第3話:ラズベリーゴーストと甘い森
ベリーフォレストの奥へ進むにつれて、森の空気が少しずつ変わっていく。
木々は高くなり、葉の間から差し込む光が地面にまだら模様を作っていた。
足元には赤や紫の小さな実が落ちていて、ほんのり甘い香りが漂っている。
「なんか……森全体がデザートみたい」
私は思わずそうつぶやいた。
肩の上では、ぷるぷるプリンが嬉しそうに揺れている。
「ぷる!」
「そうだよね、美味しそうだよね」
「食うなよ」
後ろからソウタが冷静に言った。
私は振り返る。
「え、でもこれ絶対スイーツ素材だよ?」
「まずは敵を確認してからだ」
ソウタは剣を軽く握り直し、周囲を警戒する。
森の中は静かだけれど、完全に安全というわけではない。
時々、草むらが小さく揺れている。
初心者エリアとはいえ、油断は禁物だ。
⸻
しばらく歩くと、小さな開けた場所に出た。
中央には古い木の切り株。
その周りに、紫色の小さな実がたくさん落ちている。
「ラズベリー?」
私はしゃがみ込んだ。
手に取ると、ほんのり甘酸っぱい香りがする。
「これ絶対おいしいやつ!」
「たぶん素材だな」
ソウタも近くに来る。
その瞬間だった。
ふわっ……
切り株の影から、何かが浮かび上がった。
「……?」
それは半透明の小さな影だった。
ふわふわと空中に浮かび、体の中心には赤いラズベリーの粒がいくつも集まっている。
幽霊のような姿。
でも――
どこか可愛い。
「……モンスター?」
ソウタが静かに言う。
ラズベリーゴースト
そのモンスターは私たちを見て、ふわっと近づいてきた。
ぷるぷるプリンが肩で揺れる。
「ぷる!」
ラズベリーゴーストも、ゆらゆら揺れた。
まるで挨拶しているみたいだ。
「……あれ?」
私は首をかしげる。
「敵じゃないのかな」
ソウタは剣を構えたまま言う。
「まだ分からない」
その瞬間。
草むらの奥から、別の影が飛び出した。
「!」
いちごスライムが三匹。
ぴょんぴょん跳ねながら、こちらに向かってくる。
「ミユ、下がれ!」
ソウタが前に出た。
剣が閃く。
シュッ!
一匹目が弾けて、赤い光になって消える。
二匹目が跳ねる。
ソウタが体をひねり、剣の柄で弾く。
パシッ!
最後の一匹がミユに向かって跳んだ。
「わっ!」
私は思わず後ろに下がる。
そのときだった。
ふわっ――
ラズベリーゴーストが前に出た。
いちごスライムの前に浮かび、体を揺らす。
すると、いちごスライムが一瞬止まった。
その隙を逃さず――
ソウタの剣が振り下ろされた。
パシン!
三匹目も消える。
静かな森に戻る。
私は大きく息を吐いた。
「びっくりした……」
ソウタは剣を収める。
「初心者エリアでも油断するな」
「うん……」
そのときだった。
ふわふわ浮いていたラズベリーゴーストが、ゆっくり私の前に来る。
「……?」
私は手を伸ばした。
ラズベリーゴーストは逃げない。
むしろ近づいてくる。
その体から、ほんのり甘酸っぱい香りがする。
「かわいい……」
ぷるぷるプリンも嬉しそうに揺れる。
「ぷる!」
ラズベリーゴーストは、私の周りをくるくる回った。
そして――
肩の上に、ちょこんと乗った。
「え?」
その瞬間、画面にシステムメッセージが浮かぶ。
【ラズベリーゴーストがミユになつきました】
【テイム成功】
「ええ!?」
私は思わず声を上げた。
「また仲間になった!」
ソウタが少し驚いた顔をする。
「……早いな」
肩には
ぷるぷるプリン。
ラズベリーゴースト。
二匹のスイーツモンスター。
私は思わず笑ってしまう。
「なんか、パーティーっぽくなってきたね!」
ソウタは苦笑した。
「まだ二人と二匹だ」
「でもさ」
私は森の奥を見る。
木々の向こうには、まだ見ぬモンスターと素材がたくさんある。
「この森、絶対もっとおいしい素材あるよ」
ぷるぷるプリンが揺れる。
ラズベリーゴーストもふわふわ回る。
ソウタは剣を肩に担いだ。
「……じゃあ探すか」
ベリーフォレストの冒険は、まだ始まったばかりだった。




