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組合 VS 便意

勢いだけで書いてる

あたかも我慢し過ぎたウンチで切れ痔になってしまいそうなくらいの勢いで


「ここが冒険者ギルドかぁ~~~! テンション上がるなぁ~~~!!」


 《ウォシュレット》で王城を脱出してから数日後、俺は城のあった街からそこそこ離れたところにあった、空から見る限りでは割とデカい街に到着していた。

 《ウォシュレット》の操作にも段々と慣れてきて、便意を催さずに発動出来るようになった。手足から水流を噴出することで高速飛行だって出来るぜ。なんかこんな飛び方してるのアメコミ映画にいたな。詳しくないんでちゃんと名前覚えてないけど。


 テンプレ通り冒険者ギルドってあるんだね。

 俺がここに来たのは、ズバリ国外脱出をするためだ。お姫様を脱糞させて王様はカンカン。指名手配される日もそう遠くはない。そうなる前に国境を抜けてしまいたいのだが、肝心の国境、というか周辺の地図や国の関係すらもよく分からない。

 だから、その事前知識を得るために、まずは冒険者に登録しようって魂胆だ。


 ざっくりと部屋の中を見渡す。クエストボードみたいなのがあって、食堂では20人くらいが飯を食ってる。今はちょうど昼飯時だ。受付はガラガラで、お姉さんが1人待機していた。


「おねぇさ~ん、冒険者になりたいんだけど」

「ええっと、ごめんなさいね。冒険者になれるのは15歳になってからなの」

「あ、俺17、17。死んだじいちゃんが言ってたんでたぶんそう」

「あら、そうだったのね。ちょっと待っててもらえるかしら」


 おっしゃ、予想通りに戸籍とか、そんな面倒そうなもんはなさそうだ。テンプレ助かる。


 ちなみに俺のバックボーン嘘設定はこうだ。

 山奥の集落でじいさんとの2人暮らし。集落に住んでいるのは俺たちだけ。で、じいさんがぽっくり死んじゃったんでいよいよ集落を出てきた、っつーワケ。


 服も学校の制服じゃない。空を飛んでる時にホトケを見つけて、そこから拝借したんでその辺の村人Aって感じの格好になってる。

 街に入るための入場料もそっから融通したし、道中の食い物も村に立ち寄って買い食いで解決。

 あの世に銭は持っていけねぇんだし、埋めて弔ったんで埋葬料代わりに活用させてもらうぜ。


「はい、これ冒険者登録の書類」

「なにこれ。ゴワゴワした布?」

「羊皮紙を見るのは初めてみたいね。字は書ける?」

「ごめん無理。計算は出来るけど、文字は読めないし書けない」

「代筆料がかかるけれど、お金はあるかしら?」

「大丈夫。これでよろしく」


 読めないっていうのは嘘だ。異世界召喚の恩恵なのか、文字を読むことだけは出来た。書くのは無理だけど。

 お金の種類や価値についても、途中で立ち寄った村で聞いたんでばっちりだ。


「名前は?」

「トト!」

「出身は?」

「じいちゃんはベンザ山って呼んでた」

「聞いたことない名前ねぇ……」

「俺とじいちゃんしか住んでなかったし、よその人は別の名前で呼んでるのかも」


 トト・ベンザ。

 《ウォシュレット》絡みで、俺と同じ世界から来たクラスメイトたちならピンとくる名前だ。この名前にしたのは俺の作戦でもある。特定されるリスクは高まるが、この名前で俺の存在が露呈するってことは、クラスメイトが俺を追うために協力しているってことだからな。


「適正魔法は?」

「分かんない。ていうかどうやって使ったりするの?」


 《ウォシュレット》を使って水魔法っぽいことは出来るけど、これが本来の水魔法からどれくらい解離しているのかの判断が付かない。ここで変に異常な水魔法を使って、その話が王城にまで伝わるのは避けたいのだ。

 少なくとも、水魔法で空を飛ぶことは出来ないんじゃないかなって思う。というか空を飛ぶ魔法自体がない可能性は高い。追っ手に空を飛んでくる奴はいなかったし、ここに来るまでの間に鳥以外に飛んでるやつは見かけなかったからだ。


「適性は要検査っと。魔法が使えるか調べたいならお金がかかるからね。教えてもらうのも同じ」

「ほいほいっと。おいくら?」

「今はまだ駄目。君はまだ冒険者見習いだから。というわけではい、これ」


 受付のお姉さんが出したのは、何枚かの羊皮紙だった。


「って読めないんだったわね。冒険者として認められるには、いくつかの見習いクエストを達成してもらう必要があるの」

「見習いクエスト?」

「そう。ペット探しとか、薬草集めとか、草むしりとか」


 シルバー人材センターかな?


「おすすめはこれね。どぶ掃除」

「どぶ掃除?」

「難易度が高いほど見習いクエストの達成回数は少なくて済むんだけど、それは逆に失敗もしやすいってことなの。ペット探しは失敗率ナンバーワンだし、薬草集めは縄張りとか、正しい採集方法の知識とかが必要だけれど、どぶ掃除は回数さえ稼げば確実だから」

「あーなるほど」

「もちろん成功報酬も出るから、ただ働きにはならないわ」


「おいおいボウズゥ、そんななよっちい体で冒険者が務まると思ってんのかぁ?」


 はいはいテンプレテンプレ。顔を赤らめた酒臭いオッサンが話しかけてきた。元居た世界なら事案発生だよ。


「ああいう人ってどこのギルドにもいるの?」

「そうね。ああいうのが湧くってことは、そのギルドがそれなりに繁盛していることの証左でもあるわね」


 湧くって言ったぞ。意外と口悪いなこのお姉さん……。


「無視してんじゃねぇ!」

「昼間っから酒飲んでるごくつぶしに絡まれてもなぁ……。それにオッサンさぁ、身の丈をわきまえたら? 口は勇敢だけれども、身体は正直ってやつだよ」

「あぁ? なに訳の分からねぇこと言ってやがる!?」

「気付いてないの? ……おしっこ、漏らしてるよ」

「あ? お、おぉっ!? なんじゃこりゃ!?」


 もちろん本当に漏らしている訳じゃない。こっそり《ウォシュレット》を発動して、そう見えるようにしただけだ。本当に脱糞()らさせることだって出来るんだけれども、今ここでそんなことをやって、俺がいた痕跡を残すのは不味い。


「デカい方まで漏らす前に、さっさと退散した方が身のためじゃない?」

「クソッ、覚えてやがれ!!」

「ウンコでも漏らしていく? そうしたら確実に忘れないと思うけれど」

「お掃除はご自分でなさってくださいね。場合によっては床板の張替えもやってもらいますから」

「クソッたれぇええ!!!」


 オッサンは逃げて行った。トイレにでも行ったんだろう。


「オチが付いたな。ウンコだけに」

「君は何を言ってるの……?」

「あ、さっきのどぶ掃除のやつ受けます。何回?」

「全部で5回よ。受注書を持って行って、発注者、えーっと、どぶ掃除を頼んだ人から詳しい話を聞いて。で、仕事が終わったらその人からのサインを貰ってまたここに提出。報酬の受け取りはサインを貰う時にね」

「分かった」

「あ、それと受注書を無くしたりすると罰則ね。達成してもカウントされないし、必要な回数も追加されるから気を付けて」

「はーい」


 で、俺は意気揚々とどぶ掃除をしにギルドを出て、5秒後にどこに行けばいいのか分からなくて戻ってくることになったのだった。クッソー。


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