戦争 VS 便意
食あたりを起こして俺が出すのウンコ(下痢)だけ!!!になってた
俺たちが2人目の王女様を脱糞させてから、少しばかりの時が流れた。
どれくらい経ったかは分からん。俺のスマホは初日に投げ捨てたし、延寿のは異世界召喚された時に鞄の中に入れてたらしく、つまりは教室に置き去りだ。
この地域一帯は気候も安定しているようで、明確に四季を感じたことがない。というか1年が365日なのかも知らないし、人に聞いてみても分からなかった。カレンダーというものも俺が知る限りでは存在しない。たぶん1年はまだ経っていない気もするし、もう1年を過ぎた気もする。
2度目の国外逃亡を成し遂げた俺たちは、最初の国とも次の国とも異なる国で、
「はーいエールおまちどぉ! 注文? 何? またエール!?」
「トトちゃんこれも洗っといてー」
「あいよーかしこまりー」
冒険者ギルドの食堂で働いていた。
俺はどぶ洗いのトト改め、皿洗いのトト!
《ウォシュレット》の水で皿を洗うのは衛生的なのかどうか、考えるのはとうに止めた―――。
まぁ水魔法は飲んでよし料理や怪我の洗浄に使ってもよしとのことなので、清潔なんだろう、多分。
しかし最初は大ハズレだと思っていたこの《ウォシュレット》、異世界転移特典としては大の大当たりだ。ウンコだけに。
というのも、異世界のウンコ事情は、現代人にとっては非常に辛いものだったからだ。羊皮紙が高価なこの世界では、当然ながら尻を拭くのに紙なんて使うはずがない。
俺たちがよく知る、トイレ掃除に使うスポンジが付いた棒があるだろ? この世界では、なんとこのスポンジ棒を使って、トイレではなくウンコをした後の尻を洗うのだ。しかも他人と共有する。正直汚い。
旅の最中の場合はその辺の葉っぱだとか、食料にと捕まえた野生動物から剥いだ皮を使ったりするらしい。
延寿が必死で俺を追ってきたのも、今となっては理解できる。
ちなみに水魔法を使えるやつは水魔法で尻を洗う。異世界ウォシュレットはここにあったんだ……!
そしてもう一つ、《ウォシュレット》がまぎれもないチート能力だった点がある。
「トトちゃんは水をじゃぶじゃぶ出せて助かるわぁ」
「水魔法だけしか使えないけどねー」
身体を動かすのに体力が必要となるように、魔法を使うには魔力が必要だ。そして体力が尽きれば身体を動かせなくなるのと同様に、魔力が尽きれば魔法を使うことは出来なくなる。
だが水魔法、もとい《ウォシュレット》を使った水の放出で、俺が魔力切れを起こしたことはない。というか水魔法と《ウォシュレット》の違いが分からないし、魔力が減った感触を覚えたことも無い。
たまに魔力だけは滅茶苦茶多いやつもいるらしく、今のところ有難がられることはあっても、怪しまれることは無かった。
こうして俺たちは異世界で平和に暮らしましたとさ、ちゃんちゃん。
「戦争が始まったぞー!!!」
と、そうは問屋が卸さなかった。
本日の営業終了後、俺は延寿と一緒に帰り道を歩いていた。冒険者ギルドの食堂というのは、つまるところ情報交換の場だ。今回起きた戦争について、延寿は仕事をしながらも聞き耳を立ててくれていたのだ。
なんでも、俺たちを異世界召喚した国と、俺たちが最初に不法入国して2回目の王女様脱糞事件を起こした国、2つが結託して今俺たちがいる国を侵略しているらしい。
「どうしよう。逃げる?」
「アンタねぇ……よくそんなすぐに何でもホイホイ捨てられるわね」
「命あっての物種ってな。まぁ言うて実際、俺たちが前線に送られる可能性は低いんだろうけどさ」
水魔法に攻撃能力はない。いや、まぁ、使い方によっては拷問にも使えたりはするんだけど、それこそ魔法なんて使わず普通の水を使ってもいいわけで。
ちなみに延寿の魔法適正は光と闇だ。光魔法は杖とか、体のどこかを光らせることが出来て、今も帰り道を照らしてくれていた。
もう一つの闇魔法は、闇を生み出す魔法だ。あと暗視も使える。暗殺向きの魔法であると同時に、暗殺対策としても広く知られている魔法でもある。そのほかにも夜は月明かりくらいしか光源がないこの世界では、夜目が効くというのは普通に強みで、使えるやつも割と多い。そんなわけだから闇魔法が使えるからと言って、迫害を受けたりは今のところしていない。
夜目が効くんなら曇り空でも《占星術》が使えるんじゃね? と俺は思ったのだが、どうやら暗視で星が見えるだけでは意味がないらしい。星の光とかが必要なんだそうだ。
「とりあえず前回の反省を生かして、今回は一回宿に帰るわよ。ちょっと雲があるけれど、《占星術》を使ってみるわ」
「どっちにしろ荷物とか取りに行かなきゃだしな」
で、占星術を使ってみた。目的は『どうやったら戦争に巻き込まれずに済むか』だ。
その結果を受けて……、
「そうかい。トトちゃんたち、止めちゃうのかい」
「うん。前も話したけど、俺たちじいちゃんの知り合いを探してる最中だったからね。この国に知り合いがいないか色々と探してはいたんだけれど、戦争となるとそんな余裕もなくなるかなって」
「寂しくなるねぇ……。おばちゃんはね、アンタたちの赤ん坊を抱くのを楽しみにしていたんだけれどね」
「あ、あははははは……」
数日の間をおいて食堂の仕事も辞め、別の国に移ることにしたのだった。
お世話になった人たちへの挨拶も終えて、2人で街の外目指して歩き出す。
「そういや歩いて旅するのって何気に初めてじゃね?」
「それアンタだけよ。私は最初の一週間は徒歩とか合い馬車だったから」
「この辺けっこう人の往来が多いっぽいからなぁ。アイアンなやり方で移動できるの先になるかもな」
城門が見えてきた。戦争が始まったからなのか、人の出入りが普段よりも激しいような気がしないでもない。
「きっきみっ! もしかして、君はっ!!」
前方から歩いて来た女性が俺の顔を見るなり興奮し出して不審者丸出しで近付いてきたのは、そんな時だった。
誰だっけ? 知り合いにこんな人いただろうか。たまに怪我人が出た時には水魔法での傷の洗浄で出番があったりもしたけれど、普段は裏方で皿洗いをやってばかりだったので、単に俺が知らないだけという可能性はある。
そう思っていた次の瞬間、延寿が俺の手を掴んで反対方向へと走り出した。俺はそれに逆らわずに並走する。
「はっ! おい、なんだよ延寿!?」
「馬鹿ッ! 記憶力ウンコ以下! あいつアレよ! 2人目の王女と一緒にいた女!!」
「ウッソだろ!?」
昔のような騎士然とした姿ではなく、よくいる旅人みたいな恰好をしていたので全然気付かなかった。ていうかこいつよく気付けたな。
「ま、待って! 待ってくれ!」
待てと言われて待つわけが、
「待ってくれ、ダーリンっ!!!」
……は?
ところで食あたりで寝込んでる最中、花粉症の症状がピタリと止まってたんですよね
これって、ライフハックになりませんか?(ならない)