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Spring rain

作者: 宮村灯衣

  Spring rain


 とある街の片隅にひっそりとたたずむ小さな花屋。

 そこが僕らの家です。

 カランカラン

「いらっしゃいませー」

 Spring rain 本日も開店です。



「んー、『本日のオススメは、春らしいカーネーションです。母の日のプレゼントにいかがでしょう。』あと、『思い出の花、咲かせたくありませんか』と。こんでええかな」

 僕はチョークを置いて店の奥に向かって声をかける。

「春ー、起きとるー? 起きとったらさ、この黒板出してopenにしてきてー」

 ……返事がない。

「春ー?」

「……了解…………」

 寝とったんやろなぁ。悪いことしたな。

 のそのそと店の奥から這い出てくる春は寝癖で髪がぼさぼさ、服もパジャマのままで到底店に出せないような格好だ。

「春、ちょっとこっちおいな」

「ん? 何……?」

「髪もぼさぼさやし、服もパジャマのままなんて、んなんじゃお嫁行けへんよ」

「別にいいよ、行けなくても」

 髪を整えながら軽くしかれば、不機嫌そうに返された。

「よし、できた。可愛いで。ほな、これよろしく」

「うん、わかった」

 黒板を春に渡して、僕はレジを飾りつけようかと椅子を回転させて後ろの棚から折り紙を取り出す。

 ペンギンさんとライオンさんと……花も折ろかな。

「あ、また雨くん折り紙してるの?」

「ええやん、僕は折り紙好きなんやから。それに、折り紙とか飾ってあったらちっちゃい子が来たときとかすごい喜ぶんやよ。そんな笑顔、みたいやん」

 にこっと笑えば春も笑って返してくれた。

 うん、今日も平和やな。

「なんなら春も折る?」

「あたしは遠慮しとくわ……不器用だから」

 カランカラン

「あ、いらっしゃいませー。春、着替えて掃除してくれる?」

「ん、りょーかい」

 店の奥に引っ込んでく春を確認して、目の前のお客さんに目をやる。

「あ、船崎のばーちゃん。いつもの?」

 店に毎日来てくれる常連のおばあちゃんだった。

「そうそう。毎日ありがとうねぇ」

「いえいえ。僕の店に毎日買いに来てもろとるんやからお礼言うならこっちの方です」

 杖を突いて立ち上がり、いつもの花達を集める。

 そしてレジに戻り、そっと座って花を包んでいく。

「船崎のじーちゃんも喜んどるやろな。ばーちゃんに毎日来てもろて」

「あの人は寂しがりだったからねぇ……。一日でも欠かすと寂しそうな顔する気がして……」

「そやなぁ。よし、できた。これでどうやろ?」

「あぁ、ありがとうねぇ。そうだ、雨くん、さっき上がってったのは春ちゃん?」

 ニコニコと船崎のばーちゃんはお金を出して笑う。

「そうやけど……」

「ちゃんとした格好させてあげんとダメよ。雨くん、春ちゃんのこと好きでしょ?」

「な……」

 一気に顔に血液が集まる。うわ、どないしよ。

「な、何言うてんの、ばーちゃん。そんな、僕は、」

「雨くんは分かりやすいなぁ……。大事にしてやってね」

「――――それは、当たり前です。春がおらんと僕は生きてけんし」

 精神的にも生活的にも。

「そいじゃ、行くわな。春ちゃんによろしくねぇ」

「あ、待って。ばーちゃん、これ」

 すっと、カーネーションを差し出す。

「母の日、やろ。ばーちゃんにプレゼント。その代わり、さっきのことは誰にも言わんといてぇな」

「どうしようねぇ」

「ばーちゃん!」

「冗談よ、いわへんでな。ありがとう、雨くん。またよろしく」

「ありがとうございましたぁ!」

 満足そうに微笑んだばーちゃんにしてやられた気分だ。

 レジに顔を伏せて顔の赤みが早く引くように願う。

「雨くん、何してるの?」

「わっ、春っ!? え、あ、何?」

「どうしたの顔真っ赤にして……。さっきのお客さん?」

「なんでもない。それより掃除お願いします」

 椅子に座ったまま回転させて掃除用具を取り、春に渡す。

「いつも悪いな。この足のせいで」

 生まれつき力の入らない左足を睨みつける。

「いいのいいの。あたしのアレを怖がらないでいてくれたのは雨くんだけだし、もちつもたれつ、だよ」

 なんか使い方が違う気がするけどまぁええか。

「ほなよろしくお願いします」

「うぃ」

 鼻歌を歌いながらのんびりと掃除をしている春。

 ん。可愛い。

 って何考えてるの僕!!

 ダメだ、これ絶対に船崎のばーちゃんのせいだ……。カーネーションなんてプレゼントせんでもよかったかな。

「バカバカバカ……」

 煩悩よ、消えろっ!

「雨くんさっきから何やってるの?」

 春の怪訝そうな目。思わず目を泳がせる。

「な、ナンデモアリマセン……」

「嘘つきー」

 さてはてどうやって追求から逃れようか。

 カランカラン

「い、いらっしゃいませー!」

 救いの神、キター!!

「どーも、久しぶり」

「あ、坂本さん!」

 またまた常連さんだ。

 春もよくなついてる人だから、僕から標的がそれた。ありがたい。

「久しぶりです、坂本さん。元気でした?」

「うん、元気だよ。あ、今日はカーネーションで」

 元気な作家のお兄さん。奥さんが入院中でお見舞いのための花をよく買いに来てくれる。

「母の日、ですか?」

「いつも何もできないからなぁ」

 照れくさそうに笑う。僕としてはかなりいろんなことやってあげてるように思うんだけどな。

「春、カーネーション一本とって」

「あ、はいはい、どーぞ」

 カーネーションを受け取って包む。丁寧に、丁寧に。

「桜さん、調子どうですか?」

「あんまりよくないんだよなぁ、それが。本人も頑張ってるんだが」

「応援してあげたいですよね」

 よし、できた、と。

「メッセージカードつけます?」

「あ、お願いしようかな」

「了解です」

 杖を突いてしゃがんでカードを取って……立てない。

「あ、ちょ、春、助けて。立てん。マジで立てへんの。助けて!」

「最初から取るように頼めばいいのに」

 苦笑しながらも、春は脇を抱え椅子に座らせてくれる。

 男として身長が20㎝位違う女の子に簡単に抱き上げられるのは屈辱的だが仕方がない。

 生まれつき、この足なのだから。

「雨くん、そんな顔しないで」

「僕、おかしな顔しとる?」

「なんか、諦めきったような顔してる」

 あー、バレてる。

「足悪くても、雨くんは料理上手いじゃん。花のこといっぱい知ってるじゃん。杖なしじゃ立ってるので精一杯でもさ、雨くんにはいっぱいいいところがあるよ! 諦めたような顔しないで!!」

「…………ん、ごめん。ごめんな、春」

 春、泣かせちゃったかな。

「……青春してるねぇ、雨くん、春ちゃん。あー、いいネタになりそうだ!」

 わわっ、坂本さんおるの忘れてた。しかもネタにって!? さ、坂本さん!?

「冗談だよ、冗談。ネタになんかはしないって。まぁ、今の言葉、桜に聞かせてあげたいなとは思ったけど」

「桜さん、そんなに悪いんですか?」

「悪くはないんだけどな……。ちょっと事情があってさ……」

 坂本さんは悲しそうに笑った。

「あ、カード」

「すみません、どうぞ」

 春に立たせてもらってまで(屈辱だ)取ったカードを手渡す。

 さらさと綺麗な文字で書かれるのを見ながらカーネーションに最後の仕上げの飾り付けをする。

「「よし、できた」」

 はもった……。

「坂本さん、カード飾るんでください」

「お願いします」

 カーネーションを飾ろうとしたときに気付くようなところにすっとカードを差し込めば……完成、と。

「できたー」

「おぉ、いい感じだ。ありがとう。いくらになるかな?」

「えーと、春、いくらやったっけ?」

「……三百円」

「だそうです」

 情けない……。花のことなら分かるのに……。

「はい、三百円。レシートも頼むよ」

「了解です」

 ちゃっちゃとレジを叩いてレシートを出す。

「お買い上げ、ありがとうございます」

「いえいえー。あ、そうそう。雨くん、店の前に置いてある黒板に書かれた“思い出の花、咲かせたくありませんか”って言うのはどういうことかな? まさか、雨くん、人の過去が読めてそれで」

「「ないない」」

 僕も春も顔の前で手を振り、首を振る。

 ありえないって。小説の中の話ってわけでもないんだし。

「じゃ、どういう意味なんだい?」

「そのままの意味ですよ。まぁ、例えば、息子からもらったカーネーション、押し花にしようと思っていたらいつの間にか枯れてしまった、なんて花をもう一度咲かせるんです。だから、“思い出の花を咲かせる”って」

 あ、坂本さんの前にはてなが浮かんでる。当たり前やよなぁ。

「春、見せてあげて。そのほうが早いやろ」

 にやっと笑えば、春もいたずらっ子のような笑みを浮かべて近くの花のつぼみを手に取った。

「坂本さん、見ててください」

 花に手をかざして春は花にささやく。

「育て、強く、力強く、咲け」

 薄く、暖かいオレンジ色の光が花を包み込んだ。

「咲き誇れ」

 手が離れた。

「!?」

 春の手に握られていた花はつぼみであったことが信じられないほどに、咲き誇っていた。

「とまぁ、こんな感じかな」

 春は軽く笑って、その身体からは力が抜けた。

「春ちゃん!?」

「春っ!!」

 あのバカ! いつもならあのくらいやったら倒れへんのに、坂本さんおるからっていつもより無茶したな!!

 力の入らない足を叱責して、春へと手を伸ばす。

 その手はもちろん空を切り、春は坂本さんが受け止めた。

「春ちゃん!」

「へへ……力入んないや……」

「アホウ! 無茶すんなっていつも言うとるやろ!」

「ごめん、雨くん……」

 意識を、失った。

「バカ野郎……。いつもいつも無茶すんな言うとんのに……。あ、坂本さん、僕この足なんで奥まで運んでもらえませんか?」

「わかったけど春ちゃんは大丈夫、なんだよね?」

「あぁ、大丈夫です。ちょっと無茶したせいで疲れきって意識失ってますけど寝たら治るんで」

 杖を突いて立ち上がり、坂本さんを奥の部屋へと案内する。

「そこの布団に寝かしといてください。そのうち起きると思うんで。ホントに迷惑かけてすんません」

 寝かされた春の横に座る。坂本さんも近くの椅子に腰掛けた。

「春ちゃんの、あの力は、」

「――――春が怖いですか?」

 目を見つめる。嘘偽りを逃さないようにじっと。

「怖くは、ない」

 あぁ、本当に怖がってはいないみたいだ。よかった。

「あれは春が生まれつき持っていた能力です。花や草木を自由自在に成長させたり、成長を巻き戻したり、止めたりできる能力。あの能力のせいで春は子供の頃、孤立していたんです。だから、どうか、この能力のことは誰にも言わないでください。僕はもう、孤立して悲しむ春を見たくない……っ!」

 初めて春に会ったとき、春は公園の隅で泣いていた。あの時の春の泣き顔をもう僕は見たくない。

「わかった。言わない。誰にも、桜にも言わないよ。そのかわり、」

「そのかわり?」

「木を、桜の木を、桜の花を咲かせてくれないか?」

「……詳しく聞きます」

 その後聞いた話によると、桜さんの生まれた日に植えられた桜の花が枯れかけていて、それを知った桜さんが非常に落胆してしまい、気分が沈んだせいか徐々に症状も悪化している。

 だから何とかしてその桜を咲かせる方法はないかと探していた、とのことだった。

「頼む。今のを見て、春ちゃんにかかる負担が大きいのもよくわかってる。けど、君たちしか頼れる人がいないんだ。頼むっ!」

「…………。春がいいというのなら、僕は止めません」

 本当は止めたい。

 大いなる力には大いなる代償が伴うんだ。

 春に無茶はして欲しくない。

 けど、けど、

「……雨くん、笑おうよ。そんな顔しないで」

「春…………?」

 目を開けると、春が下のほうから覗き込むようにして僕を見ていた。

「あたしは大丈夫だから」

 ゆっくり、ゆっくりと春が起き上がり、微笑む。

「坂本さん、何の話かよくわからないけど引き受けます。あたしたちにしかできないことなんですよね?」

「あ、あぁ」

「だったら引き受けます。雨くん、いいよね?」

「……うん」

 ぱぁっと坂本さんの顔が輝く。

「ありがとう。本当にありがとう!! いつなら暇かな?」

「雨くん」

「……明日が定休日です」

「じゃ、じゃあ、明日ここに来てくれ!」

 坂本さんがポケットからスケジュールを取り出し何かを書き連ね僕に手渡す。

「そこに桜の木があるんだ。よろしくお願いします!」

 バッと頭を下げられた。あぁもう、断れないじゃないか。

「……わかりました。春、明日ははよ起きてぇな」

「わかってる」

「本当にありがとう! 桜には内緒にしとこうかな。驚かせたいからね。それじゃ」

 弾むように坂本さんは帰っていった。

 あぁ、憂鬱だ。

「春、ここでおとなしく寝とってぇな」

「嫌」

「……春」

「――――一人は、怖い」

「…………お客さん来るまでな」

 服の裾を掴んでくる春を撫でて横に寝転ぶ。春が抱きしめやすいように。

「雨くん、ありがと」

「どーいたしまして」

 ぎゅっと抱き付いてくる春の頭を撫でる。

「春は不安症だもんねぇ……」

 能力を恐れた両親から受けた虐待のせいで春は不安症だ。一人では眠れないらしく、寝付くときは必ず僕に抱きついてくる。

「それだけ信頼されとるってことやろうけどね……」

 男として見られてないんやなかろうか。普通、男の目の前でこんな無防備になる? いくら小さい頃から知ってるから言うてもなぁ……。

 悶々としているうちに春は小さく寝息を立て始めた。

「うん? 寝たんか。……おやすみ、春」

 もう一度だけ春を撫でて僕は杖をつき、店番へと向かった。



 翌朝

「ねぇ、雨くん」

「なに?」

「眠い」

「それもう十回以上聞いた」

 ただいま午前九時。常に十時起きの春にとって八時起きはとても辛かったようです。

「帰りたい」

「はいはい、我慢しな。引き受けたんは春なんやから」

 タクシーで春に膝枕をしてます。そのせいか前の運転席から何十回も舌打ちが聞こえます。正直帰りたいのは僕の方です。

……泣きたい。

「……もうすぐ着きます」

 ぶっきらぼうな運転手さんの声。

 あぁ、助かった。

「春、はい起きる。杖取れやんから」

「む……」

 しぶしぶ春が起き上がり、僕は足元に置いた松葉杖を取った。

「今日はいつもの杖じゃないの?」

「あれのが持ち運びは便利やけどね、今日は長距離歩くやろ? そんときはこっちのが負担少ないからな」

 あたりは田んぼが広がりのんびりとした空気が漂っている。

 あぁ、見とるだけで癒されるなぁ……。

「……着きました」

「ありがとうございます」

 お金を払うのは春に任せて僕は先にタクシーから出る。

 うん、気持ちいい空気。

 自然と足が前に進む。

「ちょ、雨くん待って」

 あ、春のこと忘れてた。

「ごめん、忘れとった。ってか、顔真っ赤やん。なんかあった?」

「……っ! なんでもないっ!!」

 顔を真っ赤にして反論する春。

 まさか、さっきの運転手に何かされたんか?

「春」

「なんでもないって!」

 睨むように言うが正直何の抑制力にもなってない。

 ……あぁくそ、イラつくなぁ。

「わかった、聞かへん。けどさ、なんかされそうになったらちゃんと言うんよ。僕はこんな足やけど、守るから。きちんと」

 恥ずかしいから春の顔を見ないように淡々と告げる。

「あ、めくん?」

「ほら着いたよ、春」

 どういう反応をしたのか見るのも怖くて坂本さんに教えられた家の前に立ってもらった紙と家の前の表札を照らし合わせる。

「徳間町二丁目22-8884、大久保。うん、ここだね」

 表札にも大久保と書いてあるしここやろ。

 ピンポーン

『…………はい』

「あ、花屋の店長をしております、篠崎です。坂本……坂本達英さんに言われて来たのですが」

『篠崎? ……下の名前は』

「えと、雨です」

『……鍵は開いてる、入れ。すぐにバカを起こすから』

……事情がよくわからんのやけどとりあえず入ればいいんやよね?

 恐る恐る割りと広い家(というか和式の豪邸)に足を踏み入れる。春は不安そうに僕の服の裾を掴みながら付いて来た。

 初めて会う人がおるのはやっぱ怖いんやな。坂本さんにもきちんと言っとくべきやった、うん。

「春、こわないよ。大丈夫、大丈夫」

「ん……」

 よし、さっさと終わらせて帰ろう。春がビビリすぎてる。

「お邪魔、します」

「……お邪魔します」

 そろーと玄関を開ければ、目の前にはぶっ倒れた坂本さん。

「……は?」

「ん? あぁ、雨くんと春ちゃんか。どーも」

「なにやっとるんですか……?」

「いや、仕事場で寝てたらついさっきここに放り出されたんだ。頑丈だからいいけど普通の人だったら何度か死んでるぞ、これ」

ここ、桜さんの実家やよね? 仕事場?

僕の疑問は顔に出ていたようで、坂本さんは笑って答える。

「俺一応婿養子だから。名字は俺の方にしてもらったけど。ま、とりあえず入って入って」

「さっきの人は誰ですか?」

「お義父さん、だと思うよ」

ほぅ、お手伝いさんはおらへんのか。

「というか、なぜ春ちゃんはそんなに雨くんの後ろに隠れてるんだい?」

「あー、春は結構人見知りなんですよ。知らない人おると萎縮するんです」

「……悪いことしたね。もう少し早く出かけてもらえばよかった」

 歩きながら坂本さんは申し訳なさそうに笑って春の頭を撫でた。

「ここが客間。桜の桜……駄洒落みたいだけどまぁいいや、見えるから」

 案内されて入った客間からは確かに桜が見えた。ただし、枯れかけている桜が。

「うわ、これはひどい……」

「花の専門家から見てもそう思うよね。どうかな、もう一度咲かせられる?」

「……やってみる」

 お、春やる気だ。それはいいとして、と。

「無茶は厳禁やよ」

「わかってる」

「おっと、ちょっとだけ、もう少しだけ待ってもらえないかな。その能力、誰にも知られなくないんでしょ? もう少ししたら義父さんも義母さんも出かけるから。ヨーロッパ旅行10日間の旅に」

「…………はぁ」

 いやまぁ、そうしてもらったほうが僕らとしてもありがたいけど……。

「達英さん、達英さん」

「あぁ、はい! なんですか義母さん!」

「そろそろ出発しますね。お留守番と桜をよろしくお願いします。お土産、楽しみにしててください」

「了解しました。楽しんできてください」

 では、と僕らにも軽く会釈をして白髪の女性はスーツケースを転がしていった。

「……綺麗な、人ですね」

「さすが桜のお母さん、って感じだよ。んじゃ、出かけたしお願いしようかな」

「はい」

 僕は縁側に座り(足が悪いからね)、坂本さんはその横に立って春を見守る。

「春、何度も言うけどくれぐれも無茶はせんように」

「大丈夫、わかってる」

 春は枯れた桜の木の前で何度か手を握り、手を桜にかざす。

「もう一度、咲け。昔のように、咲け。巻き戻れ」

 赤い光が桜を包み込む。いけるか……?

「咲き誇れ!」

 ふっと赤い光が消えた。

「咲いて……ない、ね」

 木は光が包む前となんら変わっていなかった。

「雨くん、これは無理。もう一度咲いてほしいって“想い”は残ってるけどそれに見合うほどの生命力が残ってない。花じゃなくて木、だから」

 あ、やっぱり?

「ということは……やっぱりダメか」

「そう決めつけるのもまだ早い、です」

 ずーんと沈んだ坂本さんの前で春は再び桜に手をかざす。

「芽生えろ。母のように育て。立派に咲け」

 暖かいオレンジ色の光が桜を包む。

「咲き誇れ!!」

 ぶわっ!

 ――――光が消えたその場所に咲き誇る、まだ若い桜の花。

 もちろん満開だ。

「む……咲いた」

「うわぁぁあああ!! 咲いた、桜の花が、咲いた!! ありがとう! 本当にありがとう、雨くん、春ちゃん!」

「どーいたしまし、て」

 フラッと体制を崩した春をなんとか受け止め微笑みかける。

「お疲れ様。よう新芽があるってわかったなぁ」

「勘。雨くん、寝たい」

 僕に支えられたまま、ん、と両手を伸ばしてくる。これは……だっこしろと?

 無理無理無理!! 僕正直言って今こうやって支えてるだけでも全神経使っとるんやからね。だっこなんてしようとしたら二人とも地面に叩きつけられるわ!

「帰ろう、雨くん」

 春はフラフラとしながらも自分で立つ。

 無茶はしたみたいだけど、多少は自重もしたって感じやな。うん、よし。

「帰ろか、春」



 二日後

「雨くん雨くん雨くん!!」

「おっとと、なに、春?」

「喜んでたよ! 桜さんすごく喜んでたよ!」

「……うん、わかったからもうちょっと落ち着いて話そか」

 眠気も吹き飛んだようでいつも通りめちゃくちゃ元気な春。

 今にも僕につかみかからんかの様子で早口でまくし立てる。

「えっとね、桜さん、すごく喜んでたよ。泣きながらね、何度も何度もありがとう、って言ってくれた。あたし、結局体調ものすごく悪くなって昨日一日寝込んでたけどね、無理しても咲かせて良かったって思ったよ」

「うん、良かったなぁ、春」

 撫でてくださいと言わんばかりの春を撫でてにこりと微笑む。

「でもさ、無茶しちゃあかんよ。船崎のばーちゃんも坂本さんも、もちろん僕も心配しとったからね。体調ものすごく崩す程の力は使っちゃダメやよ」

「うん」

 猫みたいやなぁ……。

「でね、坂本さんと桜さんすごくラブラブでね、居づらかった。だからちょっと早く帰ってきた……」

「うん、ご苦労様」

 それはすごくわかる。それは気まずいよな。

 よしよしと撫でながらふと春に話しかける。

「ねぇ、春」

「なに、雨くん」

 僕らもそんな風になれたらいいなぁ、と言おうとしてやめた。

「いや、なんでもないよー」

 まだ好きだという気持ちさえ伝えられていないんだ。

「……? 変な雨くん」

 あと少し、もう少し、

「変で悪かったなぁ」

 この足でも自信が持てるようになったなら。

「別に悪いとは言ってないよーだ」

 その時はちゃんと、はっきりと、

「揚げ足とらんといてよ……」

 気持ちを伝えるから。


                         Fin.

 寝不足で推敲とかしてません。誤字脱字は申し訳ないですが後日しっかりと。


 とまぁ、今回も読んでくださった方はありがとうございます

 動かぬ足がコンプレックスの青年ととある能力がコンプレックスの女の子のお話ですね。

 雨くんは、フルネームだと篠崎雨。左足以外は普通の青年です、容姿も含め。関西弁ではないですが方言で話しています。まぁ、坂本さんには基本敬語ですが。身長は178くらい

 春ちゃんは、フルネームだと東雲春。能力以外は普通の女の子です。きっと標準語。敬語は使いません。そして機嫌がいいときと悪いときのテンションの落差が激しい。身長は157くらい。笑うと可愛い。


 一応、春ちゃんの能力の説明しときますと、幼い頃よりは弱まってます。なのでその弱まった分をイメージで補填するために咲け、などという言葉を言っています。まぁ、やろうと思えば手をかざすだけで無言でもやれますよ。


 あぁ、そうそう。二人は両片思いです。書き続けたらそのうちくっつきます、きっと。



 正直言って、今、物凄く眠たい(最近は床で寝てる上に睡眠時間も少ない)ので何書けばいいのか脳が働かないのでよく分かりません。


 とりあえず、読んでくださった方に最大の感謝を!

 次回作もよろしくおねがいします!

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