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◆奥三河の山奥に伝わる畏れ 01


以下は2008年の深夜に放映されたホラー番組を文字起こししたもの。

動画配信サービスで配信されておらず再販もされていないため録画した媒体以外で視聴する方法はない。


[テレビ番組名]

 深夜の●●●●封印記録

 〜本当にあった芸能界の怖い話〜


 第19回

 呪われたロケハン『奥三河の山奥に伝わる畏れ』

 

<語り手である男性タレントが照明を少し落としたスタジオの椅子に腰掛け、前方のカメラに向かって喋りかけている構図>


 みなさんこんばんは。

 ◯◯です。

 今から僕がお話しするのはまだテレビ局のADだった頃に深夜のオカルト番組で体験したというか、間接的に関わってしまった恐ろしい話です。

 あの頃はちょうど都市伝説ブームと言われていた時代で2000年代の中頃、どの局も怪談とか心霊スポットといったオカルトネタを探し回っていました。

 僕もいくつかそういう深夜番組に呼ばれて現地のロケに行ったりしてたんですよ。

 でね。

 その中にひとつだけ笑えない話があるんです。

 たぶん、今この話を番組として放送できるのも結構ギリギリなんじゃないかな。

 

 先ほどお伝えした通り、都市伝説や怪談番組はテレビで数字が取れる、つまり視聴率が稼げる美味しいジャンルだったので僕もディレクターもとにかく身の毛がよだつネタを探してこいと日々駆り立てられていました。

 で、あるテレビ局に怪談専門みたいなディレクターがいて仮に名前をKディレクターって呼びましょうか。

 この人がほんとにバイタリティある人で怖い話があればどんな所にでも飛んで行く。

 地方の山奥だろうが廃病院だろうが喜んで飛び込む。

 そんなKディレクターがある日。

 愛知県の奥三河の山奥に恐ろしい怪異が居る、なんて情報をどこからともかく掴んで来たんです。

 地元民の間で古くから伝わる山の神様だと。


 山は物の怪や怪談ネタの宝庫でしたし、当時の番組では地域密着型の怪談がウケてたのでスタッフも「いいじゃん、それ!」って軽いノリでロケハンが決まりました。

 けど、そのロケハンの数週間後。

 Kディレクターが自宅で首を吊って亡くなったんです。

 自殺の動機はいまだ不明。

 ただ、番組スタッフの間では奥三河のロケハンが原因じゃないかってずっと囁かれていました。

 これはその当時のロケハンに同行していた僕が経験した実話に基づく話です。


 ロケハンが行われたのは愛知県の奥三河。

 今で言えば新城市の外れ、海老川の流れる山の奥地。

 時期は8月の中頃だったのですが、あの辺はどこまで行っても山と霧しかないんですよ。

 夜になると谷を渡ってくる風が低く唸って、木々のざわめきや獣の鳴き声が至るところから聞こえてくる。

 随所にある町も小さくて街灯の下に集まる蛾の方がすれ違う人よりも多いくらい。

 深い森に囲まれてるせいか湿度も高く、道の脇には石碑やら地蔵やらが点々としてる。

 どれも至るところが欠けてて誰が何を祀っているのかも分からない。

 Kディレクターはそんな不穏な空気を逆手にとって「いいぞこの感じ! 数字が取れる!」と喜んでいました。


 それから僕とKディレクターは町役場近くの古い民宿に泊まり込み、夕食時に町長からこの地域に伝わる都市伝説や触れてはいけない怪異について話を伺いました。

 役場の二階の小さな会議室で地元の名産品である山菜の煮物や川魚の塩焼きなんかをつまみながら、町長がぽつぽつと話し始めたんです。

 この近くの山には古くから土地に根付いている神様がいらっしゃると。

 その神様はいわゆる八百万の神様とは少し異なり、人々が畏れとともに祀る存在でした。

 みなさんミシャグチ様って聞いたことありますか?


 長野県の諏訪大社に祀られている神様で子孫繁栄にご利益があるとされる一方、石の神や蛇の神とも呼ばれ怒らせると災いが降りかかる。

 神職の位を授かる儀式を怠ったり、定められた禁忌を破ったりした際には次々と不幸が起こったという伝説が残されています。

 この奥三河の山奥にもミシャグチ様に似た土着神がいて、古くから流産で亡くなった胎児の霊を守る神様として信仰されてきたそうです。

 

 母親たちは亡くした子を弔うため、その神様の祠に赤いボタンをひとつ吊るす風習があったと。

 赤い糸で結ばれたボタンを祠の天井から吊り下げる。

 そうすることで子どもの魂が山の神様に守られ“次の生”へ導かれると信じられていたから。

 吊るされたボタンは胎児の魂の依り代であると同時に母親の懺悔の証でもあったのでしょう。

 そして夜になると、その神様は成仏できない赤子の魂をあやすためにわらべ歌を口ずさむ。


「みどりご みどりご ねんねこよ」

「かえれぬ子も ねんねこよ」


 町長はどこか遠くを見るような目つきでそう口ずさみました。

 この神様のことをいつしか地元民は『わらべ歌を口ずさむ神様』という意味を込めて、こう囁くようになった。

 ワラボエ様――と。


 Kディレクターはその名前を聞いた瞬間、まるで何かに取り憑かれたように身を乗り出しました。

 目を爛々と輝かせながら「これだ! このワラボエを番組で放送すれば数字が取れる!」とでも言わんばかりに。

 そして強引に町長から祠の場所を聞き出したんです。

 町長は一応止めたんですけどね。

 

「あまり深入りせんほうがいい。

 数年前にも興味本位で祠に向かった若者が居たがそのあと不可解な死を遂げた」

 

 と強く警告したんですが、Kディレクターの耳にはもうその言葉は届いていなかった。

 僕に三脚とカメラを持たせ、山奥にある祠へ向かうことになったんです。


 そして、翌朝の午前六時。

 太陽が登り始めるのと時を同じくして僕とKディレクターは山の奥地へ向かいました。

 祠へ続く山道は獣道ですらなく、ただただ草木が生い茂る藪道で、周りの木々も鬱蒼としていて視界は数メートル先までしかみえない。

 湿った腐葉土の匂いと生臭い獣臭の入り混じった道をひたすら登り続けたのを覚えています。

 その道中、やけに多くのムカデの姿を見かけ、落ち葉や朽木を踏み歩くたびに黒光りする細長い影が何匹も地面を這い回っていました。

 

 ワラボエ様は特定の姿を持たない存在らしいのですが、一説によればムカデを司る神様でもあったそうです。

 ムカデは蟲の中でも子守をする珍しい生き物。

 さらに強靭な生命力を持つことから、ムカデはワラボエ様の象徴として古くからこの地域で神聖視されてきたとのことでした。

 それから藪道を歩くこと、およそ一時間。

 山の奥に唐突に開けた場所があって、そこに小さな祠がひっそりと佇んでいました。

 高さは人の胸くらい。

 苔やシダに覆われた石造りの祠で山の一部に溶け込んでいるようでした。

 祠の社殿にあたる木製の扉は半分朽ち果てていて、Kディレクターが扉を開けると中には赤い糸で結ばれたボタンが鈴なりに吊られていました。

 丸に三角、四角に星。

 様々な形状の赤いボタンが無数に。

 

 Kディレクターは「すげぇ画になるな」と呟いてビデオを回し始めたのですが、その隣にいた僕はなぜか震えが止まらなかったのを覚えています。

 Kディレクターはそのあと「番組で見せる用に」と言ってナイフを取り出し、一番古くて汚れたボタンをひとつだけ切り取りました。

 僕が止めても「ちょっと借りるだけだから」と笑いながらビニール袋に入れたんです。

 その瞬間、祠の奥の暗がりから、かすかな子どもの笑い声が薄っすら聞こえてきました。

 今でもその声がずっと耳に残っています。

 その夜からです。

 僕らが泊まっていた民宿で奇妙な怪奇現象が起きはじめたのは。

 Kディレクターがボタンを切り取ってから得体の知れない何かが牙を剥き始めたんです。


<ここで一旦、CMに入る>




 

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