第2話:ぷるぷるプリンと、はじめての戦闘
「ぷる……」
カウンターの横で、小さなプリン型モンスターがぷるぷる揺れている。
カラメル色の頭に、丸い瞳。
ぷるんとした体が、光を受けてつやつやと輝いていた。
「……かわいい」
私は思わずつぶやいた。
目の前にいるのは、さっき店主さんが教えてくれたスイーツモンスター――
ぷるぷるプリン。
「ぷる!」
プリンは私を見上げて、ちょん、と小さく跳ねた。
「うわっ!」
私はびっくりして一歩下がる。
するとプリンもびっくりしたのか、ぷるんと震えて止まった。
その様子があまりにも可愛くて、私は思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ」
そっと手を伸ばしてみる。
ぷるぷる……
プリンは少し迷うように揺れたあと、私の手に体を寄せてきた。
「……!」
ひんやりして、やわらかい。
まるで本物のプリンみたいだ。
「なついてるな」
後ろからソウタの声がした。
振り返ると、彼は腕を組んでその様子を見ている。
「ほんとだ……」
私はプリンをそっと抱き上げる。
ぷるん。
プリンは私の腕の中で、気持ちよさそうに揺れた。
店主の老人が、カウンターの奥から微笑む。
「その子は人懐っこいからね」
「仲間にできますか?」
私が聞くと、老人はゆっくりうなずいた。
「初心者にはちょうどいいモンスターだ。
正式にテイムすれば、冒険の相棒になる」
「テイム?」
ソウタが聞き返す。
「モンスターを仲間にすることだよ。
ただし、完全に仲間にするには条件がある」
「条件?」
老人は窓の外を指差した。
「街の外の森に行きなさい。
そこで最初の戦闘を経験すること」
私は思わずソウタを見る。
「戦闘……」
ソウタは少しだけ笑った。
「ようやく冒険らしくなってきたな」
⸻
店を出ると、街の空気が一気に広がる。
石畳の道を歩く冒険者たち。
武器を背負ったプレイヤー。
屋台の甘い香り。
その先に、街の門が見える。
門の向こうには――
広がる森。
「ベリーフォレスト」
ソウタが言った。
「初心者エリアだ」
「名前からして美味しそう」
「モンスターも甘い系らしい」
「最高じゃん」
私は笑う。
肩の上で、ぷるぷるプリンが嬉しそうに揺れた。
⸻
森に入ると、空気がひんやり変わった。
木々の間から差し込む光。
草の匂い。
遠くで聞こえる小さな鳴き声。
私は思わず深呼吸する。
「すごい……」
ゲームなのに、完全に森だ。
地面の感触も、風も、匂いも本物みたい。
「ミユ」
ソウタが前を指差した。
「モンスター」
見ると、木の根元で小さな何かが跳ねている。
赤くて丸いゼリーみたいな生き物。
「……いちご?」
そのモンスターは、こちらに気づくとぴょんと跳ねた。
いちごスライム。
ぷるんとした体の中に、小さな種が浮かんでいる。
かわいい。
でも――
「敵だ」
ソウタが剣を抜いた。
シャッ、と鋼の音が響く。
私は思わず息を飲む。
「ソウタ……」
「下がってろ」
いちごスライムが跳ねる。
その瞬間――
ソウタが一歩踏み込んだ。
剣が空気を切る。
パシッ!
いちごスライムが弾け、赤い光になって消えた。
そして地面に落ちるアイテム。
いちご果実 ×1
「……!」
私は駆け寄る。
「いちごだ!」
「素材だな」
私はそれを手に取る。
ほんのり甘い香り。
「これでスイーツ作れる?」
「たぶんな」
そのときだった。
肩のぷるぷるプリンが突然、ぴょんと跳ねた。
光が体を包む。
「え?」
システムメッセージが浮かぶ。
【ぷるぷるプリンがミユになつきました】
【テイム成功】
「……!」
私は思わず声を上げる。
「仲間になった!」
ぷるぷるプリンは嬉しそうに跳ねて、私の肩に乗った。
「ぷる!」
ソウタが小さく笑う。
「よかったな」
私はプリンをそっと撫でた。
「よろしくね」
森の奥では、まだ見ぬモンスターたちが動いている。
スイーツ素材。
冒険。
仲間。
私たちのVRMMOの旅は、まだ始まったばかりだ。




