チェルトーザの呟き
「……ほう。あれが魔族か」
出迎えのために砦から姿を現わした三人の魔族の男を見たチェルトーザの口から短い言葉が漏れた。
そう。
実をいえば、チェルトーザが魔族の者を実際に見るのはこれが初めてだった。
……一番前を歩く老人はともかく、後ろのふたりは戦士然としている。だが……。
……たしかに人間に比べてひとまわり程大きく、体全体が筋肉で出来ているように見えるが、大きさだけを言えば、噂で聞いていたほどではない。これくらいなら人間の中にもいくらでもいるだろう。そして……。
……それを除けば、あまり変わらないな。人間と。
……まさに、百聞は一見に如かず。
口に出す機会はなかったものの、「魔族」と聞いて彼が頭の中で思い描いていたものとは、牙が生え、肌は緑。
さらに角があったり、羽が生えたり、手が四本だったりするというものも存在する禍々しい生き物。
別の世界に存在するもので表現するのなら、いわゆる魔物とも換言できるものでゴブリンやオーガの類がその代表であろう。
……まあ、あれは所詮想像上の生き物であり、巷に溢れる噂の中でさえそのようなものはなかったので、さすがにそれはないということはわかっていたのだが……。
チェルトーザは心の中でそう呟くと、自らに対しての嘲りの笑みを浮かべる。
……さすがに手に入れた情報から想像したものともこれだけ違うとは思わなかった。
実は、今回の交渉をおこなうにあたり、魔族というものについてそれなりに情報を集めていたのだが、結果といえば……。
玉石混交の見本。
しかも、その大部分が石という惨憺たるものだったことを思い知らされる。
「……いったい何を見たのだ。彼らは」
「というより、本当に魔族を見たのか?」
ボヤキにも似たチェルトーザの言葉どおり、彼らの言葉とは裏腹に実際の魔族は人間とほぼ同じ。
どうにか挙げることができる外見上の違いは異様に耳が長いことなのだが、それも純魔族に限られ、噂どおりなら人間種と呼ばれる者はそれすら同じ。
つまり、人間とまったく変わらない。
……結局、魔族かどうかと判別するのは目の色が頼りのようだな。
……そして、この世界の魔族とは私の知識にあるエルフ族のようなものと思って間違いないようだ。
……もっとも、私の知るエルフ族にはドワーフのような大剣を振り回すだけの脳筋のような輩は存在しなかった。
……つまり、この世界の魔族とはエルフの姿をしたドワーフということだな。
自分なりの結論を出したところで、チェルトーザは同行しているふたりの男に目をやる。
……そういえば、彼らも本物の魔族を見るのは初めてだったな。