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テレビニュースの書き起こし


【女子大生が奥三河の山奥で意識不明の重体】


<スタジオ>

ニュースキャスター:

こんばんは。

ニュース●●●●の時間です。

本日未明、愛知県の奥三河にある山林で若い女性が倒れているのが発見されました。

女性は最寄りの病院に搬送されましたが現在も意識不明の重体です。

発見された女性は名古屋市内の大学に通う学生だったことが分かっています。

 

ナレーション(VTR):

霧が深く立ち込める愛知県奥三河の山中。

「あんなところに女性が倒れているなんて思いもしなかった」

第一発見者の地元住民は震える声でそう語りました。

本日の午前5時過ぎ。

林道を外れる雑木林で発見されたのは名古屋市内の●●大学に通う女子大生、柳瀬佳織さん(22歳)です。

柳瀬さんは発見当初、泥にまみれた状態で倒れており、すぐに病院に搬送されましたが現在も予断を許さない状況が続いています。

一見、普通の女子大生が巻き込まれた遭難事故に見えますが、彼女の知人や関係者への取材から柳瀬さんの意外な一面が明らかになりました。


柳瀬さんは高校在学中に16歳で妊娠し、周囲の反対を受けながらも出産を選択。

大学進学を断念し、一度は就職したものの育児と仕事の板挟みによる強いストレスから数年前に解離性同一性障害を発症。

自身のことを『大学に進学した女子大生』と認識する別人格が芽生え、母親であることを忘れて名古屋市内の大学に編入していたとのことでした。

今回、彼女が奥三河の山奥に入り込んだのも別人格の行動だったと見られています。

一人娘である伊織さんは実家に預けられていました。


<奥三河の林道の映像に切り替わる>


現場は人里から離れた山奥で警察の発表によると柳瀬さんの身体に目立った外傷はなく、誰かと争った形跡も見当たらなかったとのことです。

一方で柳瀬さんのスマートフォンには不可解な着信履歴が残されており、事件の前日、彼女は非通知の発信者と数十分にわたって通話している痕跡が見つかりました。

警察は何者かの指示に従い、山奥に向かった可能性が高いとみて捜査を進めています。

 

<スタジオ>

ニュースキャスター:

……壮絶ですね。

育児と学業、そして労働。

22歳の若さですべてを背負い込み、心が悲鳴を上げてしまったのでしょうか。

ゲストの●●大学社会学部教授、□□さんにお話を伺います。

この事件、どうご覧になりますか?

 

コメンテーター(社会学者):

非常に胸が痛むと同時に強い憤りを感じますね。

これは個人の問題ではなく明らかに社会の欠陥が招いた悲劇です。

若いシングルマザーが誰にも頼ることができず精神が解離するほどまで追い詰められていた。

自己責任という言葉で切り捨てる社会の冷淡な空気。

それが彼女をあそこまで追い詰めたと言っても過言ではないでしょう。

 

ニュースキャスター:

インターネット上では今回の事件を巡ってさまざまな憶測が飛び交っているようです。

柳瀬さんはとある小説投稿サイトで『ノイズ』と呼ばれる都市伝説を調査していた形跡があり、一部ではオカルトとの関連を疑う声も上がっています。

数ヶ月前にも柳瀬さんと同じ大学に通っていた学生が行方不明になっており、ふたりとも『ノイズ』の霊障を負ったのではないかと囁かれているようです。

 

コメンテーター(社会学者):

全くもってナンセンスですね。

ありえない話です。

正直、そういったオカルトチックな話は問題の本質から目を背けるものだと考えています。

今回の件はあくまで現代社会が抱える子育て問題、そして若年層の女性に過度な負担を強いる構造的な問題として捉えるべきでしょう。

呪いなんてものは存在しません。

あるのは若者を使い捨てにする社会の冷酷なシステムだけです。

人は理解できない出来事に直面するとオカルト的な思考に陥りがちですが、それでは何も解決しません。

 

ニュースキャスター:

柳瀬さんのスマートフォンから怪談サイトへのアクセス履歴が多数見つかっているようですが、それも現実逃避の一環だったと?


コメンテーター(社会学者):

そうですね。

彼女に芽生えた別人格が辛い現実、ここでいうところの育児や仕事の悩みから遠ざかるために非現実的な怪談を必要としたのでしょう。

いわば脳が見せた『解離』と呼ばれる防衛本能です。

医学的にみてもなんらおかしくない。

これを霊障と捉えるのは被害者女性への冒涜になりかねません。


ニュースキャスター:

ここで柳瀬さんと同じ大学に通う学生の声を紹介します。


<大学のキャンパスとモザイクのかかった学生のインタビュー映像に切り替わる>


「柳瀬さんは……なんていうか大学でも浮いてました。

 途中で編入してきたのもあるけど、どことなく暗い雰囲気を漂わせていたので。

 周りの子たちとも話が合わない様子でした。

 いつも大学の図書館に閉じこもっていて、大学でまともに口をきいて行動してたのって、いま行方不明になってる亜香里くらいだったと思います。

 なんていうか、私は不思議な組み合わせだなって。

 亜香里って高校生の頃に彼氏との子供を中絶した過去があって、それを本人も気にしてて。

 で、柳瀬さんは逆に高校生の頃に産む決心をした人じゃないですか。

 数年前に16歳で出産した女子高生ってネット記事にもなってましたし。

 産まなかった亜香里と産んだ柳瀬さん。

 立場は正反対だけどお互いに自分とは違う人生を歩んできた相手だから引き寄せ合ったんじゃないかな。

 亜香里がたまに誰もいないところに向かってブツブツ呟いてるのは怖かったですけど」

 

<スタジオに映像が戻る>

 

コメンテーター(社会学者):

高校生という若さで出産を決意した柳瀬さん。

彼女の選択を支えきれなかったのは個人の問題ではなく社会全体の責任だと思います。

本来であれば国がもっと積極的に支援の手を差し伸べるべきですが現状はまだ充分とは言えません。

 

ニュースキャスター:

そうですね。

結局、制度はあっても現場まで行き届いていない。

企業も利益を生み出すのに精一杯で子育て世代への配慮が欠けているという指摘もあります。

 

コメンテーター(社会学者):

そして一番怖いのはこのような話題が出ても世間の人々はすぐに忘れてしまうことです。

いっときの感情で可哀想と思っても次の瞬間には他人事として処理してしまう。

ネット怪談として消費されてしまうのもその現れです。

先ほどの学生さんの証言にもあった産む決意をした学生と産まない決意をした学生。

本来であれば新しい命を授かることは喜ばしいはずなのに周囲が子育てという『ノイズ』に耳を塞ぎ続けている限り、第二第三の柳瀬さんは生まれ続けるでしょう。

彼女が山奥で見つけたのは怪異などではなく絶望そのものだったのかもしれません。


ニュースキャスター:

警察は現在も柳瀬さんがなぜ山奥に向かったのか、そして非通知の相手は誰だったのかを調べています。

柳瀬さんの意識が回復すれば当時の状況について詳しく話を聞けるでしょう。

引き続き、この事件に関する新しい情報が入り次第、お伝えします。


(カメラが切り替わり、次のニュースへ)



 


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