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便秘 VS 便意


 突然、後ろから首に腕を回された。


「みっ、見つけた……! 見つけたわよ!!」

「うおっ、なんだこの別嬪さん」

「誰が便秘ですって!?」

「言ってねぇよ!?」


 この声は……! なんか聞いたことはあるけれど名前まではパッと思いつかないクラスメイトの女子の誰か!!


「斬新なだーれだ、だなぁ」


 余裕のあるそぶりを見せるが、内心は焦りまくりだった。

 たったの1週間でもう見つかるなんて、いくらなんでも早過ぎる。まだ俺の指名手配書だってこの街には回ってきていないし、王都で空からウンコが降ってきた事件の噂話だって聞こえてこないのに。


「うっさいわねぇ! こっちはね、もうね、大変なんだから……!」

「抵抗はしないからさ、とりあえずこの腕、外してくれない?」


 抵抗する気がないのは本当だ。《ウォシュレット》はクラスメイトにはバレているのだし、空を飛べるのだって知られている。

 腕が外されたので後ろを向いた。そこにいたのは、


延寿(えんじゅ)じゃん」

「んだよ、修羅場か? テメェやることやってんなぁ」

「そういうんじゃないから黙ってなさいよ酔っ払い!!」

「おーこわ。俺ぁ退散するぜ。殺されたら床掃除は手前でしとけよー」


 そういうと、おっちゃんは無情にも立ち去った。延寿は涙を堪えた瞳で俺を見て―――


「ウォシュレットがないと出ないのよ! もう1週間もお通じがないの!!」

「やめろーっ! ウォシュレットは便意を催すための道具じゃねぇー!!!」


 事の深刻さを理解した。



 ブリュリュリュリュリュリュ! ブリュ!!



 とりあえず《ウォシュレット》を使ってあげると、延寿はトイレに駆け込んでいった。

 それから待つこと多分1時間くらい、俺は待ちぼうけを食らっていた。正確な時間は分からない。この世界には時計という文明の利器は存在しないみたいだし、スマホは脱出したその日のうちに投げ捨てている。誰かのチート能力によって位置情報を知られたりするかもしれないと思ったからだ。

 延寿を待っている理由は実に単純で、下手に外に出て、出会い頭にクラスメイトに攻撃されることを危惧しているからだ。少なくとも延寿と一緒に出頭すれば、その可能性はぐんと低くなる。


 ようやく延寿がトイレから出てきた。心なしかスッキリとした表情になっている。


「難産だったな。元気なお子さんは産まれたかよ」

「ゲ。アンタ何女子のトイレ出待ちしてんの。キモ」

「うるせぇぞ便秘女。で」


 とりあえず対面を指差して着席を促す。延寿は大人しく従った。


「他の連中は?」

「さぁ?」

「さぁって、一緒に来たんじゃないのか?」

「知らないわよ。私アンタを追ってあの日の夜に城を抜け出したから。さっきも言ったけど、私、ウォシュレットがないとお通じが来ないのよ」

「それ、身体に悪いから治した方がいいぞ。つーことは何だ? お前、俺がここにいるのをピンポイントで探り当てたってワケ? 何その能力」


 能力判定が出席番号(あいうえお)順だったらよかったのだが、あいにくと順番は滅茶苦茶だった。俺が《ウォシュレット》と判定された時には、延寿はまだ判定を受けていなかったのだ。


「知ってる? この変な力、チート能力って言うんだって」

「よく知ってんな」

「アンタのお友達のオタク共が早口で説明してくれたわ。なんであいつらあんなに偉そうなのに説明は下手くそなの?」

「不特定多数を攻撃対象に取るタイプ?」

「ていうか何がチート能力よ。勝手に異世界に呼び出して、勝手に変な能力与えといて、それがズルい能力って何様? ほんっと腹立つ」

「ていうかお前その服どうしたの?」


 今更ながら、延寿の服装に気が付いた。黒いマントを羽織っているが、その下にあるのは学校の制服ではない。かといって俺と同じような村人B的な格好というわけでもなく、ちょっとおしゃれな中世ヨーロッパの町娘といった感じだった。


「ああ、これ? 制服は王都の服飾店で売って、代わりに何着か買ったの。旅の路銀も必要だったし」

「あーなるほど」


 その手があったか。俺の制服は村人A服の代わりにホトケさんに着せてきたからな。もしかしたら俺の死体だと誤認してくれるかもしれなかったし。スマホと同じで服から位置を特定される可能性もあったし。


「で?」

「……はぁ。そうね、変に期待させてもアレだし、説明するわよ。私のチート能力は《占星術》」

「えーと、運動会で生徒会長がやるやつ?」

「……簡単に言うとスーパー星占いよ」

「あーなるほど」

「チート能力のおかげか、的中率は100%みたい」

「あぁ、それで俺がここにいることを知ったわけか」

「……ちょっと違うわね。《占星術》はあくまで、『どうすれば目的の未来に到達するか』を知る能力よ。再開できることは確実だけれど、それがいつ、どこでなのかまでは分からない」

「あー、いや、でも結構凄い能力なんじゃね?」

「そうでもないわ。かなり条件が厳しいのよ。まず前提として、星が見えないといけない。今みたいな昼間には使えないわね。夜まで脱出できなかったのもこのせい。あと、占う内容に応じた星である必要もあるから、天候とか、季節とかの影響も受けちゃう。で、これが一番の問題なんだけど」

「一番の問題なんだけど?」

「戦闘能力が、ない」

「それはもう自前でいいんじゃない?」

「うるさいわね殺すわよ便器男」

「その前に脱糞させてやるわ便秘女」

「大便で窒息死する時の辞世の句を考えておくことね」


 クッソ、ああ言えばこう言う……!


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