お詫び申し上げます
【重要なお知らせ】この作品をご覧の皆さんへ
はじめまして。
突然の投稿、ならびにこのような形での介入となり大変申し訳ありません。
私は霊媒師の九十九久遠と申します。
現在、このサイトの運営元に事情を説明し、特例として柳瀬佳織さんのアカウント使用許諾を頂き、この記事を投稿しています。
おそらく先ほどのニュース番組の書き起こしをご覧になって混乱されている方も多いでしょう。
シングルマザーの多重人格。
育児ノイローゼによる悲劇的な遭難事故。
世間一般では分かりやすい悲劇として消費され、やがて忘れ去られていくことかと思います。
ですが、これまでの一連の顛末を読み進めてしまった皆さんには真実をお伝えしなければなりません。
いえ、お伝えする義務があります。
なぜなら、皆さんはもう無関係な読者ではいられなくなってしまったからです。
まず最初に深く謝罪させてください。
我々、九十九家の問題に柳瀬さんをはじめとする多くの方々、そして画面の前のあなたを巻き込んでしまい大変申し訳ありません。
単刀直入に申し上げます。
数日前の柳瀬さんの投稿記事に登場した私は偽物であり本来の私ではありません。
私は柳瀬さんと面識などありませんし彼女の連絡先も別の霊媒師から教わったばかりです。
ましてや、ビデオ通話で『星型のボタンの糸を切れ』などと指示した事実もございません。
私がこの異変に気付いて柳瀬さんに連絡を取ろうとした時にはすでに一歩遅く、彼女はトンネルの向こう側、携帯の電波も届かない場所へ足を踏み入れた後でした。
では、柳瀬さんがビデオ通話で話した白い巫女服の霊媒師は誰だったのか。
それこそが九十九早苗。
私の伯叔父母にあたる人物です。
いえ、九十九早苗の成れの果てとでも言うべきでしょうか。
彼女がかつて禁忌とされる降霊術に手を染めたのも事実。
数十年前、彼女はとあるアパートの一室で夜な夜な壁を自らの爪で掻き鳴らし続けました。
――ジジ……ジジジ……
その不快な音を信号にして胎児の怪異である骸童を自らの胎内に招き入れるために。
そして、生まれることが叶わなかった骸童は純粋な生の執着と恨みの集合体となった。
それが彼女が小夜子と名付けたモノの正体。
かつて私の母たちがワラボエの祠に封印した怨霊そのものです。
柳瀬さんは記事の中でこう綴っています。
九十九久遠という霊媒師が小夜子を早苗のもとへ返す方法を教えてくれた、と。
巧妙な罠です。
あの祠に祀られていたワラボエは胎児の霊を鎮める山の土着神であると同時に、決して世に放ってはいけない穢れを封じ込める強力な檻でもありました。
そこに結ばれた無数の赤い糸。
なかでも星型のボタンは最も危険な怨霊を封じるための要だったのです。
怨霊となった九十九早苗は自らの手でその聖域に触れることができなかった。
だからこそ生きている人間の手が必要だった。
それも強い母性を持ち、子供への罪悪感に頭を悩ませ精神の均衡を崩した母親の手が。
その点において柳瀬さんは最適な人物でした。
彼女は伊織ちゃんへの愛情と罪悪感を利用され、早苗が見せる幻影と言葉巧みな誘導によって自らの手で封印を解いてしまった。
早苗から送られてくる断片的な情報を読者からの情報提供だと信じ込まされて。
実際には最も危険な怨霊である小夜子をワラボエの腹の中から引きずり出し、この世に解き放つ手助けをさせられているとも知らずに。
身内の不始末は身内で片付けます。
これ以上、被害を拡大させないためにも私は九十九家の威信にかけて対策を講じるつもりです。
柳瀬さんの魂がまだこの世に留まっているのなら、せめて伊織ちゃんの待つ場所に帰れるよう手を尽くします。
ヒステリアノイズに触れすぎてしまった彼女を完全に元に戻すのは難しいと思いますが。
最後にこれを読んでいる皆さんへ注告があります。
絶対に深入りしないでください。
この文章を読んでいる今、あなたの身の周りでは変化が起きているはずです。
耳鳴りがする。
部屋の隅に視線を感じる。
電子機器の調子が悪い。
あるいは深夜のテレビから変な音が聞こえる。
ネット怪談『ノイズ』という媒体を通して怨霊は認識した者の潜在意識に巣食います。
なぜ無関係な皆さんを襲うのか。
それは彼女たちが理不尽に殺されたからです。
早苗は禁忌に触れた罪人として処分され、小夜子は産声を上げる前に暗い祠へ閉じ込められてしまった。
その凝り固まった憎悪は、もはや特定の誰かに向けられるものではありません。
生きている人間すべてが憎いのです。
幸せそうな家族も将来のある若者も、そして興味本位で覗き込んでしまったあなた方も。
理不尽な死を迎えた彼女は理不尽にあなたたちを道連れにするでしょう。
これから先、皆さんのスマートフォンに非通知の電話がかかってくるかもしれません。
絶対に出ないでください。
興味本位で出てしまえば、もう普段の生活に戻ることはできません。
通話の向こうから聞こえてくるのは女性の声かもしれないし赤ん坊の泣き声かもしれない。
あるいは、ただの砂嵐のようなノイズかもしれない。
いずれにせよそれを耳にしたが最後、彼女たちの呪力によって精神を蝕まれ、想像を絶する恐怖を植え付けられるでしょう。
彼女たちが今後どのような影響を及ぼすのか私にも完全には読めません。
ですので、この投稿をもって柳瀬佳織さんのアカウントによる発信は終了とさせていただきます。
このページもじきに削除されるでしょう。
どうか皆さんが無事であることを祈っています。
それでは。
九十九久遠
(了)




