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男子高校生の憂鬱

「あ、明日はわたし、本当に出かけるからまっすぐお帰りなさいね」




 寝耳に水、だった。







+ + +







「よぅ。なんかシケた面してんなー。なんかあったか?」

「栃木。耳元で騒ぐな、うるさい」

「きゃー、今日はえらく不機嫌だな。奈々枝女史と何かあった?」

「なんでそこで奈々枝さんの名前が出てくるんだ」

「だって、お前の機嫌を左右できる人間なんてそういないだろ?だとしたら思いつくのは奈々枝女史くらいしかいないしなぁ」


 栃木が笑ってそう言うと、藤堂は、はぁ、と重たいため息を一つ吐いた。


「なぁ、ひきこもってた人がいきなり外にでかける理由ってなんだと思う?」

「え、奈々枝女史、どっかでかけるのか?」

「だから今日は来るな、って言われた」


 夏休みも残りわずかという日、いつものように夏課外に出席して、いつものように空き教室で栃木と藤堂は昼食をとっていた。

 藤堂は基本的にポーカーフェイスだ。顔のつくりがもともとそうなのか、それとも意識してまでのことなのかはわからないが、常に微笑んでいるように見える。笑顔で人と壁を作る、それが藤堂という男である。


 その藤堂が、だ。


 はた目にはわかりにくいが、どこかへにゃりとした表情をしているような気がして、こりゃあ面白くなってきた、とうきうきしたのは藤堂には秘密だ。どうせ、奈々枝女史関連だろうと思ってはいたが、本人から肯定されると、なんだか余計に面白い。


「ひきこもり、っつっても奈々枝女史の場合、理由はないやん。ひきこもってるのに。単にひきこもりたくて、でも普段は授業とかあってできないから、夏休みを理由にひきこもってる、ってだけだろ?だから別にひきこもりをやめるのにもそんな大した理由はないんじゃねーの?」

「そりゃ、そうなんだけど」


 言葉の上では納得を示しながらも、どこかすっきりとしない表情を見せる藤堂。こりゃ、つつきがいがある、と栃木がこっそり考えているのは勿論、内緒だ。


「そうなんだけど?」

「ひきこもりの理由はさ、確かに本能だとか言い切っちゃう人だけど、いちど言い出したことをそう簡単に投げ出す人でもないだろ?特にひきこもりのチャンスは今年が最後だ、とか言って気合入ってたし」

「まー、俺は藤堂ほど奈々枝女史に詳しいわけじゃないから、わからんが。でも、確かに変なとこ頑固そうだよな」

「そうなんだよ。頑固なんだよ、あの人。大抵のことはどうでもいいと思っているから、そうでもないんだけど、一度スイッチが入るとすげー頑固。しかもどこでスイッチが入るのかはわからないんだよね」


 藤堂はそういうと、今までで奈々枝女史がどういうところでスイッチが入ったのかを、つらつらと述べてみせた。栃木にしてみれば、よくそこまで奈々枝女史を見ているなぁと感心する。

 藤堂は、奈々枝女史が他人に興味がない、というけれど栃木にしてみればどっちもどっちだ。藤堂だって他人に興味なんてないだろうし、むしろ面倒だと思っている節すらある。

 しかも普段はそう口数も多い方ではないのに、奈々枝女史に関することではそりゃあ喋る、喋る。面白いことこの上ない。

 

 奈々枝女史ってあらためて考えるとすげー。

 本当にお前は高校生か、とつっこみたくなるような藤堂をどこにでもいる高校生らしくしたのは、間違いなく奈々枝女史だ。人と人のつながりっていうのはすごい、と思わざるを得ない。


「つか、気になるんなら聞けばいいじゃん。誰と会うのー、って。奈々枝女史のことだから別にふつうに教えてくれそうじゃない?」

「いや、どうだろうなぁ。あの人、案外そういうのこだわらないかと思いきや、プライベートなことはあんまり話したくないらしいんだよね。プライベートとオフィシャルをわける基準みたいなのもあるらしいんだけど、そこもよくわからん」

「へぇ、つくづくあの人もわかんない人だなあ。ま、でもひきこもりは半分お前が邪魔してるみたいなものだし、別に外出するのが嫌なわけではないんだろうから、外に出たくなってもおかしくはないんじゃないか?ひきこもりに飽きたのかもしれないし」

「だといいけどな」

「なにか心配ごとでもあるわけ?」

「いや、そういうんじゃないけど」

「けど?」


 藤堂は持っていたジュースのパックをつぶしながら、実感がわかないのかも、と言った。


「実感?」


 同じように栃木ももっていたジュースのパックをつぶす。昼食後のミルクティーは最高だな、と満足しつつ。


「奈々枝さんにも奈々枝さんの知り合いがいるってこと」

「はぁ?そりゃそうだろ。だって大学生なんだし」

「いや、そうじゃなくて。その奈々枝さんが大学生だってことは知ってるけど、なんかそれって想像上の話でしかなくってさ。僕らにとっての高校みたいなものだってこと忘れてたんだよねー」

「つまり、奈々枝さんは自分ひとりだけのものとか思ってたわけ?だっせーなぁ。どんだけだよー」


 けらけらと栃木が笑うと、うっせ、と藤堂がそっぽを向いた。随分ガキっぽい仕草だ。


「ま、なんにせよ、奈々枝女史に直接聞くしか方法はないんじゃねーの?」


 にやにやと提案する栃木に、藤堂は重いため息を一つ、ついてから、「やっぱりそうだよな」とだけ言った。


次の話でたぶん、いろいろ展開して収束に向かっていく予定です。もうしばらくお付き合いください。

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