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◆ネット怪談スレッド『ノイズ』 02


48:名無しのノイズ:2003/07/12(土) 01:55:25

ID:Qx9a7eVh0


母ちゃんは婆ちゃんに電話すると、すぐに俺を車に乗せて走り出した。

具体的な場所は伏せるが愛知県の奥三河にある田舎町のどこかだと思ってくれ。

道が細くて舗装も荒れてるところがあって車のサスペンションがギシギシ鳴る。

窓の隙間から山の匂いというか湿った土の香りが入ってきて、それが逆に俺の不安を増幅させた。

母ちゃんは運転しながらバックミラー越しに俺の顔をちらちら見てた。

俺は後部座席で膝を抱えて座って、激しく脈打つ心臓を押さえつけるのに必死だった。


山道をどんどん上がっていくと次第に古い民家がぽつぽつ現れはじめて、やっと婆ちゃんの家に着いた時には辺りは薄っすら暗くなってた。

婆ちゃんは表に出て待ってて、車から降りた俺の顔をみるやいなや「もうええで、あとは婆ちゃんに任しとくれん」と言って俺の手を優しく握ってくれた。

ここまで婆ちゃんが頼もしいと思ったのは生まれてはじめてだったよ。

婆ちゃんは知り合いの霊媒師に話をつけてくれていて、すぐにその人のもとへ向かうことになったんだ。

その霊媒師は地元の神社の神主だった。

 

56:名無しのノイズ:2003/07/12(土) 01:57:41

ID:Qx9a7eVh0


向かった神社はそんなに大きいところじゃなかった。

周囲の杉林に溶け込むように鎮座してて、苔むした石段の先に色褪せた木製の鳥居が立ってる。

鮮やかな装飾もなくて長い歴史を感じさせるような神社。

で、石段を上がって鳥居をくぐるとすぐに異変が起きた。

風なんてまったく吹いてないのに周りの木々が一斉にざわつきはじめたんだ。

 

枝葉の擦れ合う音が響いて、歓迎ってよりむしろ「入ってくんな」って拒否されてるような感じ。

本殿の両脇には狛犬の石像が座ってるんだけど、俺の顔をじっと睨みつけてくるんだよ。

石の目の窪みが生きてるように冷たく光ってて、前に進むのがめちゃくちゃ怖くなった。

そうこうしてると本殿の奥から袴姿のおっさんが現れたんだ。

40代くらいの白髪まじりのおっさんでいかにも神主って風貌。

そいつが俺の顔を見るなり、すっ飛んできていきなり両肩をガシッと掴んできた。

「おまえ、いったい何を連れてきた!」ってすごい剣幕で怒鳴りながら。


俺は「なんもしてません……!」って必死に答えたけど、声が裏返って自分でも情けなかった。

そんな俺をおっさんはじっとみつめて黙り込んでた。

息が詰まりそうな沈黙のあと、婆ちゃんに視線を移してこう言ったんだ。

「こりゃ、よろしくないよ●●さん。自分ひとりじゃどうにかなる相手に思えん」って。

その言葉を聞いた瞬間、足の力が抜けて膝が笑ったよ。

本職のやつに「助かるか分からん」って言われたようなもんだからな。

婆ちゃんは青ざめた顔で俺の肩に手を置いて「どうかお願いします」って震える声で繰り返してた。


68:名無しのノイズ:2003/07/12(土) 01:57:11

ID:Qx9a7eVh0


結局そのあと、俺はおっさんに呼ばれて普段は立ち入り禁止の本殿の中に通されたんだ。

あまり時間がないみたいなこと言われて。

本殿内は薄暗くて古い木材の匂いと湿った嫌な空気で充満してた。

天井からは白い紙垂が何本も下がってて、壁際にはよく分からん神具がぎっしり並んでる。

おっさんは俺のまわりをゆっくり回りながら、時々手を合わせては千円札くらいのお札を取り出して、匂いを嗅ぐように顔を近づけてた。

俺はその間じっと息を殺してた。

何か危ないことが始まる予感がして心臓が口から飛び出しそうだった。


婆ちゃんがおっさんに電話した時から、おっさんはすぐにお祓いの準備を進めてたらしい。

だからスムーズにことが進んでるって教えてくれた。

婆ちゃんは普段から毎日この神社にお参りしてたらしく、おっさんは「●●さんの血の通ってるおまえなら、ここの神様も助けてくれるかもしれん」って呟いた。

この時はほんとに婆ちゃんへの感謝の気持ちでいっぱいだった。

で、俺は本殿の真ん中でおっさんと向かい合うように正座させられたんだ。


79:名無しのノイズ:2003/07/12(土) 01:59:52

ID:Qx9a7eVh0


おっさんは手早く丸皿を近くに並べて塩を盛った。

それから俺の額にお札を一枚貼って「お祓いが終わるまで絶対に目を開けるな。神様は姿を見られるのを嫌うから目を開けると危険が増す」って忠告してきた。

目を瞑ってさえいれば額のお札が俺の姿を隠してくれると。

怖かったけど従うしかなかった。

目を閉じると暗闇の中で心臓の音だけがやたら大きく聞こえた。

おっさんが念仏みたいな祝詞を読み始めて、最初は安心感があったんだ。

なにも聞こえない状況よりは断然いい。

こっちはなにも見えないわけだからな。

低く整った節回しでよく分からない単語を何度も繰り返してて、俺は心の中で「頼む! 何事もなく終わってくれ!」ってずっと祈ってた。


だけど、しばらく経ったときだ。

祝詞がなんかむやみに続いてるなって思いはじめた時。

急におっさんの祝詞がスッと途切れたんだ。

呼吸のリズムが崩れるみたいに。

違和感で眉尻が下がったけど、おっさんに言われた通り瞼を開けないでぐっと堪えてた。

時間がどれくらい経ったか分からない。

薄目で覗きたくなる衝動と心の中で「もう勘弁してくれ!」って叫びたい気持ちがせめぎ合って、数十分は過ぎたと思う。

さすがに様子がおかしいと思って薄目を開けると、辺りに“サーーーッ”って、あの気持ち悪いヒスノイズが広がったんだ。

耳の奥がざわついて一気に脈が早くなる。

そしたら目の前のおっさんがとんでもないことになってた。


94:名無しのノイズ:2003/07/12(土) 02:01:23

ID:Qx9a7eVh0


白目を剥き出しにして口の端から泡を吹き出してる。

顔は不自然に引き攣ってて、さっきまでの厳格な表情はどこにもない。

生きてるのか死んでるのかすら分からず、正座したまま前後にゆらゆら揺れてた。

俺はパニックになって頭が真っ白になった。

全身が痙攣するように震えて声も出ない。

そしたら、急に俺の肩に冷たい何かが触れたんだ。

すぐにそれが人間の手のひらだって分かった。

冷たい指が俺の肩を這うように動いてて、なにかいるって分かるくらいの重さが肩越しに伝わってくる。

ぱっと顔の横に意識が向かう。

何かが俺の顔を横から覗き込んでる気配がしたんだ。


「振り向いちゃダメだ!」って頭の中で叫んでるのに体が言うことを聞かなくて、ゆっくりと横を向いてしまった。

目に入ってきたのは、あの女の子の顔。

しわしわの肌に浮かぶ黒い目が瞬きひとつせず俺の顔をじっと凝視してた。

それも息遣いが伝わってきそうなほどの至近距離で。

声にならない叫びが喉から出たと思ったら、俺はそのまま本殿の引き戸を突き破って転がり込むように外へ這い出した。


母ちゃんと婆ちゃんは本殿の外で待ってて、震えながら俺のとこに近づいてきた。

俺の様子がおかしいと一目で分かったらしい。

母ちゃんは「どしたん!」って叫んでて、婆ちゃんは「落ち着け」って言いつつも顔は真っ青だった。

俺は大声で「中にいた! 中にあいつがいた!」って半泣きになりながら騒いだ。


108:名無しのノイズ:2003/07/12(土) 02:03:36

ID:Qx9a7eVh0


それから少しして本殿に戻るとおっさんは床に横たわったまま気を失ってた。

ヒスノイズは鳴り止んでて、あの女の子の気配もない。

ただ、皿に盛ってた塩は全部腐ったように黒ずんでた。

おっさんは目を開けるとすごく疲れ切った顔で「ダメだった……」と呟いた。

婆ちゃんと母ちゃんが俺の側に来て、ふたりとも怯えたように体を震わせてた。


そのあと、おっさんは俺の顔をみて「自分ではどうにもならなかった。あれは並の地縛霊や怨恨の類いじゃない」って言ったんだ。

俺は頭の中で“なんで俺なんだよ”って恨みながら、やるせない気持ちになった。

だって、罰当たりなことした記憶なんて俺にはなかったし、やったことといえばテレビに向かって「おまえは誰だ!」って繰り返しただけだからな。

俺は半泣きになりながら「なんとかならないんですか!」って掴みかかると、おっさんは少し考えてから携帯電話を取り出してどこかに電話をかけたんだ。


声が小さくて聞き取れなかったが、かけ終わると「愛知でも有数の霊媒師に頼んでみた」と教えてくれた。

そこは普通のお祓いで手に負えない妖や怨霊の類いが現れたときに相談する最後の砦らしい。

俺はもう震えが止まらなかった。

あの女の子の怨霊がなんなのか分からんが、次失敗したら確実に呪い殺されるような気がしてたから。



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