転移 VS 便意
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
「《ウォシュレット》……どのような能力なのかは分かりませんが、ご友人様の様子を見るに、大層つまらない能力のようですわね……」
ある日、学校の中、異世界召喚に、出会った。
後はもうあれよあれよとテンプレ展開。クラスメイトと一緒に兵士たちにぞろ連れられて王様の元へ。
魔王を倒してくれ勇者たちよと言われてあーねテンプレテンプレ。
そして来ましたよテンプレ展開お約束の不思議な道具を使ったステータス確認の儀式。
で、テンプレよろしく今回追放されそうなのが俺ってわけ。
ていうか《ウォシュレット》って何!? いや何かは言われなくても知ってるけどさ! 他のやつらは《勇者》とか《賢者》とか《剣聖》とかマトモで職業っぽいやつなのに!?
俺の職業は《ウォシュレット》……ってコト!? ケツの穴でも舐めろってのかあぁ~~~ん!?
とりあえずムカついたので目の前で俺の能力をクスクスと厭味ったらしく笑っている女に使ってみることにした。
「というわけでホイッ、《ウォシュレット》」
「は? あなた、何を」
ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる。
「な、なんですの……急にお腹の調子が……? あ、あなたっ! 止めなさい! これっ止めて! 止めてぇっ! いやぁああああああっ!!!」
ブリュリュリュリュリュリュ! ブリュ!!
……うんうん、止まったね、時が。
いったい何が起こったのか。わざわざ言うこともないだろうけれど、叙述トリックみたいなのを疑われるのもなんだし、ここはしっかりと明言しておこう。
王女様
衆人環視で
大脱糞
「あひぃっ! な、何!? お尻の穴っ! 何か、何かで洗われてますわあああああ!!!?」
「あーなるほど。ウォシュレットってウンコした後に使うもんだから、強制的に排便させる追加効果もあるわけね」
鼻をつまんで脱糞王女から距離を取った。いやこの女のウンコまじで臭ぇんだよ。
王女のウンコがあまりにも臭過ぎるせいなのか、兵士も大臣っぽいやつらも誰も近付こうとしない。ただ、王女のすすり泣く声だけが聞こえていた。
そんな空気の中、パンパンと王様が手を叩いて注目を集めた。にっこり笑顔で俺を指差し短く一言、
「死刑」
ですよねえええええ!!!!!
兵士たちが剣を抜き槍を構えて飛び出してくる。
「おい! 助けろください!! 沢渡テメー《剣聖》だっただろ!? 中村その《守護者》は飾りかぁ!?」
「うるさい今すぐ死んでクソオス」
普段はつるまない男連中に頼むも目を逸らされて、女子リーダー格の福島からは冷たくあしらわれた。学友が殺されそうになってるってのになんてやつらだ。とりあえず福島には《ウォシュレット》を使っておく。
「ひいいいいい! 《ウォシュレット》、《ウォシュレット》、《ウォシュレット》ォオ!」
近付いてきた兵士を順に指差して《ウォシュレット》を使っていく。なめんなよ俺は近所のゲーセンのゾンビゲームで3位を取った男!
福島の脱糞音と悲鳴と怒号をBGMに扉から脱出を狙う。が、扉の前には一足先に兵士たちが集まっていた。この状況では《ウォシュレット》は役に立たない。下手をすれば扉の周りがウンコまみれだ。
その時、シャリンと剣を抜く音が聞こえた。音の方を向くと、その辺のモブ兵士とは明らかにデザインの違う華美な鎧を着たイケメンがゆっくりと近付いてくる。
「く、来るな! 《ウォシュレット》を使うぞ!?」
「フ、使ってみるといい。この騎士団長フィーシース・ブリリアント。毎朝決まって快便だ。今さらひりだすものなど―――ない!」
「しまった……! 確かにウンコが出ないのなら《ウォシュレット》は理論上ファンブる!!」
俺も気付いていなかった弱点を瞬時に看破するとは……! 騎士団長の名は伊達ではないか。
右見て左見てクラスメイトを見る。誰もが関わり合いになりたくないと目を逸らされた。
騎士団長サマはゆっくりとした歩みで近付いてくる。俺は《ウォシュレット》をまき散らし、近付かれないように部屋の中を走り回っていたが、気付けば壁際まで追い詰められてしまった。
「さぁ、覚悟してもらおう」
「まぁまぁ、ここは水に流すってことで。ウォシュレットだけにね」
「何を意味の分からんことを」
それを言うならウォシュレットじゃなくて水洗トイレだろー!と誰かが遠くからツッコミを入れるのが聞こえた。
「死ね!」
騎士団長が剣を突き出してくる。
「うおおおおおっ! 《ウォシュレット》ォオオ!!!」
俺は《ウォシュレット》を発動させる。対象は騎士団長に、
「無駄だっ!」
ではなく、俺自身にだっ!!!
「何ッ!?」
俺の身体が回転する。ケツから激しく水流をまき散らしながら、綺麗な水が騎士団長の顔面に直撃し視界を奪う。
何度も発動したんだ。段々と使い方が分かってきた。
今、俺は《ウォシュレット》をウンコを洗うためではなく、水流による推進力として発動している―――!!!
「フハハハッハハハハ! お前の剣では、死なぬ!!」
逆宙返りから真上にあった窓枠に乗った。ただ闇雲に逃げていたと思っていたのか!? これが俺の逃走経路だっ!!!
「さらばダーっ!!! アーイ! キャーン!! フラアアアアアイッ!!!」
そして俺は、窓から飛び降りて、《ウォシュレット》で空を飛んだ。
ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる。
「あ、やばっ」
気付いた瞬間、無意識の動きでベルトを外していた。ボタンも外しジッパーも下ろしパンツごとズボンをずり下ろす。そして、
ブリュリュリュリュリュリュ!!!
俺は空を飛んだ。ウンコをまき散らしながら。ケツ丸出しで。
王国は全体的に晴れ。時おりウンコが降るでしょう。
頭の中ではなんかこう、いい感じのヒーリングミュージック的な音楽が勝手に流れている。これもアレかな? 《ウォシュレット》の付加効果で音姫的な能力が発動しているのかな? まぁ検証は後にするとして。
こうして俺の異世界召喚は、クソミソな始まりとなったのであった。