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絵描き-エカキ-

男の話。

ソ之参



絵は僕の世界の全てだ。


①その少年は絵を描くのが、大好きでした。 少年はクレヨンでぐりぐり塗り塗りしながら、幼稚園をほとんど絵 を描いて過ごしました。


クレヨンが途中で無くなったら、 人の物を勝手に取ってしまうほど 。 絵本を自分で作ってしまうほど。 小学校を卒業する時に友達がいな いほどに。


しかし少年は寂しくなんかありま せん。 絵を描けるからいつだって最高に 楽しいのです。



②大学生になっても、やはり友達 は出来ない。 いや、いなくてもいいのだが。


僕には筆がある。


すっかり青年になった少年は大学 生になったにも関わらず、いつも 絵ばかりを描いていた。


青年の親は何かキッカケが有れば と大学を受けさせた。 だがその気持ちも虚しく、高校生 の時よりも閉じこもりが酷くなり 、大学になど行かない青年にはキ ッカケなど皆無に等しかった。


それでも、青年も人だ。恋はした 。 しかしそれは美しい人,物だけだ った。


青年の恋する理由は絵を通してで しかなかった。 つまり、美しい絵を描くために美 しいモノを手に入れたかった、た だそれだけ。


青年も見た目は悪くはない。寧ろ いい方だろう。


だが、 見た目だけを求める、 それだけの間柄。 相手もそのうちに青年に飽きる。 青年もそのうち飽きる。


簡単に言えば、青年と周りの関係 は紙っぺらなのだ。


───────── ─────── ────


「もういいわ、さよなら。」 中身もはたまたは欲までも求めら れなかった女性。


「あぁ、俺も結構君を描くのに飽 きていたところだ。丁度良かった な。」


悲しくも憎らしくもないただ興味 のないものを捨てる、その様な目 を向ける青年に女性は舌打ちを残 し、その場を後にする。


「今の最後の顔は良かったな、描 いておくか。」 彼女の名もすでに忘れた青年はひ たすらに絵を求める。


美しいモノを描きたい、そんな青 年の進む道は、すでにどこかにひ ん曲がっていた。曲がっているの だ。


それは危険な方向へ、もう直らな い曲がり方をして。


しかしそれを正しい道だと思って いる青年は全速力で走っていく。 もう止まる事など忘れた頭で。


成長した青年はもう独り立ちして いた。


誰にも見つからない絵の中へ



③ある日青年は出逢った。 いや、出逢ってしまった。


運命だとも思える。 真の美を求める青年は、涙を流し て喜ぶ。


それは、地獄絵。


ひん曲がってしまった青年の心に は、これほど美しく写るモノはな いだろう。


そして、彼をここまで突き動かす 原動はこれまでもこれからも無い だろう。


彼は今までの中で一番生き生きし ていた。


そして、筆を片手に言うのだ。


「俺は描いてやる。人が人以上に 苦しんでいる姿を。悶えている姿 を。後悔している姿を。」


青年はどんどんどんどんどんどん 曲がった方向へ堕ちて行きました 。


加速を更にかけて。


青年は今までにないほど、没頭し ていった。


やっと本当に美しいモノに出逢え たから。


人の本当の表情を描きたい。 人の裏切り、叫び、誇りをも無く させる哀れな姿。 その全ての揃った自分の地獄絵を 、描きたい。


いや、描いてみせる。


そう、人間の本性を、心の中心を 。


青年は絵を描く、描く。 描き続ける。


筆は強く押しつけすぎてぶっきら ぼうな形に変わった。 紙は青年の周りを埋め尽くした。 色は全てを染めた。 青年の手は止まることを忘れた。 目は見えない地獄を映し出した。


そうやって、いく年もいく年も過ぎていった。



之参


④「何でなんだ!」


何年も何年も描いては捨て描いて は捨て、地獄絵はいつになっても 完成しなかった。


文献も有名な地獄絵も妖怪絵巻も 、はたまたは絵本でさえも。


しかし、青年は自らが望むような 絵は手に入れられなかった。


あの苦しみもがく姿が写せない! あのこの世の物とは思えない顔が わからない!


どうすれば、 どうすれば描けるんだ!


そんな苦しむ青年の近くに茶を置 く物がいた。 かつて、青年が多数付き合ってい た女の内の1人、何時までも諦め ることなく青年を欲する女だった 。


「落ち着いて下さい。」 「もう俺に近づくんじゃねえ。」


何回も繰り返した短く鋭い拒絶。 それでも女は諦めることを知らな かった。


青年に何度も絵を描く事を止めろ と言った。が、青年はそんな一言 で止まるわけもなく、女を更に拒 絶した。


女にも周りにも何を言われようが 、青年は描く事を諦めなかった。



⑤ある日青年から男へと変わった 青年は女を殺した。


首を縄で絞めた。


苦しむ女の顔が目の前に来たとき


男は思った。


実際に苦しんでいる顔を 目の前で人がもがいている姿を見 ればいいと。


こんな美しい表情は目の前で見な いと描けるわけがない。


それから男は老若男女そして顔の 造りも構わずに人の苦しんでいる 姿を求め続けた。


射殺惨殺撃殺他殺刺殺銃殺撲殺絞 殺劇殺自殺溺殺毒殺編殺縛殺爆殺 虐殺瞬殺


色々な方法で殺した。 ────────── ──────


それから男は人を殺し続け、何十 年後ついに捕まり死刑を言い渡さ れた。


火炙りの刑。


しかし、


絵は完成していた。


人の血糊で描いた地獄絵はあまり の酷さに男と一緒に燃やされた。


燃やされる笑う男の顔は恐ろしい 地獄絵のようだった。


ひん曲がった男は幸せそうにこの世を去った。


終了〇

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