表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/34

◆某オカルト月刊誌 続・特別対談記事


2025年8月号掲載

『霊媒師の語る心霊ノイズの正体』

 〜編集部取材班と霊媒師Mの特別対談2〜

 

――――――――――――

前回の特別対談記事が読者の間で異例の反響を呼んだため、再び霊媒師のM氏に編集部までお越しいただいた。

今回のテーマは心霊現象の中でも特に不可解な存在として語り継がれる怪奇音。

霊の存在を知らせるラップ音を皮切りに、2000年代初期の電子掲示板を騒つかせたネット怪談『ノイズ』、近年では某大学生YouTuberの怪死動画にヒスノイズやコイル鳴きが紛れ込んでいたと話題になっている。

オカルトと科学が交錯するこの現象について長年、霊的存在と対峙してきたM氏にその真実を改めて伺った。

――――――――――――

 

編集部の応接室に現れたM氏は前回と変わらぬ黒地の和装に身を包んでいた。

窓の外では午後の陽射しが鈍く沈み、時折耳につくエアコンの吹き出し音がこれから始まる対談への緊張感を際立たせていた。

M氏は湯呑みを手に取り一口すすると、我々に向き直って小さく微笑んだ。

 

編集部:

「M先生。

 この度はお忙しい中、再びお越しいただきありがとうございます。

 前回の記事が大変な反響を呼びましたので」


M氏:

「あなたたちも怖いもの知らずね。

 心霊ノイズを題材にまた私と対談したいだなんて。

 私は構わないけど、いつか重い霊障を負うことになっても知らないわよ?」

 

まるで親しい隣人に忠告するかのようにM氏は呟いた。

その言葉とは裏腹に今回のテーマに本質的な危険が潜んでいるのが肌で感じとれる。


編集部:

「霊障を恐れていたらこの仕事は続けられないですから(笑)

 さっそくですが心霊ノイズについて教えてください。

 まずは2000年代初期に話題になったネット怪談スレッド『ノイズ』――あれは単なる作り話なのでしょうか?

 テレビのコメンテーターたちはこぞって『ありえない』と鼻で笑ってましたが」

 

M氏:

「さあ、どうかしら。

 世の中にはありえないと一蹴されることで、かえってその存在を永らえさせる真実もあるものよ。

 私は実際にあった話なんじゃないかと思ってるわ。

 内容を読んでも特に大袈裟なことは書かれてないもの。

 例えば、スレッドに出てきたヒスノイズと女の子の怨霊」

 

間を置くようにM氏は湯呑みを持ち上げ、一口すすった。

 

M氏:

「あの話の要点はどうして怨霊がヒスノイズを使って干渉してくるかってこと。

 霊にはその容姿や特徴を持つに至った経緯が必ずある。

 なぜヒスノイズなのか、なぜ女の子の顔が老婆のように皺々なのか。

 あなたたちは想像ついてる?」

 

編集部:

「……なぜヒスノイズなのか、ですか?

 ラップ音と比べると耳につきやすいからですかね?

 あまり深く考えていませんでした。

 そもそも霊とノイズに関係性などあるのでしょうか?」

 

M氏:

「もちろんあるわよ。

 ノイズは霊媒師の降霊術でよく使うもの。

 モスキートノイズやラップ音を通して霊と会話したり、逆にこちらから霊を呼び込んだりする。

 霊的な存在は目では捉えにくいから。

 彼らは現実と交差する境界の揺らぎを怪奇音として表現するの。

 あの世とこの世の間に生まれる境界の歪み。

 それが音として現れる。

 なかでもヒスノイズは胎児の霊と関わりが深い。

 これは赤ちゃんが母親のお腹の中で聞いていた胎動音、つまり羊水を通して伝わっていたホワイトノイズに周波数が似ているからなの」


編集部:

「なるほど、胎児の霊と胎動音ですか……」


M氏:

「それと生まれたての赤ちゃんの顔は皺々なの。

 それまで長いこと羊水に浸かってたわけだから。

 そう考えれば『ノイズ』に出てきた女の子の皮膚が縮れていた理由も腑に落ちる。

 あれはおそらく胎児の怨霊が目に見える形で具現化したもの。

 どうやってそこまでの力を得たのか分からないけどね。

 人間の胎児の霊なんて泣き声を聞かせる程度の怪奇現象しか引き起こせないはずなのに」

 

編集部員の書き留める手が止まった。

本来であれば微笑ましいはずの赤ん坊の特徴が恐ろしい怪奇現象と結びついている。

その事実はなんとも背筋が寒くなるものだった。

 

M氏:

「胎児の霊はこの世に生まれて来られなかった未練や母親の温もりを求める側面が異常に強い。

 お腹の中で耳にしていた胎動音を求めてホワイトノイズよりも少し高い周波数帯に寄ったヒスノイズを出す傾向にあるわ。

 その音に惹かれて無意識のうちに人を引きずり込もうとする。

 けど、哀しみが大部分を占めているヒスノイズはまだそこまで危険じゃない。

 本当に危ないのはそこからさらに波長が変わって力強い音になったとき。

 “キリキリ”や“ジジジ”みたいな音。

 これが聞こえたら明確に敵意を向けられていると考えた方がいいわ」

 

M氏の声がわずかに低くなった。

応接室の室温が一瞬にして数度下がったように感じられた。

 

編集部:

「となると、昨年報じられた某大学生YouTuberの自殺はまさに怨霊に呪い殺されたことになるんですかね?

 リアルタイムで視聴していた人は“ジジジ”というコイル鳴きのようなノイズが聞こえていたみたいですし」

 

M氏:

「その可能性は高いわね。

 霊に魅入られてしまったのかもしれない」

 

編集部:

「魅入られる?」

 

M氏:

「霊に取り憑かれて向こう側に意識が傾き始めた状態。

 霊に魅入られると解離性障害に近い症状を引き起こす。

 現実感がなくなるとか記憶がなくなるとか。

 強いストレスや心的外傷が原因で意識、記憶、感情、行動などが一時的に分断されてしまうのよ」

 

編集部:

「な、なるほど……

 急に医学的な症状が出てきましたね」

 

M氏:

「だからこそ厄介なのよ。

 オカルトを信じない人には単なるストレス社会による病気として片付けられてしまう。

 精神疾患による解離性障害と霊障を区別するのは本当に難しいから。

 私含め、霊媒師界隈では霊障を伴う怪奇音を総称して別の言葉で呼んでいるわ。

 ヒステリアノイズ、と」


編集部:

「…………ヒステリアノイズ?」

 

M氏:

「そう。

 ヒステリアは激しい感情的興奮や解離性障害を表す英単語。

 日本だとヒステリーってドイツ語の発音の方が浸透してるかも。

 霊の発する波長が体の中に入り込み、自我が崩れる間際に耳にする不快な怪奇音――モスキートノイズ、ハムノイズ、スノーノイズ、コイル鳴き、等々。

 それらを解離性障害を引き起こすノイズという意味合いを込めて、私たちはヒステリアノイズと名付けた。

 記憶の端に留めておいてちょうだい」

 

編集部:

「ヒステリアノイズ、略して“ヒスノイズ”ですか……」

 

M氏:

「世間一般では聞き馴染みのない言葉だと思う。

 だけど、そのヒスノイズが引き起こす精神異常は想像を絶するほどに恐ろしいわ。

 場合によっては別人格に身体を乗っ取られて自傷行為に走る可能性もある。

 解離性同一性障害みたいにね。

 あの大学生YouTuberも霊に魅入られ現実と非現実の区別がつかなくなった結果、悲惨な最期を迎えてしまったのかもしれない。

 前回の対談でも伝えたけど狂ってしまった人間ほど恐ろしいものはないわ」


その言葉に編集部の一同が息を呑んだ。

蛍光灯の光が一瞬だけちらついた気がした。

 

編集部:

「彼の行動の異常さや配信の異様な雰囲気の理由がなんとなく分かった気がします」

 

M氏:

「それなら良かった。

 だけど、あまりこのノイズに深入りしない方がいいわよ。

 あなたたちも魅入られてしまうかもしれないから。

 そうなったらもう祓うこともできないし……」


談話室に嫌な沈黙が広がった。

M氏は静かに湯呑みを机に置き、どこかうすら寒くなるような笑顔を浮かべるのだった。

その笑顔は取材を終えた我々に向かって「もう引き返せない領域に来ている」と囁いているようにも感じられた。

今号を手に取ったあなたの耳に、もし奇怪なノイズが聞こえたらどうか気をつけてほしい。

それはあなたを向こう側に引きずり込もうとする怨霊のヒスノイズなのかもしれないから。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ