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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

花園の鍵 Episode:0.1

作者: 羽切 愁慈

現代での能力バトルファンタジーです。



ボクの名前は(あい)

世界中どこを探してもいない絶世の美少女。

カタバミの花を食べて花毒(かどく)に侵された、いわゆる超能力者。


といっても、ボクの胸元にある鍵を開けなきゃ自由に能力が使えないけどね。


大っ嫌いなクソジジイが執り仕切る地下空間が嫌になって抜け出したところ♡

お日様の下で街中を散歩できることほど幸せなことはないね、もうずっと地上で暮らしたい。

とはいっても、ボクがこの世で最も愛するダーリンを置いてきてしまったことだけは悔やんでいるけど。


「ま、いつか迎えに来てくれるでしょ!」


そう自分だけの妄想に浸っていたら、道端のジュース缶を蹴っ飛ばしてしまった。

それが最悪なことに路地裏にいた明らかにヤカラですっていで立ちの男にぶつかってしまったようで。

ボクって本当に持ってるなあ。


男はまっすぐボクの顔を見て真っ直ぐ走ってきた。


「待ちやがれこのクソアマァァァッッ!!!」

「ぅえ?! クソアマとか今時古くない?」


あぁ、どうしてボクみたいな美少女はみんなを虜にしてしまうんだろう。

なんて罪深い。

どこまでも追いかけてくる男を尻目に、人通りのない空き地へ逃げ込んだ。

ダーリンからキツく言われてる目立っちゃダメを守れる場所に。


「こんなとこ来たって誰も助けてくれねぇぞ。」

「ちょっと典型的な不良とか辞めてよね。負け犬フラグがギンギンでダサいこと気づいた方がいいよ。」


男は完全にピキっていた。

でもボクの方が強いんだから仕方ないよね、今からボコボコにされて泣き喚く姿を想像したら全身ゾクゾクしちゃう♡


「やだぁ、ね、もっと言って。もっと言ってよその遠吠え。ボク大好きなの。」

「言わせておけばこのガキがよ……その顔傷つけられても知らねぇぞ!!」


めいっぱい振りかぶったであろう拳が向かってくるが、ボクにとっては蚊の方が痛い攻撃だ。

ボクは胸の前に手をかざし、意識を集中させて鍵を生み出した。


「ヤレるもんならヤッてみてよ、ボクに犯されても知らないんだからッ!!」


ボクは服の胸元をはだけさせ、鎖骨の間にある鍵穴に生み出した鍵を挿しこむ。

そして、一気に捻った。





花毒(かどく)ーー方喰(カタバミ)(アギト)




唱えた瞬間、ボクの右腕は肩関節から指先までを一瞬で異形のものに膨れ上がっていく。

手のひらは広がり指同士がほとんどくっつき、爪は鋭く硬くなる。

身長の3倍ほどにまで大きくなった腕だったものは、もはや「あご」のようになっていた。


そんなボクの姿を見た男は呆然と立ちすくみ、絶望に近い恐怖を顔にたたえていた。

ボクはこの姿を見た奴のこの表情が何よりもどれよりも嫌いだった。


「……やめてよ。」

「は?」

「やめてよ、それ。」

「いや、ちょっ……。」


何も分かっていなさそうな様子が、更にボクのハラワタを煮えたぎらせる。

なんでこんな奴がボクの邪魔をするのだろうか。

こんなに可愛いボクの姿をそんな恐ろしそうに見ないでよ。

そんな怖そうにしないでよ、ボク可愛いんだよ。

ほら、大人しくしててこの腕だって。


ボクの思いとは裏腹に、腕は、このあごはガチガチと異音を奏で始めた。


花を食べてその毒に侵されたボクは、もうほとんど自分の意思では動かせなくなっていて。

使いたくないのに、この毒は大輪の花を咲かせたいとボクを動かす。

ボクの意思とは裏腹に。


「ねえ、最後だよ。お願い……。」


これから彼に起こること、自分の身に起こること、組織の事。

様々なことを一瞬で考えながらも、ボクは涙が止まらなかった。


視界を覆うほどに大きくなったあごは――"彼女"は、――ボクの思考を蝕んできた。

流れる血はもう見たくない。

飛び散る肉片は見たくない。


ずっとずっと、可愛いボクでいたい。


「いやっ、いやああっ、やめてえええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」


腹の底から押し上げられる絶叫に従うことしか出来なかった。


目の前は一瞬で赤く染まる。

彼女(あご)は縦横無尽に動きまわる。

本体であるボクはただそれに振り回されないよう、とにかくふんばるしかできない。

振りかぶった手のひらを振り下ろし、彼を頭から垂直に叩き潰す。

硬く握った拳で正面から真っすぐ殴りつけ、壁に穴が開くほど吹き飛ばす。

軽く指先を投げば、腹らしき場所から内臓が引きずりだされる。

どうにか残った眼球の無い頭部も、爪でこじ開けるようにして頭蓋骨を砕き、脳髄を搔きまわす。


それを見ているだけでも嘔吐が止まらず、吐しゃ物が詰まって苦しくて仕方がないのに。

感覚が伝わってきてしまうから。


この手が握り潰した脂肪のぷちぷちした感覚。

この拳が砕いた大腿骨の感覚。

この指が刺し抉り出した内臓の感覚。

この爪が切り裂いた脳髄の感覚。


視覚も右腕も嫌な感覚に侵されて。

とにかく気持ち悪くて。

気持ち悪くて。

気持ち悪くて。

もう、もういや。

やめて。

やめて。

やめて。


「も゛う゛……も、うっ、やめてよおぉっっっっっ!!!」


ボクは体を大きく仰け反らせてめいっぱい腕を引き付けた。

指先が背中に回ったタイミングで、大きく前に腕を振る。

暴走した彼女(あご)は本体であるボクに振られたからか、勢いよく壁をぶち壊す。

彼女(あご)の余りの重さに対してこの細腕は耐えづらく、両肩で大きく息をする。

涙と鼻水でぐずぐずになってしまい、うまく息が吸えなくて過呼吸になりそうだった。


ようやく息が整ったころに、壁からぱらぱらと石を崩しながら腕が落ちる。

ボクは、だらりと横たわる、まるで別人のような腕を見つめた。


いつから、ボクはこうなったのだろう。

いつまで、ボクはこのままなのだろう。

血だまりに近づいたところで、途方もない悲しみにくれることしかできなかった。


「……(ボク)の血肉を侵し花よ、汝、煌き舞い鎮め。――散花(さんか)。」


ぼそぼそと唱え、力の入らない左手で鍵を握る。

かなり抵抗が強かったが、強引に回して鍵をかけた。


すると、散々あばれにあばれまくったボクの腕は、カタバミの種のように、花びらとなって散っていった。


どっと押し寄せる疲労には到底抗えず、そのまま血だまりへと倒れ込んでしまった。

腕だけじゃない、力にあがなった代償か全身肉も骨もきしむように痛かった。

そうしてボクは眠ってしまった。



**********



「これが今回のツボミ……。思ってたよりチビでクソガキね。」

「うわあ、派手にやってますね。巻き込まれましたって言われた方がしっくり来るっす。」


誰かの声がして、ボクはうっすらと目を開けた。

どれくらい経ったのか、いまだじんじんする体は少しも動かなかった。

ただ、なんとなく、逃げなくてはと思ったのだ。


「あっ、分かる? 良かった。先輩、先輩ってば、この子息あるっぽいっすよ!」

「何が良かったですって。最悪も最悪、死んでくたばってくれれば良かったのに。ただの面倒ごとよ。」


ずかずかと革靴が近づいてきた。

一人じゃないことくらいしか分からないが、殺気だっているのだけは分かった。

冷静に分析しようとしたところで、がっと首根っこ掴まれた。

服についた血液は少し乾き、血だまりはぬるぬると粘っこくなっていて、気持ち悪い感触だけは伝わった。


ボクをつまみあげたらしいやつは、一段と低い声で吐き捨ててきた。


「きったねぇな。クソドブが。」


そしてようやく気付いた。

ボクの体が硬直している……いや、()()()()()()()()()ことに。

そいつが、ボクの大好きで大好きで仕方がない、愛するダーリンであることに。


「あら! やだ、気づいたの遅くない? ……まあ。」


ダーリンは優しく花を扱うような手つきで、ボクのあごをそっと撫でてくれた。

しかし、その動作がどうにも気色悪くて、おぞましかった。




「アタシ好きよ? そういう目。」






それからボクは、花園の奥、大事な大事な温室に閉じ込められることになったのだ。

ダーリンには会えず、暗くて寒い、深層階に。



異能力バトルもののラフです。

カフェモカココアが終わったら書くと思います。



たぶん、きっと…………。

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