冒険者狩りと馬鹿
良い知らせと悪い知らせに加え、死ぬ程どうでも良い知らせが二つある。
良い知らせは私達が前回【ギガタウロス】を仕留めた事が迷宮都市中に広がり、私達のパーティが【ネームド】狩りの新鋭気鋭の冒険者として一気に名が広まった事だ。
【ネームド】
それは人類の天敵として、迷宮の悪意として扱われる特異個体の事だ。
本来迷宮の魔物は同じ迷宮の魔物を倒しても順応はあまり進まない。というかそもそもこの世界の生物は自身と同種を倒してもほぼ順応は進まない。同族を殺す事が有用な行動にならないように、同種での殺し合いを抑制するため、同種族を殺した場合体と本能が順応を抑え込むからだ。
その抑制の対象を迷宮全ての魔物に広げたのが迷宮の魔物だ。
それゆえに迷宮の魔物は順応により爆発的に強くなることが出来ない。同士討ちでは
では外部の生物である人間を殺したら?それを何度も何度も、それこそネームドになるまで繰り返したら?その答えがネームドの、最低でもレベル7はある異常な戦闘力だ。
本来レベル5あれば1人前と言われ、レベル7になれば【二つ名】を得られるのが冒険者なのだ。レベル7を超える【ネームド】を、迷宮潜りたての冒険者がたった2人で仕留めたとなれば名が広まるのは当然だ。
そして先に脱出した奴らが騒いだおかげで噂が広まるのが早かったのも大きい。奴らは地上に着き次第捜索隊を結成。僧侶が人を集め、赤魔術師が金を出し捜索隊を結成。どちらかと言えばドライな黒魔術師と傭兵もこのまま死なれちゃ寝覚めが悪いからと理由をつけて捜索隊に参加していたらしい。そこで一層に突入しようとしたその瞬間戦士を担いだ私が出てきたため、捜索隊は一瞬で解散する事になったとか。その過程で私と戦士が二人でネームドを討伐したこと、他の連中も三層から生還した事が伝わり、私達のパーティ【ハッピーエンド】はそこそこ有名なパーティーなった。
私も町を歩くたびに、
“あの仮面の白髪例の【ギカタウロス殺し】じゃね?”
“ああ、あの噂の、すげえよな、やっぱ才能ある奴は俺たちみたいな奴とは違うんだな”
みたいなヒソヒソ声をよく聞くようになった。
そんな称賛をなんでも無いような顔をして、名誉なんかにゃ興味ありませんよみたいな顔して、そういうの気にするタイプじゃありませんと言わんばかりの顔して聞き流すのは気持ちが良すぎる。
もっと私を褒め称えろ!ひれ伏して崇め奉れ!
これが良い知らせだ。
悪い知らせは【アーバス】という男がこの国、迷宮都市エリュシオンに来たことだ。
かつて最悪の犯罪組織を率いていた、死して尚、世界に恐怖をまき散らす最低最悪の大悪党、【オールデッド】
そいつの部下の中でも最強と言われていたクズ野郎だ。
弱肉強食を大義名分として暴れ、良くも悪くも弱肉強食の掟に従うフェアな豪傑を気取っているが、その本性は自身より強い相手には媚びるか逃げるかしか出来ない卑怯者だ。
しかし性根こそ弱者を虐げ強者に媚びる人間のクズだが、人類の限界レベルであるレベル15に達した紛うこと無き強者でもある。
というか私の知る範囲では、コイツより強いと断定出来る奴は人類に10人もいない。【ギガタウロス】が可愛く思える程の超人的な近接戦闘能力を持ちながら、全魔術の中でも最強の攻撃力を誇る魔術の頂点
【核熱系統第七位階 核撃魔術】
まで扱いこなす、完成された魔導剣士
それが奴だ。
まあそれだけなら良い、全然良くは無いがまだマシだ
問題はそいつの今の家業は【冒険者狩り】であるという事だ。
以前はバレンタインという迷宮都市にいたそうだが、冒険者が片っ端からこいつに殺され身ぐるみを剥がされていたため、迷宮に訪れる冒険者は半減し、国家の収益の大部分を訪れる冒険者に依存していたバレンタインは困窮、最終的に軍隊を、それも迷宮順応が進んだ精鋭を、送られたものの、そのうちの一部隊を【核撃魔術】で全滅させ逃走、そうしてこの国に辿り着いたようだ。
もちろんエリュシオン側もそれを把握し、バレンタインの二の舞にならないよう、バレンタインより遥かに優れた軍隊、及びに懸賞金をかけることで早めの討伐を目指しているようだが、アーバスの強者の匂いに敏感であるという特性、強者と判断した者の前には決して姿を表さない習性によってなかなか仕留めるチャンスが来ないためエリュシオン側も手を焼いているようだ。
そしてアーバスに対抗出来る様なレベルの強者がいない上、戦士のハースニールとコッズシリーズ、赤魔術師の聖杖ユグドラシルドといった超高価装備を持っている私達のパーティは格好の獲物だろう。実際怪しい人間が酒場で戦士と赤魔術師の情報を集めているのも見た。【ギガタウロス】討伐で有名になっているのもタイミングが悪かった。
きっと私達はもう既にアーバスに目をつけられてる。なのでここからは絶対に見つからないよう、迷宮探索をする必要がある。以上が悪い知らせだ。
どうでも良い知らせ①は私達の雇い主の馬鹿姉弟の片割れ、弟のジーク、金髪戦士が、嬢のうんこを食って入院したことだ。なんでも火を通せば問題無いと思っておじやにして食ったらしい。
あーっ 何言ってるかわかんねえよ
どうして(頭の)病院に行かずにこんな場所に来たの?
金髪戦士・ファクトリーの門を開けろ!完全なる馬鹿の誕生だっ
見事全身黄色くなって、血液中の白血球の個数が一桁になり死にかけていた。当たり前だ。
その嬢が病気だったからこういう事になったのかな、とかほざく戦士には病気じゃなくてもウンコ食ったら死ぬだろ、っつーか病気なのはお前だろ
って返すしか無かった。
どうでも良い知らせ②は馬鹿姉弟の姉の方、赤魔術師リグレットが異界馬 【チャリンコ】のサドルに股を強く打ち付けて貞操を散らした事だ
戦士もクソバカだがこいつはバカ通り越してテメェの頭にはおがくずでも詰まってんのか、お…お前 変なクスリでもやってるのかとしか言いようが無い事をしてる。
こいつに雇われてからの1週間で3回は留置所にこの馬鹿を引き取りに、2回病院にこの馬鹿を連れて行く羽目になった。
このバカの介護する内に何度なめるなっ メスブタァッと叫んだか覚えてない。
その上馬鹿二名が馬鹿のシンクロニシティを起こして二人まとめて病院送りになった時は私が病院に連れて行く羽目になった。
黒魔術師と傭兵はただでさえドライな上、そんな馬鹿な騒動に巻き込まれたくないとか言って連れて行くのを拒否、いい奴であるチズギュド僧侶は今日孤児院の子供達の治療をするから無理だと言って逃げ出しやがった。
ついでとばかりにこいつらには友達がいない。
ので消去法で私がこいつらの尻拭いをする羽目になった。
一応この馬鹿どももこの国の高位貴族ではあるらしいので、使用人とか自分より弱い貴族呼んで運ばせろよとは思ったのだが
「「こんな馬鹿な理由で病院送りになっただなんて言えるわけ無いだろ(よ)!もっと常識を考えてくれたまえ(よね)!」」とか返ってきた
マジで帰って欲しい、土に
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もう既に入れて下さった方には祝福を