第8話:チョコレートドラゴン
スイーツダンジョンの奥は、さらに甘い香りが強くなっていた。
壁はビターチョコみたいな色になり、床にはカカオ色の石が並んでいる。
「なんかチョコの匂いする」
私は辺りを見回した。
配信コメントも流れている。
「ほんとだ」
「チョコダンジョンじゃん」
ソウタは剣を持ったまま言う。
「警戒しろ」
「奥はボスの可能性が高い」
私はうなずいた。
肩の上では、ぷるぷるプリンが揺れている。
ラズベリーゴーストがふわふわ漂い、ショートケーキフェアリーは前を飛んでいた。
そのフェアリーが突然止まる。
「?」
前方に、大きな扉があった。
チョコレート色の扉。
中央にはドラゴンの模様。
コメント欄
「ボス部屋?」
「それっぽい」
私は少し緊張する。
「行くよ」
扉を押す。
ゴゴゴ……
重い音とともに扉が開いた。
⸻
部屋は広かった。
天井は高く、中央にはチョコレートの山のような塊がある。
「……?」
その塊が、ゆっくり動いた。
バキッ。
チョコが割れる音。
そして――
翼が広がった。
小さなドラゴン。
体は完全にチョコレートでできている。
目はカカオ色に光っている。
チョコレートドラゴン(幼体)
コメント欄が爆発する。
「ドラゴン!?」
「初心者ダンジョン!?」
私は目を輝かせた。
「かわいい!」
ソウタが即ツッコむ。
「敵だ」
ドラゴンが羽ばたく。
ドン!
チョコの破片が飛ぶ。
戦闘開始。
⸻
ソウタが前に出る。
「ミユ、下がれ」
「了解!」
チョコレートドラゴンが突進する。
ソウタが横に跳ぶ。
剣が閃く。
ガン!
チョコの鱗が割れる。
コメント
「いい動き」
「剣士つよい」
ドラゴンが口を開く。
次の瞬間――
チョコレートブレス。
ドロッとしたチョコの炎。
「うわ!」
私は転がって避ける。
床がチョコで固まる。
「動きにくい!」
コメント
「ギミックか」
「チョコ床w」
そのとき。
ショートケーキフェアリーが光った。
小さな光の粉が舞う。
床のチョコが少し消える。
「助かった!」
ソウタがドラゴンの背後に回る。
剣を構える。
「ミユ!」
「うん!」
私は配信しながら叫ぶ。
「みんな応援して!」
コメント欄
「がんばれ!」
「倒せー!」
ソウタが踏み込む。
剣が光る。
一閃。
チョコの翼が割れる。
ドラゴンが吠える。
HPが残り少し。
そのとき――
ドラゴンの体からキラキラ光る素材が落ちた。
コメント欄
「素材!」
「また行くのか」
私は迷わず走った。
「取る!」
ソウタが笑う。
「やっぱり行くのか」
私はアイテムを拾う。
【高級カカオ】
その瞬間。
ソウタの最後の一撃。
剣がドラゴンを切り裂く。
ドン!!
チョコレートドラゴンが砕け、光になった。
静寂。
そして――
大量の素材が落ちる。
コメント欄が大爆発する。
「勝った!」
「ドラゴン撃破!」
私は笑顔で言った。
「やったー!」
システムメッセージが表示される。
【チョコレートドラゴン討伐】
【新レシピ解放】
チョコレートドラゴンケーキ
コメント
「新レシピ!」
「それ絶対すごいやつ」
私は配信画面を見る。
視聴者数。
さっきまで数百だったのに――
12,000人
「え!?」
私は思わず叫んだ。
「1万人超えてる!!」
コメント
「バズったw」
「ドラゴン効果」
そのとき、コメントが流れる。
タロー
「初心者ダンジョンでドラゴン倒す配信は初めて見た」
コメント欄
「また来たw」
私は笑った。
「また見てる!」
ソウタは剣を収める。
「有名人に気に入られてるな」
私は肩のモンスターたちを見る。
プリン。
ゴースト。
フェアリー。
そしてダンジョン奥を見る。
「これでチョコスイーツ作れるね!」
ソウタは呆れた顔で言った。
「お前は本当にそれだな」
配信コメントはまだ止まらない。
ミユの配信は――
今、少しずつ
人気配信になり始めていた。




