驚くべき出席者
出迎えの儀式から時間が少しだけ進んだベンティーユ砦内。
……いったいどういうことだ。
交渉がおこなわれる部屋に案内されたチェルトーザは、そこで待っていた者たちを見た瞬間、そう呟く。
もちろんその呟きは心の中のものであり、本来その心の声が伴うはずの驚きの感情は表情には出ることはない。
いや。
正確には出していないつもりということであり、完全にその驚きが隠せたのかはチェルトーザ自身にもわからなかった。
つまり、そこにはそれだけのものがあったのだ。
グワラニーとともに自分たちを待つ者はすべて純魔族の脳筋である。
これがチェルトーザの予想兼前提であり、グワラニーの攻略が困難と思った場合には、情報収集のターゲットしようとも考えていた。
だが……。
……グワラニーが人間種である以上、副官と思われる男が人間種というのはどうにか理解できるのだが……。
そう心の中で呟くと、自らの驚きの根源たる人物を眺め直す。
……交渉のテーブルにつくもうひとりの出席者が女性というのはどういうことだ。
……しかも、この女性はただの女性ではない。
……正真正銘の人間。
……さて、これをどのように解釈すべきか。
……秘書?だが、それだけで三つしかない貴重な席のひとつを人間の女性に与えるはずがない。となれば、自分たちの配下には人間もいるのだと誇示することが狙いと考えるのが妥当なところだが、もし、本当にそれだけの理由であるなら甘いと言わざるを得ない。
……同席させておきながら、本人との会話を拒絶するということはないだろう。
……会話さえできれば、どれだけ取り繕っても彼女がどのような処遇を受けているかを見破ることはできるのだから。
……せっかくだ。彼女から他のことについても情報を得ることしよう。
……つまり、今回の唯一の戦果となる情報収集。そのターゲットは彼女だ。
怪しいと思いつつ、手を出したくなるような餌を用意する。
グワラニーと対峙し、痛い思いをした者であれば、これがグワラニーの常套手段であり、あの旗がある戦場ではどれだけ甘い香りがしても差し出されたものには食いついてはいけないと最大級の警戒をすることだろう。
だが、チェルトーザはグワラニーと初対面。
しかも、圧倒的に不利な状況。
そこに現れた一條の光。
手を出してしまう。
それに。
……同席させるくらいだから、相当な準備をしており、彼女自身もそれなりの才はあるのだろうが、少なくてもグワラニー本人より御しやすいのは間違いないだろう。
こうして、チェルトーザは交渉が始まる前に早くもグワラニーが用意した罠に落ちることになるのであった。