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◆某オカルト月刊誌 特別対談記事


2024年8月号掲載

『現代に生きる霊媒師の苦悩とその真実』

 〜編集部取材班と霊媒師Mの特別対談〜


――――――――――――――――――

これは現代の日本に存在する数少ない霊媒師Mとの対談を記録したものである。

編集部にM氏を招き、現代社会における霊の在り方、そして霊媒師という職業の知られざる実体について深く切り込んだ。

――――――――――――――――――


編集部の応接室に姿を見せたM氏は黒地の和装に身を包み、胸元から大きな数珠をのぞかせていた。

数々のお祓いに携わってきた三重県出身のM氏はオカルト界隈でも名の知れた霊媒師だ。

長年に渡って怨霊と向き合ってきた者ならではの異様な雰囲気を漂わせている。

M氏はソファーに腰を下ろして湯呑みのお茶を一口すすると「なんでも聞いてちょうだい」と気さくに促してくれた。


編集部:

「本日はお忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございます。

 M先生は今でも数多くの除霊をこなされていると伺っております」

 

M氏:

「やだわぁ先生だなんて。

 ただの変わり者のおばちゃんなんだから、もっと気楽に接してちょうだい。

 だけど、今は肝試しシーズンだから相談が増えてるのも事実よ。

 恐れ知らずの若者たちがとんでもないところに入っちゃうもの。

 廃病院や廃トンネル、おまけに立ち入り禁止の樹海にまで。

 どうして危険をかえりみず、わざわざ危ない心霊スポットに行っちゃうのかしら?

 私にはまったく理解できないわ」

 

編集部:

「具体的にはどんな事例が多いのでしょうか?」

 

M氏:

「そうねぇ……最近だと3つほどあったかしら」


そう言うと、M氏は指を折りながらひとつひとつ語りはじめた。


M氏:

「ひとつ目は心霊スポットとして有名なトンネルに入った女子大生。

 よせばいいのにトンネル内で大騒ぎしながらスマホで写真を撮ったみたい。

 心霊写真を撮ってSNSに投稿しようと計画してたんだって。

 そしたらホントに1枚だけ撮れちゃって。

 帯状に光るオレンジ色のオーブの写真が1枚。

 その日から幻聴が聞こえるようになり写真を消そうとしても、なぜか消せなかったらしいの。

 消しても次の日には写真アプリに戻ってると。

 彼女は元々霊感があった子なんだけど、日に日に体調が悪化して藁にもすがる思いで私に相談してきたわ。

 お祓いをしたら幻聴もピタリと止んで写真も消せたから良かったんだけどね」

 

編集部:

「スマホに干渉してくるなんて現代的な霊ですね。

 ふたつ目は?」

 

M氏:

「ふたつ目は自撮り写真の背景に写り込んだ地縛霊。

 ある女性がSNSに上げた自撮り写真なんだけど、そこに人影が映り込んでるってコメントが相次いだらしいの。

 最初は気のせいだと思ってたらしいんだけど、写真に映る人影が日を追うごとに彼女の方を向くようになって、最後には首を傾けて彼女の顔を覗き込んでる格好になってたわ。

 怖くなって私に相談に来たからお祓いしたんだけど、人影は生前、周囲に気づかれないよう誰かの写真を背景と一緒に撮るのが好きだった霊の性質によるものだった。

 得体の知れない視線もようやく消えたと彼女は泣きながら喜んでたわ」

 

編集部:

「自撮り写真にですか……では、最後の事例は?」

 

M氏:

「みっつ目は病棟に潜んでた怨霊。

 怨霊ってより怪異って表現の方が近いかも。

 これは特に深刻だった。

 古くから日本に伝わる胎児の怪異なんだけど、こいつが看護師さんに取り憑いてしまって、看護師さんを母親だと思い込んで離れないの。

 看護師さんの体調は日に日に悪化して、お腹だけが異様に膨らんでいく膨張感に悩まされていたわ。

 一歩間違えれば、その看護師さんは一生赤ちゃんを妊娠できない体になるところだった。

 今でも彼女は定期的に私のお祓いを受けてる。

 未だに赤ん坊のすすり泣く声に悩まされてるみたいだから。

 もう少し早く私に相談してくれたら状況も違っていたと思うんだけど」


談話室の空気が一瞬、重くなる。

記録係の編集部員がペンを走らせる手を止めたほどだ。

 

編集部:

「あ、ありがとうございます。

 先生は連日そうした危険な霊と対峙されて怖くないんですか?」

 

M氏:

「……え?

 そりゃ本音をいえば私だって怖いわよ。

 怖くないなんて言ったら嘘になる。

 相手は得体の知れない存在だし理屈も通じない。

 取り憑かれたら身体を蝕まれ、精神を狂わされる。

 考えただけでゾッとするでしょ?

 だけど、本当に恐ろしいのはそういう霊の類いじゃないの」


編集部:

「……と、おっしゃいますと?」

 

M氏:

「霊はね。

 まだどこかに情を残してるの。

 未練、後悔、悲しみ、怒り。

 そうした情が霊をこの世に留まらせる。

 だから霊の動機はまだ人間らしいのよ。

 対峙すれば相手を理解し、鎮めることができる。

 だけど、一番怖いのは完全に霊に取り憑かれてしまった人間。

 霊によって自我を失い、狂ってしまった彼らはもう話の通じる相手じゃない。

 何をしでかすか分からないし常識も倫理も通じない。

 もちろん祓うこともできないわ。

 霊との対峙はまだ恐怖の範疇だけど、狂ってしまった人間との対峙は恐怖の先にある底なしの絶望なのよ」

 

編集部:

「……先生が霊よりも人間の方が怖いとおっしゃる理由が少し分かったような気がします」

 

M氏:

「分かってもらえたなら良かったわ。

 あなたたちも気をつけてね。

 異変が起きたらすぐに信頼できる霊媒師に相談すること。

 もちろん、私でもいいわよ?

 お祓い料金は割引いてあげるから」


M氏は胸元の数珠をコロコロいじりながら笑顔で続けた。


M氏:

「ただ、最近は霊媒師を詐欺師呼ばわりするインフルエンサーが増えてるでしょ?

 YouTubeやSNSで好き放題言ってるのをよく見かけるもの。

 幽霊なんていない。

 科学的にも証明されていない。

 霊媒師は弱った人間から金を巻き上げる詐欺師だって。

 まあ、実際に詐欺師もいるから、それが問題の根底にあるのは否定しないけど。

 ただ、私たちのように本物の霊媒師もいる。

 そして実際に霊に苦しめられ助けを求めている人たちがいるのも事実。

 そういう人たちがネットで詐欺師呼ばわりされている私たちの話を聞いて、相談することを躊躇する。

 本当に助けが必要な人たちが『どうせ詐欺だろう』と頼るのが遅れてしまう。

 早く尋ねて貰えれば元に戻れたはずの人生が手遅れになってしまう。

 そういう状況になりつつあるのが本当に怖いわ。

 信じない人たちが、ありもしないことを吹聴するせいで助かる人も助からなくなってしまうから」

 

編集部:

「非常に辛い状況ですね……」

 

M氏:

「ええ、そうね……

 霊感なんて誰しもが持っているわけじゃないし。

 見えないものを見えないと否定するのは簡単だけど、見えないと信じていたものがある日突然現実に現れた時――その人はどうする?

 手遅れになってから初めて助けを求める。

 本当に切なくなるわ」

 

編集部:

「ちなみに、先生のような本物の霊媒師は日本にどれくらい残ってるのでしょうか?」

 

M氏:

「……ほとんど残っていない、というのが現状。

 霊的な存在を憑依させるだけの霊媒師ならまだいると思うけど、除霊ができるとなると話は別。

 私はたまたま霊感が強くて祖父からこの道を受け継いだだけに過ぎないし。

 霊媒師の家系は多くが途絶えてしまったから」


M氏は小さく肩をすくめ、お茶をすすった。

その目元にはどことなく哀愁の色が宿っていた。

 

編集部:

「現代で霊媒師の力を受け継ぐのは、そんなに難しいことなのですか?」

 

M氏:

「霊媒師の力は血筋や才能だけでは成り立たない。

 それに加えて壮絶な修行と霊との対峙を繰り返す必要がある。

 心身ともに消耗する日々が永遠に続くの。

 そうまでしても周囲からは詐欺師と蔑まれるのよ?

 まったくもって割に合わない職種だわ。

 それを現代の若者に求めるのは酷だろうし」

 

編集部:

「やはり、このままでは日本の霊媒師は淘汰されてしまうのでしょうか?」

 

M氏:

「いえ、そうでもないと思っています。

 実は私たちのような本職の霊媒師でさえ頼りにする、とてつもない霊媒師の家系がひとつだけ残ってるんです。

 彼らがどうやってその力を継承しているのか私にも分かりません。

 ただ、地方の霊媒師が対処できない怨霊に遭遇してしまった時、最後の相談先があるのも事実。

 彼らが日本社会の霊的バランスを保ってると言っても過言ではないわ」

 

編集部:

「そんな家系があるなんて知りませんでした。

 ぜひお名前をお伺いしたいのですが」

 

M氏:

「……じゃあ絶対に口外しないという約束で」

 

我々の問いかけに対し、M氏はしばらく黙り込んだあと耳元でその家系の苗字を囁いた。


M氏:

「愛知県で代々続く●●家。

 あそこは別格よ。

 正直、私も深入りしたくない家系だわ」

 

M氏の口にしたその苗字は我々取材班でさえ聞いたことのない苗字だった。

さらにM氏の瞳の奥に霊に対する恐怖とはまた違う、底知れない畏怖の念がはっきりと見て取れた。

この対談の後、我々は●●家について調査をはじめたが不思議となにも情報を掴めず、まるで日本社会が彼らの情報を遮断しているようにさえ感じた。

引き続き並行して調査を進めていきたい。

 


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