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歴史 VS 便意


 仕方がない。知らないことは知ってるやつに聞くに限る。


「おーい、おっちゃんちょっといーいー?」

「お、なんだ話は済んだのか? どうだった嬢ちゃん、ちゃんと認知してもらったか?」

「殺すわよ酔っ払い」

「おぉ怖、こりゃ鬼嫁になるタイプだぜ。俺の占いはよく当たるんだ」

「そういうのいいからさ、隣の国のこととか教えてくれない? どっちの方角に向かうのが一番近いとかさ」

「なんだお前ら、追われてんのか?」

「違う違う。追われてるならこんなところでのんびりどぶ掃除なんてしてないでしょ? 俺の身の上って話したっけ? じいちゃんと山で2人だけで暮らしてて、じいちゃんが死んだから山から下りてきて、馬車とか拾ってここまで来たんだけどさ。この子の親、じいちゃんの知り合いだったらしくてさ」

「嫁さんの実家に挨拶にいこうっつーわけか」

「違うわよ。何でこの手のクソ親父ってすーぐそっちの話に結び付けるわけ? ほんっといやになる」

「嬢ちゃんもおばちゃんって呼ばれる年になりゃあ自然と分からぁ」

「で、同じようなのがさ、他の国にも何人もいるらしいんだよね。だからじいちゃんが死んだってこと伝えて回ろうかなって。でも俺、周りの国どころかこの国のこともよく知らないしさ。とりあえず、隣国っていくつくらいあるの?」

「俺が知る限り8つだな」

「多っ!? ひょっとしてこの国って滅茶苦茶デカいの?」

「いや、逆だ。昔はな、この辺もまとめて大陸の半分くらいを支配していためちゃくそデカい国があったらしい。が、50年だか60年だか前に内乱が起きてな。30だったか40だったか……まぁいくつもの細けぇ国に分かれたんだよ。で、どの国も我こそが正当な後継者だーっつってしょっちゅう戦争してる。で、ここもそんな国の一つってわけだ」

「はーん」


 そういえばさっき延寿(えんじゅ)から教えてもらったな。俺たちを召喚したのは戦争のためだって。


「ひょっとして、戦争が始まったら冒険者も戦わなきゃいけなかったりする?」

「アンタ馬鹿ァ? それじゃ冒険者じゃなくて傭兵じゃない」

「あんま変わらん。この国じゃあ冒険者っつー呼び方だが、別の国だと同じような仕事なのに傭兵って呼ばれてるしな」

「え、そうなの?」

「つーか冒険者ギルドが何のためにあると思ってんだよ。国が戦力や人材を把握するためのもんだぞ」


 ん? ちょっと待って。それって、


「……もしかして、この国で取った冒険者の身分って、他所の国だと何の意味も無い?」

「当たりめぇだろうが」

「そこもテンプレじゃねぇのかよ……!?」

「なんだテンプレって」

「ごめん、なんでもない」


 マジかよ。普通冒険者って国には属さない自由業的なやつじゃないのかよ。

 魔法の属性の多さといい、チート能力のなんかズレた感じといい、この世界って変なところでテンプレから外れるよね。妙なこだわりとか出すんじゃあないっ! 困惑するだろ!?


「あ~、ひょっとして坊主、冒険者の話って、死んだっていうじいさんから聞いたのか?」

「え、まぁそうだけど」


 俺が世俗に疎いのもじいちゃんが与太話をしていたってことに出来るからな。ちなみに俺の本当のじいちゃんはまだ生きてる。滅茶苦茶元気で俺に子供が生まれて成人式を迎えてもまだ生きてそうなくらいには元気だったりする。

 ついでにもう一つ付け加えるならば、身の上話を言い始めた辺りから延寿は『アンタよくそんな都合のいい設定思い付いたわね』的な視線で俺を見ていた。


「さっきも言ったが、この国が生まれる前はそれはもう馬鹿でかい国でな。その頃だったら坊主が想像しているような、どこの国、っつったらおかしいが、まぁどこに行っても冒険者の地位は変わらなかったのかもしれねぇな」

「あー、なるほどねぇ……」

「まぁ、安心しろって。仮に戦争になったとしても、水魔法しか使えない坊主は後方部隊だろうからな。坊主は水魔法でどう戦えばいいんだって言ってたけどよ、医療に炊事に洗濯と、水魔法の主戦場は裏方なのさ」

「へいへい」


 とりあえず地図を買おう。そう思ったけれど、速攻で諦めた。


「たっか……!」


 日本円で換算すると、ざっくり5万円くらいの値段だった。しかも俺たちが現代で使っていたような正確なものとは全然違う、すごく雑なものにも関わらずだ。

 まぁ、こうなる理由も分かる。まず単純に、羊皮紙はそこそこ高い。どぶ掃除の報告書にまでそんなもんを使うなよと思わなくもないけれど。で、次に、多分この世界には、まだ大量印刷の技術が存在しない。つまり地図は手書きだ。高価になるのも理解はできる。

 地図の代わりに、おっちゃんからどの辺りにどんな国境があるのかを教えてもらうことにした。もっとも頻繫に戦争をしているせいで、国境もやっぱり頻繫に変わってしまうらしいので、あんまりあてにならないって忠告もされたけど。


「じゃ、さっさと出発するか」

「つーかよ、旅なんて出来んのか坊主ども」

「おっちゃん忘れてるみたいだけど、俺たち2人とも1人旅でここまで来てるからね」

「お? そういやそうか。お前らなんだかなよっちぃし、年の割にどうにもガキっぽく見えるんだよなぁ……」


 というわけで宿を引き払って、延寿と一緒に即座に街を出た。

 しばらく歩き、城壁が見えなくなり、周りに人もいなくなった頃、延寿が話しかけてきた。


「……ねぇ、こんなあっさりしたお別れでいいの? お世話になった人たちに挨拶とか」

「いーよ別に。つーか俺たちお尋ね者なんだからさ、下手に親しくしとくとおっちゃんたちが狙われるだろ」

「言いたいことは分かったけれど、一個だけ訂正させて。お尋ね者になってるのはアンタだけだから。てゆうかさ、一晩くらい休んでもよかったじゃない。そうすれば《占星術》で安全な道を占うことだって」

「つーか延寿さぁ、気を付けてなかっただろ」

「は? 何を?」

「尾行」

「は? …………あっ!!」


 延寿の顔色が変わった。足も止まり、先行する形になった俺は後ろを振り返る。


「《占星術》で俺を追ってきたってことは、多分最短ルートだろ? 尾行を撒く工夫もしてないはずだ」


 別に怒っているわけじゃない。下手にルートを外したりすれば、《占星術》で望んだ結果を、つまり俺との合流に失敗していた可能性だって高いのだから。

 ちなみに俺はいくつかの手は打っている。最初に飛び去った方角からは途中でルートを変えているし、村に立ち寄った後も《ウォシュレット》を使った飛行で山を越えたりして、村からの道を真っ直ぐ追うだけでは見つけられないようにしていた。


「尾行されてたって保証はないけれど、されてないって保証もない。翌朝には宿の周りを包囲されてたっておかしくない。《占星術》を待つ余裕は残ってないよ」

「クッソ、アンタに正論言われるとクソムカつく……!」


 そこかよ。まぁ失敗に落ち込んでないんならそれでいいや。

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