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アグリニオン戦記 外伝 グワラニーVSチェルトーザ  作者: 田丸 彬禰


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8/8

人形使い

 その話は王宮内でグワラニーにミュランジ城攻略の陣容が告げられた日から時間を少しだけ遡るところから始まる。


 クペル平原での戦いが終了した夜。

 マンジューク銀山を抱える山岳地帯の北側に位置するグワラニー部隊のキャンプを五人の男が訪れていた。


 クレメンテ・アルタミア、エンネスト・ケイマーダ、ベルネディーノ・ウルアラー、アディマール・ゴイアス、そしてアドン・オリンダ。


 彼らは前日から始まった大きな戦いに参加することなく、ありえないと思い鼻で笑っていたグワラニーの言葉がそれ以上の結果になってやってきたことを部下に聞かされ、呆然としていた。

 そこにグワラニーの側近であるアントゥール・バイアに呼び出されていたのである。


 むろん彼らは不満たらたらだった。

 司令官のグワラニーでさえ、同格以下にしか思っていない彼らにとってバイアなど部下のそのまた部下程度なのである。

 だが、自分たちは兵を溶かすだけでまったく動かすことができなかった戦局を好転させるどころか完勝という形で終了させ、さらにクペル城の占領までやってのけてしまったグワラニーの名で呼びつけられては渋々でも出向くしかない。

 

 そうは言ってもやはり怒りは収まらない。


「それで、我々を呼びつけたのはどのような要件だ?」


 精一杯自分たちを大きく見せようと、五人を代表してアルタミアが怒鳴りつけるようにバイアに食ってかかるものの、ここにやって来た時点で、いや、呼びつけられた時点で、両者の上下関係は形式上のものと逆転していることはあきらかだった。


 余裕綽々の見本のような表情で小さく頷くと、バイアは周囲をわざとらしく眺め直し、それが語り始める。


 それを。


「まあ、これは私からあなたがたへのささやかな助言だと思ってください」


 そう切り出したバイアは一瞬の間も置かず、そのまま本題となるものを口にする。


「……グワラニー様は数日でクペル城を落とします」


「というより、立て籠もる人間たちの命の保証をして、城から追い出します。つまり、攻撃をせずに城を手に入れます。この理由がわかりますか?」


 むろんバイアのこの問いに答えられる者はいない。

 もともと人間を助けるなどという思想が彼らの頭には存在しない。

 そこに、グワラニーはその直前に一瞬で四十万人を葬っているという事実がある。

 それにもかかわらず、残り一万人ほどしか守備兵しか残っていない城攻めを躊躇する理由などすぐには思いつくはずがないのは当然のことである。


「さあな」


 返ってくる予想通りの言葉にバイアは大きく頷くと、お返しとばかりにその答えとなるものを口にする。


「クペル城を無傷で手に入れるためです。そして……」


「そうすれば、次なる進撃のための根拠地としてクペル城が使えます。それが理由となります」

「なんと……」


 その言葉にその先にあるものに気づいた五人は呻く。


 もちろん全員の顔色はすでに青白く変色している。


「一応尋ねる。それは誰がおこなうのだ?」

「当然現在クペル城前に展開している部隊だけでやるつもりでしょうね。つまり……」


「あなたがたの出番は今回もやってこないということになります。まあ、仕方がないでしょうね。一番重要な戦いにあなたがたは居留守を決め込んだのですから」


 様々な心の声が飛び交う中、アルタミアはどうにか言葉を繋ぐ。


「なぜ、それを我々に伝えたのだ?しかも、こうして呼び出して。もしかしてそれを聞いて慌てる我々を笑い物にするためか?」

「まさか」


「私は憂いているのですよ」


 絞り出すような自らの問いに返ってきた軽やかな声。

 だが、その内容はやや不明瞭であった。


「何を?」


 やってきたアルタミアからの問いにバイアは頷く。

 もちろん顔には出さないが、ここまではすべて計算どおりである。

 そして、ここからが、彼の、というか、彼たちの本命となる部分となる。


「グワラニー様の軍は強い。しかし、数がまったく足りない。あの数では敵地を占領地できても維持ができない。私はその点を何度も注意したのですが、グワラニー様は聞き入れることはありませんでした。ですが、側近として黙っているわけにはいかない。そこで、別の方法を思いついたわけです」

「それが我々を焚きつけることということか。だが、残念ながら、我々にはどうすることもできないな。側近であるおまえの意見を聞かない奴が我々の意見など聞くはずがないだろう」

「まあ、グワラニー様があなたがたの意見を聞かないのは確かでしょう」


「ですが、あなたがたには軍司令官と繋がりが深い」


「一応クペル城占領までは『渓谷地帯の安定を取り戻せ』という陛下からの命令の範囲に入りますが、ミュランジ城を攻めるとなれば、別命を受けなければなりません。その時に……」


 ……なるほど。


 五人の顔を眺め、自らが待つ結論に辿り着いたのを確認したところで、バイアの口が開く。


「総司令官に近くおこなわれるミュランジ城攻略部隊を自分たちに任せてほしいとお願いしてみてはいかがでしょうか」


「まあ、それによってあなたがたは手柄を立てられる。我が軍は休養を兼ねて占領地の整備ができる。どちらにとっても悪い話ではないと思うのですが、いかがでしょうか」

「なるほど……」


 自分よりも遥かに劣る理解力を有する五人の損得勘定が終了するのを見計らって、バイアは仕上げとなる言葉を加える。


「ただし……」


「総司令官には私からの提案だったことは言わない方がいいでしょう」

「なぜだ?」

「あなたがたもご存じのとおり、総司令官とグワラニー様の関係はあまりよくない。その総司令官にグワラニー様の側近である私からの提案などといえば、何かを勘ぐり握り潰されてしまうかもしれませんので。ですから、あくまでこの話は皆さま方が考え出したものということにすべきだと思います」


「なるほど。承知した。だが、これはおまえたちにも利があるのだから礼は言わぬ」

「もちろんです。アルタミア様」


「では、総司令官への提言の成功と、皆さまの功となるミュランジ城陥落の報を楽しみにしています」


 ……軽いな。


 バイアは心の中でそう呟いた。

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