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暴虐の王

オールデッドの残した大量の負の遺産、その代表である、冒険者狩りアーバス。 


 人類の限界レベルである15レベルに到達した、完成された魔導剣士。


 こいつの信条は【弱肉強食】である、自分が強い立場にいる間は。


 しかしいざ自分よりも強い相手が出てくれば、こいつのやる事はシンプルだ。媚びるか逃げるかして戦いを全力で避ける。


 


 アーバスは過去何不自由ない幼少期を過ごしていたが、穏やかで刺激の無い日常にも、腕力も攻撃性も分かりやすい強さも無かった家族にもうんざりしていた。奴は溜った鬱憤を15歳の誕生日に晴らした。悪性の塊たる息子の悪行に手を焼かされながらも、誕生日は純粋に祝ってやろうと誕生日パーティーを開こうとして、仮装して笑顔で息子を待っていた両親、妹を手下と共に殺害し「弱い奴が悪い」と仲間と共に嘲笑い吐き捨てた。


 その癖、賢者に殺されかけた時も、オールデッドに殺されかけた時も、要は自分がいざ弱肉強食の掟に弱い側として巻き込まれそうになると博愛やら人権やら隣人愛を説き生き延びようとする。


 その見苦しさは凄まじい嫌悪感を私に与えた。他者の痛みへはとことんまで鈍感だが自身への痛みにはとことんまで敏感。それがアーバスだ。


ただしこいつより強い奴は本当に数える程しかいないのが質が悪い。


ネタバレだがこいつはこの交戦の1週間後惨殺される事になる。しかしその時までずっと、その狂った暴威を振るっていた。



 もちろん今日も。


「こうなるのも全部、全部、全部、弱い奴が悪ぃのよ」「ううあぁぁ!」


 戦士を踏みつけにして嗜虐的な笑みを浮かべて言う。


「私のかわいい弟を、はなせ!」

 普段は喜怒哀楽が喜びと楽しみしか無い赤魔術師が憤怒の表情で【二種詠唱】により、アーバスの足で踏みつけにされ、首をへし折られようとしている弟に対し治癒系統魔術を撃ちながら【睡眠魔術】を撃ち込む。


今度は【魔術結界】を貫き、アーバスの耐性によってレジストされた。ユグドラシルドの効果によりレジストされた魔力がアーバスの体内で弾けアーバスにうめき声を上げさせた。効いていなくはない。しかし、それだけだ。


「ああ、うっとうしいなぁ! テメェの大事な弟くんが痛めつけられてるのも、踏みつけにされてるのも、死ぬのも、テメェの弟とテメェが弱いのが原因だろうがよ。なーにマジになってやがる」


 そして村雨をアーバスは上段から振るった。赤魔術師とアーバスの距離は10メートル以上あるのに何故? その疑問が頭に浮かんだ直後、その疑問は氷解した。赤魔術師が頭から真っ二つに裂けて両断されたのだ。こいつ、村雨から液体を圧縮し放出し刃のようにして飛ばしやがった! 


 しかし振るったアーバスに正面から傭兵が、背後から私が迫った。


 アーバスが嗤う。こいつは当然の権利のごとく【ギガタウロス】を凌ぐ身体能力を持つ。それ故、声もギガタウロス以上。アーバスがポケットに手を入れながら「死ねー!」と子供の様に叫ぶ。しかしその声量はギガタウロスの、物理的な飛び道具としての質量を備えた咆哮、それをしのぐ勢いだった。軽量級の私は愚か、鎧と槍で武装した体格の良い女傭兵も吹き飛ばす。


 黒魔術師も魔術を唱える。

 しかしこいつの使える魔術は【異常系統】と【凍結系統】のみだ。

 アーバスの首に掛けてある【耐睡のペンダント】で無効化される【睡眠魔術】、魔法剣士のアーバスの剣士部分を無力化出来ない【沈黙魔術】、単純に威力の足りない氷系魔術の三つしか無いので役に立たない。


「クソクソクソ、手札が無い! 小夜子! 指示をくれ!」

「赤魔術師のユグドラシルド借りパクして睡眠魔術撃ってくれ! 結構なダメージ入る筈だ!」


 赤魔術師の使う【異常痛撃】、今ここで欲しい凶悪なスキルだ。

 そしてそれは赤魔術師自身が持つスキルでなくユグドラシルドが持つスキルである以上ユグドラシルドを持てば誰でも使えるのだ。

一部のマジックアイテムは登録者以外使えないがアーバスがパクろうとしていた以上、誰にでも使えると予想出来る。


「させねえよ、寝ていろ、【睡眠魔術】」


 睡眠魔術で傭兵も黒魔術師も無力化された


 クソッタレ、残るは抵抗に成功した私だけだ。


周断(あまねだち)】を繰り出して必死で抵抗したがアーバスの顔に恐れが浮かんだ。必死でアーバスが距離をとる。そして荒い呼吸を何度かすると笑った。


「ああ、憤怒の魔王とあの化け物の技術だな、それ。完成度はあの化け物に比べるべくもないが」


 そしてアーバスの表情が消えた

「嫌な事思い出したじゃねえか。死ね、【核熱魔術】」異界兵器核爆弾を超小規模にした極光が私達を焼き払った。私は死んだ。


 時が廻る。


 それから体感一週間私達はアーバスに殺され続けた。

 今の回ではアーバスが私らを蹴散らした後、クソ演説をしていた。


「俺はつくづく思うんだ。人間も生物なんだから弱肉強食という当然の摂理に従うべきだろうが。自然の摂理を人間だけが法律だの人権だのクソみたいなルールで縛りやがる、弱者共が利権を得ようとくだらない屁理屈で暴力という名の摂理を否定する。自然の摂理から傲慢にも外れようとする。腐ってやがる。強者の当然の権利を奪う。ダメだ、ダメだ、ダメだ、強者のみが自由を得ると言う正しい姿に世界を変えなければこの世は腐ったままだ」


 半死半生私達の間にこいつなんでいきなり語りだしたと言う空気が広がる。

 


「弱者はありとあらゆる所で世界に嫌われて育つのだ。そんな、世界に嫌われ、叩かれ続けた奴らがまともに育つかよ。自分を愛さない世界を愛す事など出来やしない。それ故弱者は心も歪んでいる。弱さは、罪だ。それを虐げ何が悪い」


 「黙れ、邪悪は弱者じゃなくてお前だ!心が歪んでいるのも、罪を犯すのも、全部お前だ!」と戦士が言う


「俺達強者は自然の摂理に従っているだけだ。どこが邪悪なんだよ。ばあか。ああ、もちろん権利だけ主張して義務は果たさないつもりは毛頭ねえよ。もし仮に俺よりも強い奴が現れたら、潔く俺もその法則に殉ずるつもりだ」


 それを聞きギャハハハと私は嗤った。ギャハハハと、ギャハハハと、アーバスが困惑の表情を浮かべる程に。


「よく言うぜ、クソヤロウ。【賢者】からどころか、【デッドエンド】からも、ご主人ほっぽりだして逃げ出したクセによ。何が弱肉強食だ、いざ自分が弱者側になれば潔さの欠片もなく、逃げまわる卑怯者がフェアな殉教者気取ってんじゃねえぞ」


「!? なんで知って!? ……あれは【オールデッド】様なら!!」


 いきなり早口で喋り始めたアーバス、その言葉の後半は人間の言語の体を成して無かった。


 そして私は【冒険者狩り】を挑発する。圧倒的な強者を、弱者と断じ


「弱肉強食が自然の摂理なら、まずおめぇが死ね! 賢者にも、デッドエンドにも負けた、弱者!」

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