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ヒスノイズ 03


 みなさん、お久しぶりです。

 筆者の柳瀬です。

 前回からまた少し時間が経ってしまいましたが、かさねてたくさんの情報提供ありがとうございます。

 思いのほか反響が大きく、DMやメールフォーム経由で多くの情報が集まりました。

 おかげで亜香里の行方にようやく指先が触れられそうです。

 

 前回お伝えしたとおり、私は霊媒師のMさんに相談すべく三重県の伊勢市まで足を運んでいました。

 某オカルト月刊誌の編集部に連絡先を確認すると意外にもあっさり返事があり「事務所で詳しく話を聞かせてください」と申し出があったので。

 伊勢市駅から少し離れた住宅街の一角。

 古い木造建築の一軒家を改装した静かなサロンが彼女の事務所でした。

 本名は三門琴葉。

 ドアを開けた瞬間、ふわりと白檀の香りが漂ってきたのを覚えています。

 琴葉さんは30代前半くらいの綺麗な女性で、黒字の和装に身をつつみ亜麻色の髪をお団子のようにまとめていました。

 

 私はこれまでの経緯を洗いざらい話しました。

 亜香里がネット怪談『ノイズ』を真似て砂嵐の画面に話しかけたこと。

 いつからか録音したノイズに怯えるようになり、それから行方が分からなくなったこと。

 そして私が今、ネット怪談『ノイズ』に出てきたトンネルの所在を追っていること。

 琴葉さんは私の話を遮ることなく、ただただ頷きながら耳を傾けてくれました。

 そして私が話し終えると琴葉さんは静かに、けれど断定的に告げたんです。

 

「あなたのお友達、亜香里さんはなんらかの霊に魅入られてしまった可能性が高い。

 それから、これはあなたへの警告。

 これ以上このノイズに深入りしない方がいい。

 あなた自身も危険な目にあう。

 彼女が今いる場所はあなたのような無関係な人間が踏み込んでいい領域じゃないの」

 

 霊に魅入られる。

 それは琴葉さんがオカルト月刊誌で語っていたヒステリアノイズによって解離性障害を引き起こし、現実と非現実の区別がつかなくなった状態。

 場合によっては別人格が芽生え自傷行為に走る可能性もある。

 私は琴葉さんの言葉の重さを理解しました。

 けれど、それでも私は首を縦に振れませんでした。

 もうここまで来てしまったのです。

 いまさら引き返すわけにもいきません。

 

「ご忠告ありがとうございます。

 ただ、私はどうしても亜香里の居場所を突き止めたいんです」

 

 そう告げると、琴葉さんは静かにため息をつき、それ以上は引き留めませんでした。

 

「あなたには怨霊を引き寄せる因縁がない。

 だからこそ今は無事だけど、これ以上深入りすると標的にされてしまうわ。

 いえ……もしかしたらもう遅いのかも。

 ねぇ、その記憶は本当にあなたのもの?」


 私は帰りの電車の中で琴葉さんの言葉を何度も反芻しました。


 ――その記憶は本当にあなたのもの?


 すでに私は何かに魅入られていて心身が解離している状態だというのだろうか。

 そんなことはありえない。

 私は私であり他の何者でもないはず。

 霊に魅入られる。

 つまり、霊の側からすれば“選ばれた”ことになる。

 じゃあ、なぜ亜香里は選ばれたのか。

 亜香里の因縁とノイズの怨霊。

 集まった情報を整理しながら私はある仮説にたどり着きました。

 まず、情報提供で多く寄せられた心霊物件のスレッド。

 10年以上前にネット掲示板を騒がせたスレッドなのですが、そこに九十九早苗という女性が登場します。


 この九十九早苗の部屋と2000年代初期に投稿されたネット怪談『ノイズ』。

 一見無関係に見えますが妙に接点が多いのです。

『ノイズ』のスレ主は奥三河の山奥にあるトンネルをくぐったことで、女の子の怨霊を山の神様に引き剝がしてもらった。

 もし、その女の子の怨霊が九十九早苗の娘だったとしたら?

 九十九早苗は自分の娘を探して現世を彷徨い続けていることになる。

 もしくは逆に女の子の怨霊が母親である九十九早苗を探しているのか。

 となると、亜香里に取りついたのはそのどちらか、あるいは両方。

 

 親子の未練がヒスノイズを介して亜香里に接触し、幻聴や解離性障害を引き起こしているのかもしれません。

 ノイズが現実と非現実を分断し、亜香里の魂を向こう側へ引きずり込もうとしている。

 そう考えればすべての辻褄が合います。

 それにSNSで出回った謎の女の子のイラスト。

 私もどこかであの女の子の姿を見た気がするんです。

 みなさんから送られてくるメールやDMで見たのか、それとも大昔にSNSで見たのか。

 いずれにせよ、あの女の子が九十九早苗の娘である可能性が高い。


 しかし、ここでもうひとつの疑問が残りました。

 なぜ亜香里が狙われることになったのか。

 これが最大の謎でした。

 ただ、その答えの手がかりは意外な人物から得ることができました。

 それは亜香里の高校時代を知る亜香里の友人であり、週刊現代●●●● 2024年8月第3週号の独占インタビュー記事に出ていた女子大生。

 青山千春さんです。

 青山さんの話によれば亜香里は高校生の頃、当時付き合っていた同級生の彼氏との間で望まぬ妊娠をしてしまい、中絶に至った過去があると聞きました。

 そして、その相手の彼氏。

 名前を聞いて私は息を呑みました。


 ――下島卓也。


 YouTubeのライブ配信中に自らの腹部を刃物で刺すという怪死を遂げた大学生YouTuberです。

 当時の彼のチャンネルでは怪奇スポットや都市伝説の検証企画が人気シリーズでした。

 そして、彼が最後にライブ配信した動画のタイトルはネット怪談スレッド『ノイズ』の検証。

 偶然にしては出来すぎています。

 彼もまた『ノイズ』のスレ主を真似たことで悲惨な最期を迎えたとすれば、あの『ノイズ』の怨霊は”中絶“に関わった過去をもつ人間に取り憑く。

 そう考えると私がスノーノイズに喋りかけても反応がなかったのに納得がいきます。

 私は“条件”を満たしていなかった。

 私にはその怨霊との因縁がないからです。

 

 下島卓也は中絶した胎児の父親として。

 亜香里は中絶した胎児の母親として。

 あの『ノイズ』の怨霊、すなわちこの世に生まれてこられなかった胎児の怨念に狙われたのではないか。

 あくまで私の推測にすぎませんが、ここまで点と点が繋がってしまうともう偶然とは思えませんでした。

 そしてこの推察に至ったからなのか偶々なのか分かりませんが、最近、私の身の回りで妙にムカデの姿をみかけるようになりました。

 

 私はアパートの5階に住んでいるのにベランダの花壇に水やりしていると体長10センチほどの大型のムカデが這い出てくる。

 周囲には山も森もないのにどうして。

 つい先日も寝室の押し入れの中で大きなムカデの死骸が転がっているのを見つけました。

 そして顔に白いメンフクロウのお面を被った女の子――おそらくSNSでイラストの出回った小夜子。

 ムカデが姿を見せ始めたのと時を同じくして、彼女も私の夢の中に現れるようになりました。

 寝室の押し入れの中から私の顔をじっとみつめ、メンフクロウのお面を外しかけたところで目が覚める。

 その繰り返しです。

 

『ノイズ』の真相に近づき過ぎたせいで、私も得体のしれない何かに狙われ始めているのかもしれません。

 だけどもう怖がっている場合でもない。

 私はこれから『ノイズ』に出てきたトンネルを探すため奥三河の山奥を回ってみようと思います。

 

 ――九十九早苗

 ――ヒスノイズ

 ――中絶の有無

 ――そして心霊トンネル

 

 すべての謎が奥三河のどこかにある気がしてならないから。

 手がかりを探しているうちに亜香里と鉢合わせる可能性もありますし。

 だからこれを読んでいる皆さん。

 これが私の最後のお願いになるかもしれません。

 引き続き情報提供をお願いします。

 怪奇音や女の子の霊、九十九早苗に関する情報、奥三河に点在する古いトンネル。

 どんな些細なことでも構いません。

 ノイズにまつわる真相にあともう1歩のところまで近づいている気がするんです。

 どうか私をここから奥三河のトンネルまで導く力を貸してください。



 

 

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