようにしながら女中に問い詰めた。


「お嬢さん、これは・・・毒薬ですね?」その言葉に女中目を見開く。


ロリンシスは薬草については詳しい。すり潰してあっても色と若干の匂いでそれが何の薬草であるか分かってしまう。


「これを坊ちゃんの朝食に混ぜましたね?」


畳み掛けるように質問するロリンシスとは対照的に女中はあ、とか、そのなどと呟いているだけだ。


「・・・言っておきますが坊ちゃんが何も知らない無知な子供だとでも思いですか?それなら大きな間違いですよ」目を鋭く細めると女中から小さな悲鳴が漏れた。ロリンシスは改めてロノイールと向き直った。


ベットの枕に寄りかかるようにして座わるロノイールと目が合うようにロリンシスは自分もベットへと腰かけた。


その様子を見てアルベルトは薄く微笑み女中の肩に手を置いた。「詳しい話は別室で伺います。ここはあくまで王子の寝所ですので。あ、その小瓶貸して下さい」


言われるとおりにアルベルトに小瓶を渡すとアルベルトは頭を下げて女中と共に部屋を出て行った。


二人きりになった部屋には沈黙が訪れる。とりあえずロリンシスはロノイールへ顔を向ける。ロノイールは相変わらず俯いたままだ。どうしたものかとロリンシスがふとロノイールの手元に目をやる。ロリンシスは思わずそこを凝視してしまった。割れた皿で切ったのだろうか、小さな手には三センチほどの切り傷があった。血も出ている。


視線に気づいたロノイールはああ、と言って自身の手を見た。それっきり何も言わないロノイールにロリンシスは思わず頭に血が昇るのを感じた。


ロリンシスはロノイールの了承を得る事なくそっとその手を掴んだ。


突然の行動にさすがに驚いたのかロノイールは目を見開いた。そんな彼の様子を見てざまあみろ、と思いつつロリンシスは自分のポケットからスカーフを取り出した。


「血も出ているのによくもまあ、そんなに平然としてられたね。でも痛くないはずないだろ?」ロノイールの手にスカーフを巻きながらロリンシスは言った。


「痛いときには痛いって言う、これ鉄則」きゅっと最後に結び終えてロリンシスは有無を言わせない表情をロノイールへ向けた。


「まあ、とりあえずこれで止血はしたから後でアルベルト執事長にちゃんと手当してもらって下さいよ?」ロリンシスの言葉にロノイールは無言で頷いた。


お、反応したと内心感動しつつ、こいつ意外と可愛いなあ~とか思ってた矢先・・・


「おい、お前そんな事はどうでもいいんだ。さっさと朝食持ってこい」


ヘンっと鼻を鳴らしながら言うロノイールに再び頭に血が昇るのを感じる。


前言撤回。やはりこいつはクソガキだ。

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