第4話:配信者タローと極上ベリー
ベリーフォレストの奥へ進むほど、森はどんどん色濃くなっていった。
地面には赤、紫、青のベリーが落ちている。
空気にはほんのり甘い香り。
「ここ……すごい」
私は思わず周りを見回す。
「ベリー天国だよ」
肩の上では、ぷるぷるプリンがぷるぷる揺れている。
その横でラズベリーゴーストがふわふわ漂っていた。
「ぷる!」
「落ちてるの全部素材かな?」
「たぶんな」
ソウタは周囲を警戒しながら歩いている。
「ただし奥に行くほどモンスターも強くなる」
「了解です」
私は小さく敬礼した。
そのときだった。
――ドドドドド!!
遠くから戦闘音が聞こえる。
「?」
ソウタが足を止めた。
「誰か戦ってる」
森の奥の開けた場所から、光のエフェクトが見える。
「行ってみよう」
私たちは木々の間を抜けて、音のする方向へ向かった。
⸻
そこには、すでに何人かのプレイヤーが集まっていた。
中央では、大きなモンスターが暴れている。
体は巨大なベリーの塊。
赤と紫が混ざったゼリーのような体。
ベリーキングスライム
「ボスだ」
ソウタが小さく言った。
その周りで、一人のプレイヤーが派手に戦っている。
剣を振り回しながら叫んでいた。
「はい!皆さん見えてますかー!
これがベリーフォレストの中ボス!」
頭の上には配信マーク。
「おおー!」
周りのプレイヤーが少し距離を取って見ている。
私は小声で聞いた。
「……誰?」
ソウタが答える。
「あれは有名配信者」
「え?」
「タロー」
私は思わず目を見開いた。
⸻
タローは剣を振りながら叫ぶ。
「フルダイブ太郎の冒険チャンネル!
今日は初心者エリアのボス攻略だ!」
配信ウィンドウが空中に表示されている。
コメントが流れている。
「www」
「また初心者狩りしてる」
「タロー来てたのか」
タローは笑いながら戦っていた。
「おっと危ない!」
ベリーキングスライムが体を震わせる。
ドン!!
地面にベリーの衝撃波。
プレイヤーたちが後ろに下がる。
「うわ!」
私は思わずソウタの後ろに隠れた。
「近すぎる」
「少し下がろう」
私たちは木の陰に移動した。
そのときだった。
ラズベリーゴーストが突然ふわっと飛び出した。
「あっ!」
ゴーストは、ボスの周りをくるくる回る。
そして――
キラッ。
地面の奥で光る何かを見つけた。
「?」
私は目を凝らす。
草の間に、輝くベリー。
普通のベリーよりも、明らかに光っている。
「ソウタ」
「なんだ」
「あれ」
私は指差した。
ソウタも気づく。
「……レア素材」
その瞬間、システム表示。
極上ベリー
私は思わず声を小さく上げる。
「やばい!」
「取りに行くか?」
「行く!」
私は走り出した。
「ミユ!」
ソウタが慌てて追う。
⸻
戦闘のすぐ横。
ベリーキングスライムが暴れている。
ドン!!
衝撃波。
「ひゃ!」
私は転びそうになりながら、ベリーに手を伸ばした。
その瞬間――
スライムの影が落ちる。
「危ない!」
ソウタが叫ぶ。
巨大なベリーの塊が落ちてくる。
そのときだった。
ぷる!
ぷるぷるプリンが跳ねた。
ラズベリーゴーストも光る。
一瞬だけ、ボスの動きが鈍る。
「今だ!」
ソウタが飛び込んだ。
剣が閃く。
ガン!
スライムの攻撃を弾く。
「早く!」
私はベリーを掴んだ。
【極上ベリー ×1 入手】
「取れた!」
その瞬間。
タローがこちらを見た。
「おお!?」
配信ウィンドウがミユを映す。
「なんだ今のプレイヤー!?
ボスの横からレア素材拾っていった!」
コメントが一気に流れる。
「誰だw」
「初心者?」
「度胸やばい」
私は気づいていない。
ただベリーを見て喜んでいた。
「すごい……キラキラしてる」
ソウタは呆れた顔をしている。
「命がけだぞ今の」
「でも取れた!」
そのとき――
ベリーキングスライムのHPがゼロになる。
ドーン!!
巨大な光。
ボスが消えた。
大量のベリー素材が散らばる。
プレイヤーたちが歓声を上げた。
タローはカメラに向かって言う。
「いやー今の見た!?
あの女の子、ボス戦中にレア素材取りに来た!」
コメント
「根性すごい」
「スイーツガチ勢?」
「プリン連れてるの可愛い」
タローは笑った。
「面白いプレイヤーいるなこのゲーム」
その頃。
私は気づいていない。
肩でプリンが揺れている。
ラズベリーゴーストもくるくる回る。
私は極上ベリーを見て、満面の笑みだった。
「これで絶対すごいスイーツ作れるよ!」
ソウタはため息をつく。
「……お前ほんとブレないな」
ベリーフォレストの奥で、
ミユの名前はまだ知られていない。
でも――
小さな配信の中で、
「ボス横レア素材少女」
として、少しだけ話題になり始めていた。




