ランナウェイ
最小の迷宮都市バレンタイン。
私達はそこの迷宮第二層に来ていた。
今観客の皆様方はお前いくらなんでも前回から過程端折りすぎだろと思われただろうがはい……本当その通りです……だがこの状況になった経緯を説明させていただくのでどうか許していただきたい。
怪物アーバス。あの時私は奴の放った矢に撃ち抜かれた。奴は消えつつある分体の残ったパーツと眼球をなんとか動かし私を捕捉、何らかのマジックアイテムによるものなのか、はたまた単純な奴の腕力によるものなのか、10キロもの遠方から矢を撃ち込んだ。さらに撃ち込まれた矢は私の胸を貫いた。本来心臓がある位置の。そして私は死ぬはずだったが、私の心臓の位置が逆という特異体質。これが私の命を救った。というか救ってしまった。あそこで死に、【死に戻り】さえ発動してしまえばもっと色々と対処が出来たのに残念だ。そして私は気絶した。
しかし奴等は、そこから悪くない働きを見せた。分体の監視範囲から外れたのにも関わらず割と正確に撃ち込まれる矢にも、10キロ程度の距離なら容易く詰めてくるレベル15からも命からがら逃げ出し私をおぶりながら軍の中継地点まで逃げ切ったそうだ
そして、私は、私達は軍に護衛されながら赤魔術師と戦士の家。フリード家なる大貴族の家に運ばれた。
そこで奴等は昏倒する私を必死で治療したらしい。
そしてその治療の最中私は目覚めた。
その際に、私の露出度ゼロの斥候服の下を見た僧侶と赤魔術師は、服の下の事は絶対に言わないと言った。僧侶は言葉に出来ない表情をしていた、赤魔術師は私の事を泣きながら抱きしめた。クソが、テメエの乳で寝起きから気分最悪だわ。
そして部屋の外で寝ずの番をしていた戦士を呼び寄せ、爆睡していた黒魔術師傭兵を起こして会議を始めた。
もちろん議題はアーバスについてだ。
奴への対処には二つの案があった。1つ目はこのまま、高位貴族である赤魔術師と戦士姉妹の屋敷に籠城し、アーバスが、今いる迷宮都市、エリュシオンの軍によって討伐されるのを待つ事。赤魔術師と戦士が今回の件を王に報告したおかげで、エリュシオンはレベル15の近衛兵三名も含む討伐隊を組み、アーバスの討伐に本腰をいれるようになったそうだ。
奴はこの様な、自分を十分打倒しうる集団から逃げるのに本当に長けている為、討たれるにしろ討伐までの期間は相当長くなるだろうが、討伐隊に怯えてこの国から出ていく可能性も十分ある。
二つ目はこの国から逃亡して行くという案だ。戦士と赤魔術師は家に引きこもっていれば安全。黒魔術師と女傭兵は自国に帰れば良い。奴等の国の最高位貴族の恵まれた子供たちの結束は硬い。そしてそれ以上に理不尽なレベルで強い。黒魔術師が恵まれた子供たちである以上自国に帰れば手が出せない。あと残った僧侶は医術と白魔術を活かして戦士の家の食客にでもなっておけば良い。
要はどちらも、拠点にこもり、嵐が過ぎるのを待つべきだと言う考えだ。
ただし、どっちにしても私は、国外へ逃げるべきだ。理由は2つ。
一方はアーバスは死ぬ程執念深いからだ。それこそ、あの臆病な性分すらある程度掻き消すほど。恩は仇に変えた上で十倍にして返す、仇は1000倍にして返すが奴のモットーと言っても過言ではない。当然奴を弱者呼ばわりした私に対しては相当執着している。さっき奴はこの国から逃げ出すかもと言ったが、多分、私がいる限り、奴がこの国から逃げ出す事は無い。自分の受けた傷に対してだけは極限まで敏感な奴の事だ。傷つけられた傷への正当な報復として私を痛めつけるのを最優先にしてこれから行動するだろう。
それどころか私がここにとどまれば痺れを切らしおそらく、兵が警備しているこの屋敷に乗り込み、中の人間を皆殺しにしてから国外逃亡というのも十分あり得る。
……何度も言っている通り、私はクズだ。人の命なんて何とも思っちゃいないし、自分以外はどうでも良い、
自分に利がありゃ他人をどれほど苦しめるのも厭わない。
ただし、自分に利も害も無いのなら、まあ、より他人に益のある選択を選んでやっても良いのだ。
要は、このままここに居座り奴等を巻き込んで死ぬか、ここを出て一人で死ぬかなら後者を選ぶ。
二つ目の理由は色々あって私の寿命はもうほぼ無い事だ。残りの寿命はせいぜい1年程度だろう。いつになるか分からない、奴が討たれるその時まで、怯えながら屋敷に籠るだなんて嫌だ。私は世界で1番幸せになるのだ。そのためには残り少ない寿命の大半をこちらを虎視眈々と狙ってくるカスの対処に使いたくない。
別大陸にでも逃げて、そこで暮らして、そこで絶対に世界で1番幸せになるのだ。




