第15話 王都【サカルドニア】攻略戦 ~その七~
「小銃弾ッ!」
イグニスが『恩寵』を以て再現するは【彼方】の武装を再現した一撃。過去の『漂泊者』達によって概要は判明しているものの、【クヴィザール】の技術レベルでは実現不能な一撃。即ち、イグニスだけの特権。
その特権をヒラリとシュウは躱してシュウは迫る。
シュウと同様、イグニスも現状に危機感を抱いていた。
(クッ……!私たち三人で同時でやり合ってようやく互角!化物め!最早策略もクソもあったものではない!現に壁の防御も壁上兵器の攻撃も無力化されている!)
策略を覆す、圧倒的な個人の純粋武力、そんなモノがあるとするならば——
(ふざけるな!そんなモノがあってはゲームが成り立たないではないか!何故『漂泊者』と呼ばれて危険視されていたかよくわかる!)
バックステップで叩きつけられる触手を躱す。一打ごとに地面が割れるが如き重みが足を通じて伝わる。
(イユレ殿は触手の一撃、カミーア卿は正面からの殴りあいでかなり消耗が大きい、早く片を付けなければこの均衡は崩れる!)
触手を回避しながら掌をシュウに向けて力を収束させる。巻き込まれる距離ではない。砲火。
「<砲撃>!」
「ガッ——ツ!」
(先程容易く弾かれた時には肝を冷やしはしたが、しっかり当てればダメージは入る!それに、タイミングの良さもあっただろうが、避けきれなかったということは敵も損耗自体はしているのか!?ならば——)
震えないように喉に手を当てながら声を張り上げる。
こちらも限界が近いだろうということはおくびにも出さない。
「——押し込んでください!決着を!」
後ろに弾かれたシュウに、イユレとカミーユが迫る。一方は致死の刃、もう一方も食らえば数瞬の後に致死の刃が体に食い込むことは避けられない。
(捌ききれるかこれ!?あぁ、どうせイユレの攻撃をもう一発食らえば終わり、もう補修手段はない!このままだらだら戦ってても限界が来るだけ!両腕お揃いになった義手、最大限にブン回さなきゃ損だよなァ!?)
己の体の限界を悟ったシュウは、消耗を抑え、体へかかる反動を軽減するために圧縮筋繊維製の義手に掛けていたリミッターを意識的に外した。
圧縮筋繊維は、内部密度を高めることで性能を飛躍的に上げる事が出来る。
最近気が付いた技術のため、使用には瞑目と集中が必要である。
義手の内側に更に触手を生成するイメージ。
瞑目を開くと同時、それまでの戦術を組み立てなおす。
目の前の敵を倒し、壁の内側に入る。それを果たした後の事は一度勘定から省く。即ち——
「——もう保身も出し惜しみも抜きだ」
——捨て身。
カミーアの蹴りを一方的に弾き飛ばし、右腕でフックを叩き込む。パァン、と打撃音とかけ離れた奇妙な破裂音が響いた瞬間、カミーアは吐血しながら膝をついていた。
(何、だ。今の打撃の速度……!?まだ余力があんのかこいつ!?)
シュウは振り下ろされる斬撃、それを握るイユレの手を蹴って斬撃を防ぐ。同時、触手を振り回して空中に瓦礫を散布。
それを腕で殴り飛ばして飛び回る。跳弾の如き高速機動。
「ッ——!」
ランダムな動きで撹乱して後、後ろに回り込んで顔に拳を振りかぶろうとするが、その瞬間にアメジスト色の眼光がシュウを刺した。
咄嗟に空中で身を翻して振り向きざまの斬撃を躱すも、その頬には冷や汗が伝う。
(こいつ、この動きが見えてるのか!?さっきより明らかに動きが——いいぜ、出し惜しみは抜きって言ったばっかりだ、付き合ってやるよ!)
さらにシュウは義手に力を籠める。
大まかに身体許容の三倍。義手に合わせて全身の筋肉の代替を果たす傷口の圧縮筋繊維も活性化していく。
着地と同時にダッシュ開始。瓦礫が落ちる地響きを置き去りに、高速で駆け出す。
スライディングで振るわれる剣閃を回避した次の瞬間に立ち上がりながらの蹴り。回避され反撃が襲い掛かる。ズレるように一瞬の減速を挟んで回避したのち、両腕をフルに生かしたラッシュを叩き込んだ。
空気が破裂するような異音が響きわたるが、イユレは二本の剣を細かく動かし全てガードしていく。ラッシュの間断、滑り込むような刺突。カポエイラめいて倒れこみながら踵で頬を狙うものの、これは左手の短剣でガードされた。腕力で地面を押し飛びのいて再回避。足を止め慣性で裏拳を振るう。バックダッシュで躱された。
(コイツマジかよ、キュリアス並みのスピードあるんじゃないか!?明らかに動きが上がってる!リミッター外す前の俺と互角の速度ぐらいなのは何だったんだよ!?クッソ、腕痛ェ!)
パンパンに膨れ上がった右腕が端から解け始める。もう幾何も持たないだろう。それを気力で再縫合しつつ、シュウはそれでも敵を睨む。
「——殺す!」
四倍。
地面を蹴って再加速。転移じみた速度でイユレの目の前で飛び出し、攻撃を仕掛ける。
(まだ速度が上がるのか……!?)
驚異的な伸びを見せたイユレの追随だが、流石に頭打ち。イユレの反応がシュウから明らかに遅れ始める。
ブロッキングの上から強引に殴り潰す。ガクンと怯んだ内に背後に回り込んだ。
「いくら早くても……!」
背後に咄嗟に振り向いたイユレが背後に振り向く。背後に回りこんでの撹乱の多用し過ぎか。
――だが。
「ついてこれなくても、読んでくるよな、お前は」
「――ッ!」
再びの一時減速。剣先がシュウの鼻先を掠める。ヒヤリとした冷気。
これまで動きに追随出来ないだろうと封印していた触手を展開。右腕に纏わり付かせてさらなる火力増強を図る。
「ハァ――ッ!」
赤黒の殴打。
だが、イユレの命を確実に奪い去る筈のその一撃は。
「大丈夫か、イユレ!敵も限界だ!仕切り直すぞ!」
カミーアの土塊兵が防いでいた。余りの衝撃に拳が直撃した胴体部だけで無く、土塊兵の全身が粉微塵に砕け散る。
それは仲間を想っての美徳とすら言える行動。その献身が、シュウの攻勢に終わりを齎す。
致命的な隙。捨て身の攻勢を防がれた以上、シュウの敗着は確定する――
「かかったなァ!」
――筈だった。
依然として四倍の身体強化は維持されたまま。別の土塊兵に素早く接近したシュウは、それを左手で締め上げるよう握りしめ、宣言する。
彼が使い翳すは彼女の遺物。
「――<破創>ッ!」
「何ッ!?」
驚愕の声はカミーア、イユレ、どちらの物か。
ベキリ。
音を立ててその土塊兵がその形を変える……否、土塊兵単体のみに非ず。地面を通して伝播した<破創>の力は、溶け出でるように現れた、数十体全ての土塊兵に影響を及ぼす。
世界が割れるが如き轟音を四方八方に撒き散らしながら、クレーターめいて同心円状に影響範囲が広がっていった。
変化が止んだ後、半径200mにもなろうかというそのクレーターの中央には立方体が鎮座していた。地面を巻き込みながら歪み、うねり、捻くれたその形こそはイユレを閉じ込める、牢獄。
だが、余りに非現実じみたその光景に瞠目する暇はない。
「他人の心配してる場合か!?」
立方体の側面を蹴って四倍速のままシュウが駆け出す。
そう、これは組み立て直したシュウの戦術。
シュウはこれまでの戦闘と、その剛毅と呼んで差し支えない言動から、仲間が危機に陥れば守りに入らざるを得ないというカミーアの性格を読み切っていた。
高速機動で一人を分断して危機に追い込み、直接本人が庇いに来れない状況さえ作ってしまえば、仲間を守るのにとれる手段は土塊兵の生成だけ。その土塊兵はカミーアから切り離された状態で存在する人工物故に<破創>が致命となり得る。<破創>は壊すだけでなく創る『異能』。分断対象を封じ込める形で変形させれば、逆にカミーアが孤立する。
土塊兵の大量生成という大技を潰されたカミーアは、咄嗟に迫るシュウの四倍速の攻撃に対応できない。
概して言うならば、シュウの狙いは最初からイユレでなくカミーアであった。
——然るに、土壁を切り開いて外に出たイユレの紫の瞳に映るのは。
「ガッ――!?」
「——じゃあな、筋肉ダルマ」
腹に叩き込まれた亜音速の一撃によって、敗北したカミーアの姿であった。
放たれたパチンコの弾丸のように、赤髪の巨体が宙を舞い、瓦礫の山に叩き込まれる。
「馬鹿な……」
「カミーア兄ぃが、負けた……」
両者は反応することもできず、その光景に呆然と呟く。
「……イグニス卿、これから僕は、カミーア兄ぃを連れて王都内に撤退します……!許可を!」
「それは……」
イユレの提案にイグニスは一瞬困惑の声を漏らす。ここでイユレが撤退すれば残されるのはイグニス一人。
「でも、このままだと、カミーア兄ぃは……!」
(……この盤面で一番不味いのは『漂泊者』に戦闘不能になったカミーア卿を捕食されてこれまでの敵の損耗が無駄になること。ここで撤退してその手を潰すと考えれば、合理的な選択ではある。
それに、ここでカミーア卿を放置しみすみす死なせると『漂泊者』の討伐に成功したとしてもその後の『円卓』内での地位の悪化は避けられないだろう。
何より――)
イグニスはシュウに視線を向ける。
「ァ……ク……!」
それは、捨て身の代償。
カミーアヘの攻撃前に既にほぼ限界を迎えていた両腕の義手はその形状を維持することが叶わなくなり、むき出しになった断面からはどす黒い血がぼたぼたと滴り落ちる。
全身を引きちぎられたかのような激痛にシュウの体がガクガクと震えた。
(――今の彼なら、私一人でも、獲れる!)
「わかりました。イユレ殿はカミーア卿を連れて退却を。
――『漂泊者』は私が引き受けます」
「有難うございます……!ご武運を、イグニス卿!」
「えぇ……」
カミーアの巨躯を担ぎに走り去ったイユレの背中を見届けてから、イグニスが再度戦闘態勢に入る。
「おい、貴様、持つのか!?」
服の内ポケットから顔を出したシビュティアがシュウの状況を引き攣った顔で尋ねる。
「あぁ……少し無理はしたが、まだギリやれるさ」
「……死ぬなよ?」
「当然……!」
そこまで言葉を交わしたシュウは顔を上げ、啖呵を切る。
「お前、俺のこと弱ってると思ってんだろ?思い上がりもここに極まれりって感じだな。勘違いしてるようだから教えてやる。
この状況で撤退しないってことはなぁ、お前如きならこれで十分だって言ってんだよクソ野郎!」
「口先だけはよく回りますね『漂泊者』。言葉はなんとでも言えても体が震えていますよ。
貴方はこの戦いの中で何度も、私の目算を崩してくれた……盤上における異物……!だがそれもこれで終わり。
――『漂泊者』は、排除する!」
――次回、終局。




