第5話:ミユの初配信と、無口なスイーツ職人
ベリーフォレストから街に戻る頃には、空は夕焼け色に染まっていた。
石畳の通りにランプが灯り始め、街全体が少しだけ落ち着いた雰囲気になる。
私はバッグを開いて中を確認した。
「今日の戦利品!」
いちご果実。
ラズベリー。
ベリー素材。
そして――
キラキラと輝く一つの果実。
極上ベリー。
「これで絶対すごいスイーツ作れるよね!」
ソウタは軽く肩をすくめる。
「作れる場所があればな」
ちょうどそのとき、通りの先に大きな看板が見えた。
スイーツ工房
窓からは甘い香りが漂っている。
「ここだ!」
私は勢いよく扉を開けた。
カラン、とベルが鳴る。
店内には大きなキッチン設備が並び、プレイヤーたちが料理をしていた。
ケーキ。
パフェ。
クッキー。
まるで本物のパティスリーみたいだ。
「クラフト施設だな」
ソウタが周囲を見渡す。
私はワクワクしていた。
「よーし、作ろう!」
そのとき、ふとメニュー画面に気づく。
新しい機能が表示されていた。
配信モード
「……あ」
「どうした」
「このゲーム、配信できるみたい」
説明を開く。
【配信モード】
プレイヤーはゲーム内から配信を行うことができます。
「面白そう!」
私はすぐにボタンを押した。
【配信開始】
画面の端にコメント欄が表示される。
タイトルを入力。
『初心者ミユのVRスイーツ配信!』
そして――
配信スタート。
⸻
最初は誰もいない。
コメント欄は静かだった。
私は少し緊張しながら話す。
「こんにちはー」
肩の上で、ぷるぷるプリンが揺れる。
「今日はベリーフォレストで素材を集めてきたので、スイーツ作りたいと思います!」
コメントが一つ流れる。
「お」
「配信してる人いた」
私はちょっと嬉しくなる。
「見てくれてる人いる!」
コメント
「プリンかわいい」
「モンスター?」
私は肩を指差す。
「この子はぷるぷるプリンです」
ぷる。
プリンが揺れる。
コメント
「癒し枠だ」
「かわいいw」
私は材料をテーブルに並べる。
いちご果実。
ラズベリー。
そして――
極上ベリー。
コメント欄が一瞬止まった。
「え?」
「それ極上ベリー?」
「レア素材じゃん」
私は首をかしげる。
「そうなの?」
ソウタが横から言った。
「ボス戦の横で拾ったやつだ」
コメント欄が爆発する。
「は!?」
「ボス中に!?」
「それ今日タローの配信で見たやつじゃね?」
私は気づいていない。
ただ楽しそうに言った。
「それで今日はこれを使ってスイーツ作ります!」
コメント
「作るのミユ?」
「料理スキルあるの?」
私は笑った。
「いえ!」
そして横を指差す。
「作るのはこの人です!」
カメラがソウタを映す。
黒髪の剣士が静かに立っている。
コメント
「誰w」
「彼氏?」
「職人?」
ソウタはため息をついた。
「なんで俺が配信されてるんだ」
「だって作れるでしょ?」
コメント
「職人きたw」
「無口キャラだ」
ソウタはキッチンに立った。
素材を並べる。
極上ベリー。
ラズベリー。
いちご果実。
クラフト画面が開く。
候補レシピ。
その中に一つ。
極上ベリーパフェ
ソウタが小さく言う。
「これだな」
クラフト開始。
コメント欄が静かになる。
ソウタは無言で作業を進める。
ベリーを刻む。
クリームを重ねる。
グラスに盛り付ける。
エフェクトが光る。
キラキラとした甘い香りが広がる。
そして――
完成。
【極上ベリーパフェ】
私は思わず叫んだ。
「すごーい!!」
コメント
「完成したw」
「うまそう」
「職人じゃん」
私はスプーンを取る。
「食べていい?」
ソウタはうなずいた。
私は一口食べる。
甘さが口いっぱいに広がる。
その瞬間。
【30分間:幸運+10】
「えっ!?」
コメント
「バフ料理だ!」
「強いw」
「初心者配信じゃないw」
私は笑って言った。
「これすごい!」
その頃。
別の場所。
ある配信者がその配信を見ていた。
「……ん?」
それは、あの男。
タロー。
彼は笑った。
「この子……」
配信チャットに書き込む。
「それボス横でベリー拾ってた子じゃね?」
コメントが一気に流れる。
ミユはまだ知らない。
自分の配信が、
少しずつ広がり始めていることを。




