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とある男子高校生の友人観察記 その1

 俺の友人である藤堂巽という奴は、天に愛された存在だと思う。

 眉目秀麗、文武両道という言葉がまさに相応しい。天は藤堂に二物どころか三物、いや五物くらい与えたに違いない。俺もそこそこできる方だが、藤堂とは次元が違う。

 要するに、上には上がいる、ってことだ。




 さて、頭もよくて、スポーツもよくできるとなれば、性格はどうか、ということになる。

 この点については注意が必要だ。なまじ、藤堂は頭が良い分、他人に自分がどう見えるか、きちんと理解している。それをわかったうえで行動しているから、彼の評判はすこぶるいい。しかし、それは藤堂の擬態に対する評価であって、藤堂自身の性格が良い、というわけではない。

 藤堂の性格についてはおいおいまた述べよう。


 とにかく、穏やかで誰にでも笑顔で接する藤堂は、みんなを平等に扱う。一部の例外はいるが、鉄壁の笑顔は他人が踏み込むのを許さない。穏やかな顔の下で何を考えているのかわからない、それが藤堂巽という男なのだった。




 おおっと、自己紹介が遅れて申し訳ない。

 俺の名前は栃木亮太。藤堂がその他大勢の扱いをしない貴重な例外なのでそこんとこヨロシク。ま、クサイ言葉でいえば親友というやつかもしれない。そんなこんなで、「そんな大勢」よりかは、藤堂を理解していると自負する俺が、ここ最近の藤堂に起きた異変について少し述べたいと思う。





 俺や藤堂の通うK学院は、ここらでは名の知れた進学校である。

 いまどき、男子校ってどーよ、と思うんだけど、OBらの強い反対があって、共学にはまだなっていない。異性がいたら勉強に集中できないというのが、共学反対の理由らしいけど、まったくアホらしい。

 K学の周りには、女子高や共学の高校がいくつもあって、合コンとかもしょっちゅうだ。しかも、「K学院生」というのはちょっとしたブランド扱いされているから、合コンにさえいけば、彼女なんてすぐにできる。

 だから、異性云々というのはあまり説得力のある理由とはいえない。


 うちの高校で誰がいちばんモテるか、といえばそれは当然藤堂だ。

 しかし、藤堂は、どんなに可愛らしい女の子に告白されてもOKしたことはない。

 不思議に思って、なぜ誰とも付き合わないのか、と聞いたことがある。

 藤堂の答えは、「僕はアクセサリーじゃない」だった。言いえて妙だ。


 藤堂に群がる女の子たちは、「眉目秀麗、文武両道な藤堂巽」という存在が欲しいのであって、それは生身の「藤堂巽」ではない。もともと人嫌いな気のある藤堂のことだから、告白されても嬉しいものではないらしい。


 そんな藤堂が、最近妙に嬉しそうなのである。

 いつも微笑んでいることが多いとはいえ、感情が伴っていることは少ない。それなのに、ここのところ藤堂は何か楽しくて仕方がない、という風なのである。これは大変珍しいことだ。



本来ならば、今は夏休み。男子高校生としては、ナンパしたりだとか、バイトして馬鹿やったりとかいろいろすることがあるはず。時間は一秒だって惜しい、はずなのに。うちの高校はみっちり課外が入っている。夏休みなのに、まったくもって夏休みではないのだ。藤堂に至っては授業自体がつまらないらしく、先週の中ごろまではちょっぴり不機嫌だったのだ。


 それが、なぜか。

 最近は課外が終わると同時にさっさと帰る。しかも課外終了が近づくとそわそわしているのがもろわかりだ。ま、そんなのに気づくのは俺くらいだろうけど。

 でも、気になるだろう?

 気になることはとことん!を合言葉に俺は藤堂の後をつけることにした。





 そうして聞こえてきたのは、怒声。


「帰れっ。わたしの邪魔をするな」

「暑いので早くなかに入れてください。熱中症になってまた倒れます。ちなみに今日の晩御飯はなんですか~」

 

 声のした方へ行くと、そこにいたのは間違いなく藤堂と見慣れない女の人だった。女の人は明らかに迷惑そうにしているのに、それをものともせず、強引に家の中に入っていく藤堂。面白くなりそうな予感がする。


 藤堂が家の中に入ったのを確認してから、俺は藤堂が入っていった家を訪ねることにした。




「りーん」

 古くはないけれど、木造アパートの呼び鈴はよく響く。呼び鈴の音にびっくりしている物音が聞こえ、すぐにどちら様ですか、という声が聞こえた。


「えーと、そこにいるあなたがおそらく邪魔だと思っている友人を引き取りに来た者です」

 すぐさまがちゃりとドアが開いて、

「さっさと引き取ってください」と藤堂を突き出された。


「お前、なんでこんなとこいるんだよ」

 不機嫌まっしぐらです、といわんばかりの藤堂。こんな自分の感情に素直な藤堂なんて見たことがないからおかしくてたまらない。

「だって、お前、最近おかしかったろ?だから尾行してみた」

 えへ、とでもいいそうな顔で言ってやれば、本気で嫌がられた。しかし、藤堂が再び口を開く前に、家主であろう女性が口を開いた。

「あなた方がどういう関係であろうとわたしには興味もないので、さっさと引き取ってかえってください」

「えー、だって、今日夕食は先生のところで食べてきます、って親に言っちゃったから、僕、家に帰っても食べるものないんですけど。そうしたらまた倒れますよ?それにこんなとこで話してたらおとなりさんにいろいろ筒抜けになりますけどいいんですか?」

「くっ、卑怯な。夕食なら迎えに来てくれた友達とでも食べにいけばいいだろう。ついでに男子高校生が何度も熱中症で倒れるな」

「そうしたいのはやまやまなんですが。それより、玄関開けたままだとせっかくクーラーつけてるのに、意味がなくなりますよ?」

「ええい、もうわかった。さっさと入れっ。その友人とかもだ!」


 こうして、俺はひきこもりたいという野望を持つ小西奈々枝女史と知り合いになったのだった。

ようやくひきこもりたい人の名前が出せました。やれやれ。

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