表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

とあるひきこもれてないひきこもりの華麗なる一日

短編でアップしていた「あるひきこもれてないひきこもりの華麗なる一日」を連載用に再アップしたものです。短編と同じですのでご注意ください。

 わたしは、ひきこもりだ。

 とはいえ、あまりひきこもれていない。

 残念ながら、わたしはひきこもり学に精通しておらず、ひきこもりにどのような種類があるのかわからないが、もしかしたら、わたしはひきこもりに分類されないのかもしれない。

 しかし、わたしは自身をひきこもりだと思っている。

 なぜならば、わたしはひきこもりたいからだ。




 ひきこもりである、というと、なぜ、とよく聞かれる。

 理由なぞない。

 おそらく、そういう性質なのだろう。

 他人が怖いというのもないし、いじめられていた過去がある、とかそういうわけではないのだ。

 

 ただ、ひきこもりたい。それだけ。





 それだけであるはずなのに、どうしてこうもひきこもれないのか。

 わたしは世間一般的に自由な時間がいちばんあると思われている花の大学生である。大学生活を心からエンジョイしている。エンジョイの仕方はどうあれ。

 わたしはひきこもりではあるが、外に出るのが怖いというわけでもなく、親に学費を支払っていただいている以上、授業にはきちんと出席する。2年までは教養などあまり興味のない授業もカリキュラムの関係で受講せねばならなかったが、3年の今となっては専門ばかりでいいので大変すばらしい。大学とはよいところだ。


 しかしながら、授業に出るためには外にでらねばならぬ。

 よって、授業のある日はひきこもれない。

 ひきこもることはわたしにとってある種の野望であるから、授業のある日は野望を達成できないということになってしまう。

 いたって、残念だ。



 授業は勿論、毎週開講されるものばかりであるから、基本的にはひきこもれない、という結果になる。

 そこで、長期休みにひきこもればいいではないか、とわたしは考えたのである。我ながらいい考えだ。







 ところが、だ。

 わたしのひきこもるという崇高な野望を阻止しようとたくらむ奴が現れた。


「帰れっ」

「いやですよー。それより早く中に入れてください。僕、暑いのに弱いので熱中症になりますよ」

「暑いのに弱いならなおさら帰れっ、というか来るなっ」


 わたしは玄関を前に、一人の男子高校生と対峙していた。いや、男子高校生を退治していた、という方が正しいかもしれない。

 何をとち狂ったのか、この男子高校生、毎日夕方私の家を訪れるのだ。あのとき、余計な仏心など出すのではなかったという後悔は今更だ。





 そもそものきっかけは、わたしがひきこもり生活を本格的に始めよう準備し始めたことによる。

 わたしも曲がりなりにも大学生であるから、夏休みであっても勉強はせねばならぬ。しかし、大学に行かなければならないということはなく、一人暮らしの家で十分勉強できる準備を整えた。


 次にしなければならないのは、食糧の調達である。

 ひきこもっている間に病気になり、病院にでも運ばれたらお話にもならない。そうならないためには、食糧は必須である。青物の野菜は熱を通して冷凍しておけばいいし、その他の食材もまた然り。一人暮らしを始めるにあたって、5人家族用の冷蔵庫を無理して買っておいてよかったとこんなとき思う。これで十分、保存できる。

 保存スペースが確保できたならば、買い物をせねば、ということであれこれ買い物に出かけ、大袋をいくつもさげて帰宅する途中だった。彼が青い顔をしているのを見かけたのは。



 わたしはその日、いつになく気分が良かった。

 それはそうだ。ようやくひきこもれると思っていたのだから。

 だから具合悪い人にちょびっとぐらい親切にしてやろう、という気分になったのだ。


 わたしは、男子高校生に声をかけた。

 男子高校生がいたのは小さな公園のベンチで日が燦々とさしてる。大学の夏休みがお盆に始まることを考えれば、季節は当然、夏。しかも暑い。

 少年と青年の間くらいの男子高校生は、本当に具合が悪そうだった。だから、手に持っていたゼリーを作るつもりで買っておいたりんごジュースのペットボトルを彼に渡し、少しだけ待っているように伝えた。とりあえず両手に持っている荷物をどうにかせねばならなかったし、家はすぐそこだったからだ。

 ダッシュで家に入ると、食材をそのまま玄関において、そのまままた外に出る。買い物に行く前にクーラーを入れてきたから、食材がすぐに腐るということはあるまい。


 わたしが再び、公園に戻ったとき、彼はまだそこにいて、ぼんやりとりんごジュースを飲んでいた。

 こりゃどうしたものか、と思って、救急車呼ぼうか、と聞いたら首を横に振るので、とりあえずうちに来い、と連れて行くことにした。彼の来ている制服から、彼が近隣の高校生であることがわかっていたので、救急車で運ばれるということは彼にとって恥ずかしいことかもしれぬ、と思ったためだ。わたしはこのときの自分の判断を呪いたい。そんな親切せずに、さっさと救急車に乗せてしまえばよかったのに。







 それからだ。

 その男子高校生に付きまとわれるようになったのは。


 彼は近隣でも有名な進学校に通っていて、毎日課外授業があるらしい。その帰りになぜかうちに来る。そうしてご飯を催促するのである。ちょっと図々しすぎやしないか。


 



 男子高校生は巽と名乗った。苗字なのか名前なのかは知らない。そこまでの興味はない。ただわかるのは、巽によってわたしの野望は達成できない、というわけだ。巽は進学校に通っているというだけあって、驚くほど頭の回転が良かった。

 わたしがなぜ、巽にご飯を食べさせなければならないのか、とひそかに憤慨し、しかしそれを直接言ったところで、なんだかんだと言いくるめられてしまうに違いない、と搦め手で、

「親御さんが心配なさるだろう」

 と、言ったときも、

「あ、親には先輩からいい家庭教師の先生を紹介してもらって、そこで勉強しつつ、ご飯ももらっていると言っています。そうだ、それで月謝も親からもらってますので明日渡しますね」

 と、さらりと交わされ、

「金はもらえないよ」

 と、言ったときも、なんだかんだとなぜか受け取る羽目になっていた。


 わたしもそれなりに頭のいい方だと自負していたが、次元の違う人間とはどこにでもいるものだ。




 そうして、今日も。

 りーん、という心臓に悪い音がする。ドアチャイムの音だ。しかも奴はそれだけでなく、ドアをガンガン叩くものだからうるさくて仕方がない。そんなことをしたら近隣の迷惑であるというのに。

 いや、もちろん、彼はそれが近隣の迷惑になるということを知っている。それでもなお、そのような行為に出るのは、そうすればわたしが彼のために玄関を開けざるを得ないということを知っているからだ。顔はきれいなのに、なんて奴だ。


 そうして奴の思惑通り、わたしは玄関を今日も開けてしまう。

 わたしのひきこもり生活はどこに行った?


見切り発車ですが、頑張ります。そんなに長くはならないんじゃないかと思いますのでよろしくお付き合いくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ