坊主到来
「え?あんたのとこの子供が居なくなったって?」
突然の出来事につい声を荒らげてしまった。周りに誰もいないとはいえ、夜道で大声を上げるのは少々いたたまれない事だ。
とはいえ、同じく子供を持つ者として、子供がいなくなった不安はとても理解できる。
「それでその子を探して欲しいって?ああ……まあいいけど。これは借りだからね……ええ、じゃああとで」
そう言い電話を切ると、私は駆け足で子供が行きそうな場所を探した。早く家に帰す必要があった。取り返しのつかなくなる前に見つけないと……
しばらくすると、路地でうずくまる一人の少年が目に入った。首に刻まれた紋様を見るに、確かにあいつの家の子供のはずだ。
私はその少年に近づき、立ったまま話しかけた。
「坊や、こんなとこで何してるんだい?」
俯いたまま何も答えない。こんな風になるなんて、一体あいつは何をやらかしたんだ。
「早く帰りなさい」
またしても何も答えない。二回も無視されると流石に苛立ちを覚えてくる。大人の言うことはちゃんと聞けとあいつに教わらなかったのだろうか。
「なんであたしが子守りなんか……親に迷惑かけるんじゃないよ」
「親……お姉さんはパパの友達なの?」
親という言葉に反応したのだろうか、少年はようやく口を開いた。
つい苛立ってしまい言葉を零してしまったが、にしてもあいつは自分のことをパパと呼ばせてるのか…… つくづく嫌なやつだ
「そうよ。お姉さんは坊やのお父さんと友達なの」
しゃがんでそう答えてやった。
よく見るとその少年の体は酷く痩せていた。誰でも目元を見ただけで普通ではないことが分かるだろう。
このままではまずい。強引にでも連れて帰るか。
「さあ、親のとこに帰るわよ」
私は少年に向けて手を伸ばした。
「嫌だ……帰りたくない……」
どうしてこの子は大人の言うことを聞かないんだ!
価値が下がるからあまりしたくなかったけど仕方がない。
「大人しく私の言うことを聞……い……!!」
そう言うと同時に私は手を振りかざした。
が、どういう訳か私の視界が傾いていく。何が起きているの……理解が追いつかない。
必死に眼球を下に向ける。
私の身体……と、赤い何かが……
(……………………血いぃぃぃぃ!!)
私の身体から……首から血が出ている。だが叫ぼうにも声が出ない。
微かに誰かの足音が聞こえる。誰かがこっちに向かってきている。助け、助けを……
「あっはっは!生首なのにまだ生きとる!」
(え……この男何を言って……)
私はようやく状況を理解した。私は首を跳ねられもう死ぬ寸前なのだと。にしても人が死にかけてるのに笑うなんて許せない。
「お前の首を跳ねたのは俺だよ」
途絶えかけの意識の中、余計に苛立ちが抑えられない。
なぜこの男はこんなに堂々と話していられるのか。
「怒ってるのか?だがお前にそんな権利はない!近頃子供を攫って人身売買してる奴らがいるって聞いて探してたんだがお前もその一人らしいじゃないか!」
もう足がついていたのか。だけど組織に捕まるよりはマシだ。あいつらに捕まった奴らの末路は組織の人間ならよく知ってる事だ。
それよりこの若い男、黒い法衣に金色の袈裟を纏っている。 それに……髪がない。
似たような話をどこかで……
「お前……坊主か!!」
次の瞬間、女の意識は途絶えた。
「南無妙法蓮華経」
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