25話
深海の底に迷い込んだのではないか、と錯覚するような情景だった。
チケットを購入して水族館の中に踏み込んだ四人を待ち受けていたのは、海の底を思わせる薄暗い内装と、それを仄かに照らす展示水槽の青と紫の照明だ。暗闇から光を求めて視線を彷徨わせた先には、鮮やかな光を浴びて揺らめき動く、水棲生物達。
館そのものは都心の名高いそれらと比べるとあまり大きいとは言えなかったが、ハッキリとしたコンセプトの中で泳ぐ生物達は、心よりも強く、脳に知識として届く。
「私、シーラカンス見てくるね!」
一階をぐるりと見回した弥香は、目当ての生物が居ないことを悟って速やかに二階へ行こうとする。もう高校生なのだから一人でも大丈夫だろうが、それでも心配だったか、澄冷は弾かれたように弥香の歩き出した背中を見て、「私もっ」とこちらに手を振ってからその背中を追いかけた。
「ねえねえ澄冷。シーラカンスの水槽って大きいのかな。どんな風に泳ぐのかな」
「弥香ちゃん。ここのシーラカンスは生きてないの。冷凍保存なんだよ」
澄冷の口から語られた衝撃の事実に、「えっ」と表情を強張らせる弥香。そうして去って行く二人を藍墨と海月はしばらく黙って見送る。そして、目を合わせた。
「――じゃあ、あたし達は一階から観ていこうか」
「ですね。二人きりだからって変なことしないでくださいね」
「二人きりだからって変なこと言わないでちょうだいね」
そんな軽口を叩き合いながら薄暗い道を歩いて、鮮やかに光る水槽を眺めていく。
平日の昼過ぎということもあってか、利用客はあまり多くない。藍墨と海月が居る通路には人影一つ見当たらない。ので、少しくらいの談笑は構わないだろう。
「朝陽さんって、エビは好きですか?」
丸枠の水槽に展示されたエビをマジマジと眺めながら、海月がそうニヤリと笑う。何だか嫌な予感がして苦笑をしつつも、藍墨は素直に答えてみる。
「まあ、嫌いじゃないけどね」
「エビって陸上に居たらカマドウマと見分けが付かなくないですか?」
「今嫌いになったわ。アンタと一緒に」
藍墨は想像してげんなりと吐き捨て、海月は何が可笑しいか、コロコロと笑う。
「しかもアンタ、昼はエビ天食べてたじゃん」
藍墨が指摘すると、どうやら失念していたらしい。想像をした彼女は青い顔を歪めた。
「どうしてそれを言うんですか。超えちゃいけないライン考えてくださいよ」
「そのラインがアンタの後ろにあって見えなかったのよ」
「歩み寄ってきた相手にその言い草は何ですか」
「詰め寄ってきたの間違いでしょ」
「言い寄ってきた相手もそうやって突き放すんですか?」
海月は意図していないだろうが、ふと思い起こすのはサイバーセキュリティ研究部の入部前。城島の顔を思い出す。ここ最近ではピタリと止んだが、藍墨はしばしば想いを寄せられることがある。あまり興味が無いと断ってきた過去を思い出し、一抹の罪悪感が胸を襲い、一人で勝手に呻き声を上げた。
「何か分かりませんが勝手にダメージ食らうのやめてくださいよ」
海月が呆れて目を細めながら言うので、「うるせ」と藍墨は吐き捨てる。
そうしてその場を歩き出そうとして、ふと、海月がそんな藍墨の裾を摘まむ。「ん?」と藍墨が振り返ると、海月が展示物の脇の方に掲載されている『撮影・SNS投稿OK』の文字を指す。そういえば、澄冷の依頼で何枚か写真を撮る必要があるのだった。
二人はフラッシュを切ってから何枚かエビの写真を撮って、今度こそ歩き出す。
「そういえば朝陽さんって、私には劣るけど顔は良いじゃないですか」
「あたしが拳を握れば翌日には腫れ上がるその顔が?」
「そこまでやってトントンじゃないですか? 私と朝陽さんは」
「この手が拳を握ってる間に続きを言いなさい。ナイフになる前に」
藍墨が握った拳を懸命に開閉して堪えていると、クスクスと小悪魔な笑みを覗かせた後、海月は視線を水槽の中の魚に向けながら呟いた。
「告白とかはされてそうですけど、交際経験ってあるんですか?」
全く予想もしていなかった話題に、藍墨はしばし目を丸くしてその顔を見詰めた。すると海月は何を思ったか、「私はありませんよ」と訊いてもいない返事をする。
「……いや、驚いたのよ。今までそういう話をしてこなかったから。急にどうした?」
「どうやら告白を振った経験がありそうだったので、良い機会だから恋愛談議をしてみようかな、と。一回でいいので、友達とこういう話をしてみたかったんですよ。ほら、弥香と澄冷さんは、ね? ご存知の通りに――」
海月がそこで言葉を濁すが、藍墨にも言いたいことは伝わる。
「――まあ、そうね。何と言うか明らかに、そういう意識をし合ってる感じはする」
「です。ので、下手にそういう話題を出せなくて。二人以外にも友達が居ない訳ではありませんが、私ほど可愛いと牽制とか僻みとか憧憬とかで面白みに欠くんです」
確かに、あまり容姿のことばかり考えるのも如何なものかとは思うが、海月のような美形がそんな話題を振ってきたら、自分の損得勘定をしてしまう人間も多いだろう。
その点、藍墨は特別に気になっている相手が居る訳でもない。何なら、今、一番気になっているのは目の前の女がどれだけ他人に奉仕的に生きるのかという問題だ。
故に、藍墨は気負いなく質問に回答した。
「質問に答えると、交際経験は無いわね。そういうのって、中学頃から始まるイメージだけど……ほら、あたしは中学、殆ど行っていなかったから」
「そもそも機会に乏しいと。なるほど、しかし高校では無縁でもないのでしょう? 二、三回くらいは告白されたこともあるのでは?」
「そうね。言い寄られる機会が何度かあるけども。生憎と、あんまり興味も無かったから断り続けてきたわ。――よくもまあ、こんな顔くらいしか取り柄の無い女に惚れるもんよ」
藍墨が軽薄に肩を竦めると、海月は目を細めて口許を緩める。
「朝陽さんは顔だけじゃないでしょう。私が知る中で、貴女は屈指の善人です」
海月は心にもない綺麗な言葉を平然と言える人間だと思うが、その言葉は本心なのだろうなと思わされる声色だった。藍墨は照れ隠しに目を逸らす。
しかし、海月の言い回しに引っ掛かる部分を覚えた藍墨は、ふと言い返す。
「……まるでアンタ自身は顔しか取り柄がないみたいな言い草ね?」
「事実、そうでしょう。貴女と比べると素敵な内面をしているとは思えませんよ」
「そんなことはないと思うけど」
自嘲気味でもなく、楽観的に事実を呟くような海月の言動が癇に障った藍墨は、真っ直ぐと海月を見詰めて賛辞を贈る。
「相手に見えない場所で気を遣うから知られないだけで、手柄を評価されなくても相手の為に行動できるアンタは、間違いなく立派よ」
すると海月は丸い目を何度か瞬きさせ、ほんのりと頬を染めて「そうですかね」と噛み締めるように視線を逸らした。
「ふと、思い出しました」
「何を?」
「私と交際したくて下心で褒めてきた男子生徒達のことを」
「おい台無しだよ。人の誉め言葉を何だと思ってやがる」
「すみません、朝陽さんとお付き合いする意思は無く」
「謝るな謝るな! 本当に下心だったみたいになるでしょうが」
藍墨が噛み付くように言い返すと、海月はクスクスと笑って「冗談です」と呟いた。
どこからどこまで冗談かは明言せぬまま、海月はそのままふらりと歩き出す。手の中から何かがすり抜けたような感覚を覚え、藍墨はその背を追って話を振った。
「そういえばアンタって、どうして裏垢女子なんてやってるの?」
「どうして、とはまた急ですね。質問に質問を失礼しますが、どうしてそんなことを?」
海月がその辺の水槽の前に立って不思議そうに首を捻るので、藍墨は答える。
「承認欲求が強いなら、アンタほどの奴ならその辺の相手と適当に交際とかして満たせるでしょ。でも、そうしない。そういうのに興味が無いなら何でかな、って」
すると「なるほど」と顎を摘まんだ海月は、「ゲームですね」と率直に回答した。
「ゲーム?」と藍墨が眉を顰めて尋ねると、海月は大きく頷く。
「澄冷さんのような矜持は持ち合わせていませんし、弥香のように切実な渇望もありません。ただ、先程もお話をした通り、私は楽しいことが好きです。だから、SNSアカウントのフォロワーというレベルを上げるゲームをやっている感覚です」
これまた不思議な感性に藍墨が黙っていると、海月はこう続けた。
「BANというゲームオーバーが迫る代わりに、爆発的に数字が伸びるグリッチがエロ画像の投稿です。で、捏造系の投稿は正当な攻略法って感じですかね。つまり、暇つぶしのソーシャルゲームのようなものです。やめようと思えば明日にでも」
――これだけ話していても、藍墨には星ヶ丘海月という人間の重心が見えなかった。
星ヶ丘グループの社長令嬢という立場でありながら、それを拒んで一人で暮らすという表面を持ち、それでいて弥香や澄冷という友人を心から大切にして、しかし恋愛に関心はあっても交際をしたいなどとは思わず、ゲーム感覚で露出画像を投稿する。
ここ最近で打ち解けたつもりだったが、まるで掴み所が見えない。それが怖い。
海月がゆらゆらと水槽を眺めながら歩き回る中、それを追ってそう考える藍墨。
ふと、海月がある水槽の前でピタリと動きを止めて藍墨を見た。藍墨はどうかしたか、と海月の視線を受け取った瞳を、そのまま彼女の目前にある水槽へ向ける。
「シンカイウリクラゲ、だそうです。深海にもクラゲが居るんですね」
薄暗い水槽の中、発光――光を反射しながら揺れ動くクラゲの姿を二人で見詰めた。
「ややこしいわね。海月とクラゲがいると」
「でも朝陽さんは星ヶ丘って呼ぶじゃないですか」
「じゃあこっちもシンカイウリって呼ぶか」
「インディーズバンドを独自の呼び方して古参ぶる痛いファンみたいですね」
「そっちのクラゲは毒を持ってないらしいわね。こっちは持ってるのに」
藍墨がパネルの文章を読んでやると、海月は可笑しそうに目を細めた。
そしてしばらく視線をクラゲに戻して、愛おしむようにスマホを取り出して、一枚の写真を撮った。クラゲが好きなのだろうかと藍墨が見ていると、彼女は語り出す。
「――クラゲってプランクトンの一種らしいですよ」
撮った写真をマジマジと眺めて満足そうに頷いた海月の横顔を藍墨は見詰める。
「プランクトン? あの小さい奴だっけ」
「大きさのイメージが先行する方もいますが、実際の意味は『浮遊生物』だそうです。要は遊泳能力に乏しい生物を指してそう呼ぶとか。つまり、クラゲも泳がず海流に流されて、どこかへ運ばれる浮遊者――漂流者ということなのでしょう」
鼻腔の奥に潮の香りを錯覚した。暗流に流されるクラゲの姿を想像する。
「波が流れ続ける以上、一か所に留まることはできない生き物なんでしょうね」
そう言ってふらりと歩き出した海月は、水槽を眺めながら先へ行く。その姿が、まるで見えない海流に流されているようで、藍墨はしばらくその場から海月を見詰めた。
藍墨はサイバーセキュリティ研究部の面々が好きだ。当然、その中には海月の存在も居る。最初に藍墨に手を差し伸べてくれた彼女には、他二人には悪いが特別な感謝もある。
高校二年間は在籍するだろう。卒業後も、何だかんだと集まる様を想像していた。
だが――超有名企業の社長令嬢であり、そこから背を背けるために家出をして、今は一人暮らしをしている。部屋はいつか消えてしまうのではないかと思うくらい家具が少なく、自分の困りごとは退屈の一言で切り捨てて誰にも頼ろうとしない。
いつか、ふらっと、海月がどこかに消えてしまうのではないかという不安が過る。
下らない連想ゲームかもしれないが、藍墨には彼女の重心が見えない。或いは重心が無いのだとすれば、クラゲのように、波に攫われて運ばれる生き様ということでもある。
「朝陽さん? どうしました? また何か悩み事ですか?」
少し先行していた海月が、藍墨が付いてこないことを不審に思って首を捻る。
――しかし、海月の人生だ。彼女の選択に異議を唱える権利など藍墨には無い。
藍墨は両頬を叩いて気持ちを切り替えると、不思議そうにする海月を追った。
「今日を楽しみにし過ぎて寝不足だったのよ。立ったまま寝てた」
「ちょっと、倒れたら旅行が台無しなんですから。自己管理を徹底してください」
「少しくらい心配をしなさいよ」
「澄冷さんか弥香だったら多少は。貴女はそういう相手ではないでしょう」
やれやれ。藍墨は肩を竦めながら、先行する海月を追って展示物を堪能していく。
何だかんだ、一時間程度は眺めていただろうか。最後に二階でシーラカンスの冷凍保存を眺めた二人は、それに圧倒されていた。満足した頃に海月が時間を確かめる。
「――十五時。そろそろ移動を始めてもいいかもしれませんね」
「結局、二夕見達とは会わなかったわね。この狭い水族館だってのに」
「綺麗に入れ替わりですれ違ったんでしょうね。まあ、一階で待ってるでしょう」
言いながら海月が階段の方を指すので、藍墨は頷いて二人で一緒に歩き出す。
すると、二階の端の方にショップが見えた。水族館のオリジナルグッズが置いてある売店だ。外壁を取り囲むようにぬいぐるみが並べられ、中央には小さなアクセサリーや日用雑貨類が置かれている。――ジ、と海月は歩きながらそちらを眺めていた。
「寄ってく?」
藍墨が足を止めて訊くと、海月は我に返ったように視線を藍墨に戻す。
「いえ、寄ったら時間をかけて眺めたくなりそうですから」
「連絡すれば大丈夫よ。どうせアイツらも来るだろうし」
「あんまり私一人の都合で振り回し過ぎるのも本意ではありません。先に二人と合流して、向こうがどうしたいかを聞きましょう。私はそれに合わせます」
海月は弥香と澄冷の楽しそうな姿が好きだと言っていたが、それにも限度はある。
藍墨は社交的に紡ごうとした了承の言葉をぐっと飲み込み、溜息を吐く。
「そうやって星ヶ丘自身がやりたいことを無視するのは、どうなの?」
やや詰問するような訊き方をすると、海月は少々慌てたように弁明を口にする。
「それは誤解ですよ、朝陽さん。その――何やら私を徹底的に利他的な人間だと誤解しているかもしれませんが、そうではありません」
半信半疑で眉を顰める藍墨に、海月は淡々と説明する。
「例えば、限定の珈琲豆や茶葉があったら制止を振り切っても買いに行きます。でも、水族館の限定グッズくらいなら、他の人を待たせてまで買いたいとは思わないんです」
それらしいことを言うのが実に上手な海月だった。藍墨は複雑な顔で黙る。
そんな藍墨に「貴女の気遣いは嬉しいです」と海月は微笑みつつ言葉を続ける。
「でも、例えば昼の十三時に散歩が日課の人でも、旅行中は控えるでしょう。人はそれを協調性と呼びます。私は人より少し、その範囲が広いだけなんですよ」
その言い分が正しいのかはともかく、少なくともこの舌戦で彼女を負かすのは無理だ。
藍墨は溜息を吐いて頭を掻き、渋々、頷いた。
「分かった、あたしが強引だった。でも、時間がありそうなら寄ろう」
「ええ、是非」と穏やかに頷いた海月は、そのまま階段を下り始める。藍墨が吐き出したい言葉の数々を飲み込むのに苦心していると、海月が笑顔で振り返り、言った。
「気を遣い過ぎです。貴女が思うほど、私は抑圧的な人間じゃありませんよ」
藍墨は納得するように何度か頷きつつも、往生際悪く言い返す。
「人の我儘を聞き入れるのに、自分の我儘を言わないのは、自己の抑圧じゃないの?」
すると海月は、少し悩ましそうな笑みで視線を虚空に投げた。
「……歯痒いですね。こちらの気持ちが伝わらないのは。私は皆さんと過ごす時間が大切だから、その意思を尊重したいだけなのですが」
例えば誕生日に家族へケーキを購入するのは、愛情だろう。しかし、経済的負担だ。
藍墨は後者にばかり目を留めて、海月は前者を主張し続けているということだろう。
そう表現されると少しばかり自分は視野狭窄だったかもしれない、と、藍墨は考えを改める。確かに、愛情を自己犠牲の一言で切り捨てるのは傲慢だった。「ごめん」と藍墨が素直に詫びると、海月は少々意外そうに目を丸くして、「いえ」と微笑んだ。
しかし、だとすれば、藍墨はモヤモヤの残る自分の気持ちとどう向き合うべきなのか。
そんなことを考えていると、階下の自動販売機近くにあるベンチに弥香と澄冷が居た。どうやら既にショップに寄っていたらしい二人は、キーホルダーを見せ合いながら何やら楽しそうに談笑をしていた。藍墨と海月は一瞬視線を交え、今は気持ちを抑え込む。
「お待たせしました」
海月がそう声を掛けると、二人は弾かれたように顔を上げた。
「やー、全然会わなかったね! どう? 二人は全部回れた?」
弥香が海月と、それから後ろを歩いてくる藍墨を順に見てそう尋ねる。
その質問には、気持ちを切り替える切っ掛けが欲しかった藍墨が答えた。
「お陰様でね。そっちも充分に堪能したみたいね。売店まで寄って」
「んふふ、サカバンバスピスのキーホルダー買っちゃった! 展示してないのにね!」
「私はメンダコのボールペンを買いました。すっごく可愛い!」
キーホルダーを掲げる弥香とボールペンを見せつける澄冷。
すっかりと毒気を抜かれた二人は弱々しい笑みをこぼす。
「二人は何か買った? それともこれから寄る?」
ふと、澄冷がこちらに気を遣って尋ねてくれた。
藍墨はピクリと眉根を動かした後、先程のやり取りを気取られない無表情を努めながら「あたしはいいけど」と海月を見る。そして、返答を間違えたことに気付く。
海月は藍墨をちらりと一瞥した後、首を左右に振った。
「私も結構です。それより、そろそろ良い時間ですし、澄冷さんもご挨拶があるでしょう。まずは一度、ホテルでチェックインを済ませて自由時間としましょう」
藍墨がひっそりと溜息を吐き出す中、それに気付かない二人は「はーい」と元気よく立ち上がって出口へと向かおうとする。
引き留めるならここが最後だろうと藍墨は言葉を探すが、その瞬間。
歩き出した二人の背後に少し遅れて続く海月が、藍墨を振り替える。そして、余計なことは言わなくでも結構――とでも言いたげに、しー、と鼻先に指を置いた。
ここまでくると筋金入りだ。藍墨は感服と呆れを込めた苦笑と共に頷いた。




