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28話

 貸し切り浴場は、どこか現実離れした幻想的な内観をしていた。


 床は大理石のような正方形のタイルが敷き詰められており、その一部が浴槽の形に綺麗にくり貫かれ、乳白色の湯が循環して波を打っている。浴槽は十平方メートルにも迫るほど巨大だ。天井には木造の梁。浴槽の真横の壁は窓ガラスになっており、開放感を与えつつもシェードがプライバシーを守っている。


「凄いわね、こんな場所まで貸し切れるなんて」


 予定していた十九時に四人が貸し切り浴場に入ると、迎えたのはそんな光景だった。


 藍墨は入り口で唖然と立ち尽くし、「壮観ですね」と海月も真横で感嘆する。


「写真はもう撮ったから、好きに入ってもらって大丈夫だよ!」


 二時間ぶりの澄冷がニコニコと笑いながらタオルを片手に浴室へ入り、壁面のシャワーを用いて身体を清める。「お風呂! お風呂お風呂!」と上機嫌に弥香がステップを踏んでそれを追いかけるので、「走るな!」と叱責しつつ藍墨もそれに続いた。


 それから数分後、四人は浴槽の壁に背中を預けながら染み渡る湯を堪能していた。


「やー、澄冷には本当に頭が上がらないね! 部長として鼻が高いよ」


 長い髪を幾つかのゴムで乱雑に結った弥香が誇らしそうに胸を張る。


「頭が上がらないのか鼻が高いのかどっちかにしなさいよ」

「頭は下げつつ鼻を上げてるの」

「馬鹿の考えたアルゴリズム体操?」


 そんな風に藍墨がツッコミを入れていると、澄冷が照れ笑いを浮かべて謙遜する。


「そんな大層なことじゃないよ。良いものを良いって認めてくれる皆が居て、私はそこに好きなものを共有しているだけだから。私の力じゃないよ」


 澄冷は弥香とは対照的に、やや長めの黒髪を綺麗に上手に束ねていた。


 そんな澄冷の極めて真っ当な謙遜を聞いた海月は、微笑みながら賛辞を重ねる。


「好きを臆面もなく公言できるのは貴女の長所でしょう」


 乳白液と見分けが付かないほど美しい腕を湯から引き揚げ、立てた膝に乗せた腕へ頭部を置きながら海月が澄冷をジッと見詰める。藍墨もそれに賛同の意を示した。


「それはあたしもそう思う。実際、自分が言うとなると気恥ずかしさが勝るもの」

「前から言ってるじゃん! 皆、澄冷の好きなものを好きなんだって」


 海月に続いた藍墨と、その二人の言葉を笑顔で纏める弥香。


 澄冷は動揺を隠すように湯船の中で体育座りをすると、呻きながら顔を真っ赤に染める。「もうのぼせた?」と藍墨がニヤリと笑ってやると、「うるさいっ、えい!」と湯船に両手を浸けた澄冷の水鉄砲が対面の藍墨を狙う。しかし、狙いは誤り、それは少し距離を置いて藍墨の隣に居た海月の顔面を叩いた。びしゃ、と軽快な水音が響く。


「行き付けの葬儀屋はありますか?」


 海月は笑顔を手拭いで拭いた後、湯から身体を引き揚げず、器用に澄冷へ詰め寄る。


 「ごめんごめん、ごめんなさい!」と澄冷はハイハイしながら逃げ出した。


 そんな二人をニコニコと楽しそうに眺めていた弥香は、「そうだ!」と手を叩く。上半分だけ湯面から手を出していたせいで、びしゃっとお湯が飛び散る。


「ねえねえ藍墨(あっしゅみー)。貸し切りだし泳いでもいい? 明日の海の予行演習!」


 弥香が前のめりにそう訊いてくるので、藍墨は苦笑しながら浴槽を眺める。


 常識に照らし合わせると止めるべきだ。第三者に実害は出ないが、器物損壊や怪我のリスクもある。しかし、許可を取るということは、弥香自身はその辺りのリスクもしっかり考慮をしているのだろう。藍墨は少し考えた後、指を四本立てた。


「激しく泳がない。浴槽を傷付けず怪我もしない程度の動きをする。絶対に他の場所ではやらない。見つかって怒られたら謝る。この四つを約束するなら泳いでよし」

「わーい! 約束する!」


 弥香はそう言うや否や、顔を上げたままのんびりと平泳ぎを始めた。弥香の矮躯であっても、流石に泳ぐと少し狭そうではあったが、約束通りに怪我をしない程度の泳ぎ方なので容赦する。あまり好ましくない行為ではあるが――まあ、海よりは安全だろう。


 その傍らで無事に報復を済ませた海月が、泳ぐ弥香を避けながら満足した顔で藍墨の脇に戻ってくる。対して、顔を全て湯面に浸け込まれた澄冷が、楽しそうに顔の湯を拭う。


「アンタ達と居ると退屈しないわね」


 藍墨が笑いながらしみじみと語ると、海月は隣で膝を抱えてニヤリと言う。


「藍墨さんもスカしてないで楽しめばいいのに」

「あたしは大人だから泳いだり騒いだりしないの」


 そんなやり取りを聞いた澄冷は、ふと、何かに勘付いたように瞬きを繰り返す。


 そして何かを言おうと口を開きかけ――思い留まって閉じ、言葉を選び直す。


「そういえばさ、二人はこの時間は何をしてたの? ホテルには居なかったんだよね?」


 クリティカルな質問を食らった藍墨と海月は、一瞬、動揺した目を交える。


 本来であれば疚しいことなど無く、動揺をする理由も無いのだが――全てを語るのは少し憚られて、藍墨が誤魔化すように答えた。


「暇だったから、気になってたソフトクリーム屋の珈琲を飲んで、後は適当に歩き回ってたら水族館の近くに戻ってたんで、また展示を見て売店に寄って」

「『適当に歩き回る』の範囲でバスを乗り継ぐなんて、凄いエネルギッシュだねぇ」


 澄冷は感心したように口を開け、そして、どこか嬉しそうに口を噤んで微笑む。


 何やら色々と見透かされているような気がしたが、藍墨も海月もそれ以上は語らない。


「エネルギッシュといえば弥香ですよ。よくもまあ泳げますよね、あれだけ騒いで」


 海月がそう話を逸らすと、泳ぐのに夢中になっていた弥香はパッとこちらを見る。それから不敵に笑って「人は私を体力お化けと呼ぶ」などと不遜なことを言ったが、半眼でニヤニヤとそれを眺めた澄冷が、「ふうん?」と告げ口をする。


「担当者さんと打ち合わせしている間、ずっとすやすやしてたのに?」


 自分で行きたいと言っておいて、よくもまあ。藍墨と海月が声を出して笑うと、弥香は仄かに頬を染めてぴゅーと口笛を吹いた。


「夜に向けて英気を養ってたの!」


 そう言うと、弥香は疲れたように泳ぎをやめてぷかぷかと流氷のように澄冷の方へ流される。そしてすっぽりと澄冷の腕の中に収まって脱力した。手のひらに感じる弥香の腹の柔肌の感触で面食らって狼狽える澄冷をよそに、弥香は両手で藍墨と海月を指す。


「夜は長いんだからね、二人とも。ご飯食べたら部屋でトランプだからね!」


 弥香がそう言って澄冷の足の間に座り直す。藍墨は苦笑を返した。


「修学旅行か」

「恋バナもしようね!」

「消灯後の男子か」

「でも明日は海だからね! あんまり夜更かししないように!」

「巡回に来た先生か」

「弥香ちゃん、部長っぽいことしてないの気にしてるから」


 澄冷がボソッと付け加えると、弥香は頬を膨らませて澄冷の脇腹を掴む。「ひゃ!」と上擦った声で背筋をピンと伸ばした澄冷は、少し恥ずかしそうに胸を隠しながら再び上体を湯船に沈める。幸いにも澄冷の足の間に座る弥香のお陰でその様子は見えなかったが、そういう問題ではないのだろう。澄冷は「弥香ちゃん」と怒りを込めて両頬を引っ張った。


 さて、ニコニコと弥香が謝ったり、明日以降の予定を確かめ合ったりしている内に、すっかりと長風呂になってしまった。


 澄冷が熱い吐息を吐き出しながら額を押さえ、立ち上がる。


「私、そろそろ上がろっかな」

「はいはい。あたしはもうちょっとだけ浸かってく」


 藍墨が前髪を掻き上げながら見送ると、その横の海月が「では私も」と肩まで浸かる。


「じゃあ私は澄冷が寂しくないように一緒に出てあげよう!」


 そう言って、ざば、と子供の様に遠慮なく波を立たせながら浴槽を出るのは弥香。


 澄冷はニコニコと嬉しそうに「ありがとね」と呟き、弥香と一緒に浴室を出る。


「廊下の方に自動販売機があってね、そこに珈琲牛乳が置いてたの!」


 そんな風に弥香が語りかけ、


「一緒に飲んでから戻ろっか」


 と、デレデレと相好を崩す。そんな二人が浴室の扉の向こうに消えた。


 その背中を黙って見守っていた二人は、ふう、と溜息を吐く。藍墨は浴槽の縁に肘を置くようにして寄り掛かり、海月は膝を伸ばして「んん」とストレッチをする。立ち上る湯気の中、ほんのりと上気した海月の煽情的な顔を藍墨は横目に盗み見た。


「やっぱり仲良いですよね、あの二人」


 ふと、そんな風に海月が呟く。藍墨は視線を前に戻しながら頷いた。


「清川は二夕見に露骨に甘いし、今回の部屋割も二夕見の提案でしょ?」

「弥香がどれだけ自覚しているのかは分かりませんけどね。好意は確かでしょう」


 海月が脱衣所から聞こえてくる騒ぎ声に目を細めて笑う。「そうねえ」と相槌を打った藍墨は、一日の疲れを吐息に詰め込んで吐き出し、天井を仰ぎ見た。


「友愛か恋愛かは分からないけどね」


 その言葉に、海月は「あー……」と呟いた後、微かに口許を緩める。


「これ以上の勘繰りは下種かもしれませんね。やめときますか」

「そうね、あたしもそうするべきだと思う。仲が良い分には結構」


 そんな藍墨の結論に海月は笑顔で頷く。


 さて、それからしばらく、穏やかな沈黙が二人の間を流れる。不思議と居心地は悪くない。お互いの息遣いだけがお湯の循環の音に紛れて聞こえるこの時間が愛おしい。しかし、あんまり長風呂が過ぎてものぼせるだけなので、頃合いは考えるべきだろう。


 藍墨がそう思って湯から上がろうとした時だった。湯気の幕の向こうで海月が呟く。


「藍墨さんって」


 藍墨が相槌の代わりに視線を向けると、バッチリと視線が交錯する。海月の表情は微かな緊張を帯びて、それを隠すように普段通りの笑みを取り繕っている。少しだけ不自然な落ち着きとでも言おうか。これから発する言葉に他意が無いことを強調していた。


「私のこと、好きなんですか?」


 ――あんまりにも突然で、藍墨は目を見開いたまま絶句していた。パクパクと何度か口を開閉して返答に窮する藍墨。辛うじて友愛の話かと気付いたものの、その逃げ道を塞ぐように、海月は視線を脱衣所の方に向けながら続ける。


「恋愛的に」


 ぴちゃ、と水の音を立てて藍墨は手を額の上に置く。


 長風呂で頭があまり回っていない状態に加えて、寝耳に水の問い掛けだ。限界を迎えたCPUの挙動が一気に重くなるのを感じながら「あー……」とファンを回すように呟いて呼吸を繰り返した後、藍墨はどうにか言葉を紡ぐ。


「返事の前に、まずはどうしてそう思ったのかを訊きたいんだけど」


 すると、海月は軽く笑って飄々と見える笑みで答えた。


「そんな真面目に受け答えするような話でもありませんよ、雑談です、雑談。ただ――臆面もなく大切にするって言ったり、恩義がどうのこうの言っていたとはいえ、珈琲一杯の為にバスに乗ったり、水族館の売店まで付き合ったり。そこまで、します? 普通」


 どうやら自分の善性を疑われているらしい。「なるほど」と藍墨は苦笑する。


 星ヶ丘海月を好きか否か。難しい質問だ。友愛であれば間違いなく頷いただろう。しかし、恋愛。生憎と恋愛経験の無い藍墨は自分の抱いている感情が世間一般においてどのように区分されるのかが分からない。例えば、他のクラスメイトに比べて秋楽や小春といった相手は親しい友人だ。サイバーセキュリティ研究部の面々は、更に踏み込んだ親友と呼ぶにも相応しい関係だろう。そして、海月は――――――、


 そんな藍墨の思考を遮るように、淡々と海月は呟いた。


「構いませんよ、私は。貴女となら交際できます」


 自分は選ばれる側に違いないという絶対的な自信を不敵な笑みに湛えながら、海月は膝を抱えて悪戯っぽい笑みを藍墨に向ける。長風呂によるものか、その頬は赤い。そしてきっと、藍墨の顔も真っ赤に染まっていることだろう。生憎と、その頬の紅潮は誰が何と言おうとも長風呂の影響で間違いは無いのだが、それでも、動揺は確かにあった。


 しかし、藍墨はふっと笑って浴槽にかけていた腕を下ろす。そして乳白色の湯に肩まで浸かって疲れを雪ぎながら、間延びした声で答えた。


「付き合うなら、ちゃんとした告白をしてからがいいかな」


 肯定も否定もしない、少し狡い藍墨の返答を聞いた海月は、目を丸くする。そして、参ったと言いたげに相好を崩すと、「そうですか」と笑い飛ばすように言った。


「純情ですね、藍墨さんは。純愛派というやつですか?」

「海月が不純すぎるのよ。あたしだってロマンチックな恋愛はしてみたいもの」

「相手が女の子でも?」


 海月が平然と訊いてくる。


「女の子でも」


 あっけらかんと答えた藍墨を物言いたげに眺めた海月は、「やれやれ」と困ったように呟く。そして、徐に体勢を変えると、静かな水音を立てながら湯船を立った。


 やわらかで艶めかしい肢体に湯を伝わせながら、海月は藍墨の前に向き合って立つ。


 目を白黒させて胸で早鐘を打つ藍墨。


 その目の前で前屈みになった海月は、両膝を突いて藍墨の両頬に触れた。


「その言葉、忘れないでくださいね」


 そう言って囁く海月の眼差しは、クラゲどころか、獲物を見付けた鮫のようですらあった。藍墨が思わず足を閉じると、脚と脚が触れ合う。眼前に足れる二つの果実から唾を呑んで目を逸らそうとするも、ぐい、とその手に前を向かせられる。藍墨はぐっと目を瞑って何度か呼吸を繰り返すと、苦笑しながら目を開けて、頷いた。


「思ったよりも早かったわね。二回戦目」


 海月はその言葉に「ですね」と笑って目を瞑ると、再びそっと立ち上がる。


 そして藍墨に背を向けると、ひらひらと手を振りながら脱衣所の方へと歩き出した。


「それでは私はこの辺りで。澄冷さん達の部屋に居ると思うので」

「はいはい、あたしもすぐに出るとは思うから」


 そうは言いつつも、海月の背中が扉の向こうに消えるまで立つことは無い。


 その背中が完全に見えなくなってから数秒後、高鳴る鼓動を抑えるように深呼吸を繰り返す。俯いて、ぱしゃ、と目を覚ますように湯を顔に打ち付ける。それを何度か繰り返した後、それでも顔の熱は消えなかったので、藍墨は膝を抱えて座り、そこに置いた腕へと額を押し付けながら「あー……」と呻いた。


 心臓がうるさい。体中の血液が熱いのは、長風呂が原因だと決めつけて問題ないか。


 胸がおかしい。何かに絞られているような奇妙な感覚に襲われ続けている。


 弥香の過去に基づく問題に対しては、弥香自身の意思も汲み取って静観を選んだ。対して、海月の時には、彼女の主張が全面的に的外れではないと理解しながらも口を挟んだ。無論、そこには奉仕的過ぎる彼女への不満もあったが、ようやく、そこまで入れ込んだ理由が自分でも理解できたような気がした。




海月(アイツ)のこと、好きなのかぁ」




 『どちらの主張が正しいのか』という一回戦目は藍墨の勝利に終わった。


 そして続く二回戦目は、ちゃんとした告白をしてからがいいという藍墨の回答に対して、海月が宣戦布告したことに端を発する。きっと海月は、藍墨が自分に好意を寄せていると理解している。そして、藍墨もまた、海月の好意をハッキリと感じ取った。お互いがお互いの好意に気付き、気付かれていると知り、それでも交際をしないなら、つまり。


 ――お前から告白させてやる、と、そういうことだろう。


 これはまた、面倒な相手に惚れてしまったかもしれない。


 藍墨はそんな風に胸中で嘆息をした。




 一足早く脱衣所に戻った星ヶ丘海月は、何食わぬ顔で着替えの前に立つと、一瞬、辺りに視線を巡らせて誰も居ないことを確かめる。


 近くに自分以外が居ないことを認めた海月は、長風呂で上気した顔を両手で覆った。


 ――言った。言ってしまった。絶対に、好きだってことが伝わってしまった。


 「うぅ」と呻きながら、海月は手を剥がして天井を恨めしそうに眺める。


 そして、顔を悩ましそうに歪めると、今度は取り出したバスタオルに沈めた。


 誰かに好意を伝えるということがこんなに緊張するものだとは思わなかった。拒まれたら、愛想笑いで受け流されたらどうしようかと、途中から緊張が尽きなかった。


 ――朝陽藍墨が好きだ。


 最初は、似た境遇であることから気に留める程度だった。だが、次第に、彼女の人柄が魅力的だと思えるようになってきた。てっきり海月自身、その魅力は友愛を助長させるものだと思い込んでいたが――自分を見て、自分を心配して、自分の為に言葉を尽くして、そして行動してくれる、そんな一途な感情を満更でもない相手から受け続けて、何も思わないなんてことはできず。少なからず特別な感情が芽生える必然性があって、今回、それは恋愛感情だったと、そういう話だ。


 だからこそ、藍墨の目の中に自分への愛情があったことは嬉しかったし、気を抜くと笑ってしまいそうだった。


 しかしながら、相思相愛だというのに交際まで発展しなかった理由は何故か。


 簡単だ。何となく、お互いにプライドが邪魔して自分から交際を申し込まなかったのだ。海月もまた、最初の『付き合っても構わない』という言葉に『ちゃんとした告白』を要求された時点で、焦って、ちゃんとした言葉を準備できなかった。


 今からでも浴室に戻って言い直そうか。そんな葛藤と共に海月は潤んだ目で扉の方を見るが、そんな恥ずかしいことはできないので、呻きながらバスタオルに顔を埋め直す。


 心臓がうるさい。「うるさい」と言うも、静まる気配は無い。


 今更、告白し直すのは難しい。故に、海月が取れる選択肢は一つ。


 海月は喧しい心臓をどうにか飼い慣らしながら、胸中で独り言ちた。


 ――いつか必ず、藍墨から告白させてやる。


 逆恨みにも近い決意を抱き、海月は邪念を振り払うように髪を拭いた。



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