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狂喜乱舞  作者: 雨月 そら
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厄災と立会奉行で開戦

 相変わらず黒雲に怒号の矢が雨の様に降り注ぐ昼間も何もない闇が続く、まさに、地獄の地と言っても過言ではない。


 信長は躳鬼きゅうきに跨り空を駆け、怒涛の様に降り注ぐ雷を避け、雷が豪雨の様に止めどなく落ちて柱の様になっている場所へと辿り着いた。


 「ほほぉ〜う?今日はぁ〜、第六天魔王がぁ、先陣かぁ〜。良きにぃ〜、良きにぃ〜」


 信長を空高くより見付けると、にやりと嬉しそうに口元を歪め歌舞伎口調でそう言ったのは、丸刈り頭に鴉天狗の額には小さく金の武田菱の家紋が入った黒漆塗の面を付け真っ白な山伏の格好に、赤漆塗の一本歯下駄を履いていた屈強な男。

 背には変り括り猿の家紋が入り、鴉の大きな羽根が生えている。それに付け加え下駄の歯がやけに長く信長と変わらない背丈のはずがより高く、腕を組んで仁王立ちする姿はかなり威圧的である。


 「信玄の兄者ー。此方方の準備は良き、良き、良好、良の良。いつでも、光檻こうかんから放つ、準備万端。此方方の方もう我慢し切れないと、お嘆き、嘆き、今にも檻を破りそうな、勢いよ。暴れ狂い、威嚇よ!怖き、怖き。さぁさ、御立ち合い〜、御立ち合い〜」


 信玄に呼び掛けたのは、同じく山伏の格好した黒漆塗の鴉天狗の面をし少しこの中では小柄な飄々とした男。

 白の行人包を頭に巻き、顔の面の額には小さく金の上杉笹家紋が入っているが、信玄と身に付けていものはほぼ同じ、ただ少し背の羽根は小振り。

 くるりと優雅に雷の柱を周り、発した言葉とは裏腹に、芝居小屋の呼び込みみたいに楽しげで、役目を終えた様に停止すると両手を頭の後ろ手に足を組んで悠々と椅子にでも座ってるみたいに宙で羽根を羽ばたかせ浮いている。


 「第六天、さぁ〜〜時間いっぱい。構え構えよぉーーーーーーぉいぃ!!開、戦!!!」


 信玄がスーッと羽根を大きく羽ばたかせて降りて行くと柱の中央へ、身を屈め、手をグッと握り締めてからぐっぱと開き握るを手早く二度繰り返せば、その手には軍配団扇が握られる。そこから大股で足を大きく開き腰を落として前屈みで軍配団扇をグッと前に出す。

 そして、大きな声で一帯に轟く様に叫べば、軍配団扇を縦に光線が一筋光るが如く素早く上げた。


 そこから信玄は素早く逃げる様に高く飛んで、今までいた場所へと戻っていく。

 そこで並んだ二人の鴉天狗、背の羽根で大きく羽ばたいて天高く高くその場から更に離れると下の様子を伺う様に、大股でしゃがみ見下ろした。


 バチ バチ バチバチバチバチ!!!


 雷の柱は小さいが荒れ狂う様に火花を散らして、門が開く様に束になっていたものが一柱一柱ばらけて一つずつ闇へすーっと消えていく。最後の一柱が消えた瞬間、そこには黄金に輝く山犬の頭に龍の躰の躳鬼と同じ位の大きさの獣が現れる。


 グルグルグルグルグル


 大きく裂けた口からは鋭い牙が生え、威嚇する様に低く喉を鳴らし、四肢の前足は臨戦体制で低く構え、空腹の獣が獲物を狙うギラギラとした鋭い眼光を信長へと向けている。


 「おーぉやぁ、これはこれは、睚眦がいし、ときたか。龍帝王てんていもぉ〜、人が悪い。のう、謙信よ」


 軍配団扇で顔半分を隠すと含み笑いをしながら信玄は楽しそうで、更にその瞳は黄金に怪しく輝く。


 「......龍帝王てんてい......利便な言の葉の葉、此方の現世げんぜでは。彼方では一人の気狂い、狂いの亡者で、ただただ漢よ。それが一魂振えば、一矢となって放たれ厄災なりて産まれ落ちる。これは、奇であり、喜の喜!」


 相変わらず飄々と楽しげな謙信は、片目を閉じてにやりと怪しく笑みを浮かべ、もう片方の瞳はギラリとこちらも怪しく黄金に光る。


 「此方方、はこなければ......我々の此岸、裏咒願で呪詛喰らいさ〜ね。有難き〜ぃよ。のぉ〜う、謙信」


 「...ですが...信長だけで、大事ないか、否か。不安も不安」


 「まぁ〜ぁ、我らと同じぃ〜でぇ〜、狐や狸の化かし合い〜なぁ、一筋縄では行かない連中よぉ。己の陣地ぃ〜から高みの見物と洒落込んでぇ〜。鳶に油揚げを攫われるが如くを、狙ってるのか〜もしれんなぁ〜」


 「怖しや、怖し。人とは、まこと、怖しやねぇ〜」


 二人の鴉天狗は下を見下ろしたまま、クックックックックっと怪しく笑いを漏らした。



 . . . . .



 「おんやぁ〜...こりゃ〜、面倒だなぁ〜。今回の立会奉行は、鴉天狗の猿田毘古神さるたひこの一派だしなぁ。はぁ〜...しかも、文献によりゃー... 睚眦は、竜生九子の中でも荒くれものときたもんだ。おうおう、今回は下手に出るわけにゃーいかねぇなぁ〜」


 黒漆塗の木筒の屈折望遠鏡で外を覗いていた男は、それをポイっと横で長跪ちょうき座りしている男へ投げ捨てる。

 その男、黒の半着に薄墨色の馬乗袴で耳が隠れるくらいの長髪に波の様なうねりのある髪で、背には組あい角に桔梗紋の家紋が白で大きく入っている。


 「龍馬殿、ですが...信長一人で退治できるような、相手でもあるますまい」


 横の男は投げ捨てられた屈折望遠鏡を両掌を出して受け止めるとそれを握り締め眉を寄せ、龍馬の方へ顔を上げて進言する。


 「う〜ん...だがな、鎌之助よ、あの出しゃばりの平のおっさんが出てこないなんて、よっぽどだろ〜?どうしたって、今は様子を伺った方がよくねーか?」


 両腕を両袖から抜いて、着物の中で腕組みした龍馬はスーっと片目を瞑り、もう片方の目で鎌之助を見遣る。


 「...おっさんと言うほど、歳は離れておりませんが」


 「ぶはぁ!!まーまー、見た感じよ、見た感じ。ギンギラギンの歴史になぞった派手な着物も面構えもどーしたって、クソ真面目すぎて、相性悪しだしな。同じくらいには到底思えねーのよ」


 「それは、そのこんの性質ですのでなんとも。ですが、あまり、ペラペラ喋り過ぎるのはよろしくないかと存じます」


 「俺の陣地だから言ってるというか、鎌之助だから、こそよ......それに、此処のカラクリを教えたのはおめぇーさんだったと思うんだが?」


 「......それは、貴方様だからこそ、としか今は言いようがありませんね。きっと、貴方なら己のためだけで動きはしない。私はこれでも、見る目はあると、自負していますから」


 「ほぉ〜う。そりゃ〜、真田のもの、だからか?」


 「......彼の方は、九尾の中でも最も聡明であり、それはそうではありますが、私の本能たるものも幸村様には負けますが、悪くないと思っております」


 龍馬は閉じた目を開けば、はぁ〜っと鎌之助を見ながら呆れ気味に軽くため息を付く。


 「かったにねぇ〜。ま、そこ、固すぎるからこそ信用がおけるけがな。まぁ、奉行方のスパイな訳だから、味方という訳でもないがなぁ〜。まぁ〜...まだ始まった、ばっかりよ。少し様子を見ようじゃねーか。あの天下信長が、どれほどもんなのか」


 龍馬はそう言って、チラリと西の空を見上げた。



 . . . . .



 「うむ。視線を感じる」


 豪華絢爛な金の裘代を身に付け、綺麗に金髪に染まった髪と眉に七三分にきっちり分かれた髪の少し強面でがたいの良い男が、腕を組み大股でピンと姿勢良く立ちながら、そう、顔色一つ変えず言葉を漏らす。


 「清盛様、気のせいではありませぬか?なぁ、伊左入道」


 清盛のすぐ隣で正座をしてそう言うたのは、本紫の袈裟を身に付け、黒の短い髪をさりげなく横に流して真面目そうな顔で、がたいが良さそうな男。


 「さよう、清海兄者の言う通り。こんな非常時に、偵察など、阿呆のすること」


 清海の隣に正座している伊左は、清海より細身ではあるが同じく袈裟を身に付けている。ただ、木賊色と色違い。耳より上くらいの長さで小波の様なうねりの髪を真ん中で分け、黒と焦茶色が混じった髪色で、彫りの深い顔をているが全体的に軽薄そうな雰囲気は否めない。


 「ぬしらの目は、鈍か?よく見よ!」


 清盛は右人差し指を戦場方向へバッと力強く向け、ムムムと眉に皺が寄り顔色を変えて二人を睨む。


 「あそこには、歌舞伎者しかおらぬ。ということは、あの鼻垂れ小僧はまだ家の中よ。のらりくらりと、よく分からんあやつの事だ、コソコソ覗き見してるやもしれん、というものよ!」


 清海と伊左の二人は清盛の覇気に気圧されそそくさと顔を見合わせると、苦笑いをしながらなるほどと同時に呟いて、確かに確かにと納得した様に小さく呟きながら頷く。抜けているが実に、とても息の合った兄弟である。

 それを横目で見下ろしている清盛は、呆れて物が言えずに深いため息を漏らす。


 「で、おぬしら、何故此処で、のんびり座っておる」


 二人は惚けた顔をし、清盛を見上げている。

 すれば腕を組み直した清盛からは、頭が痛いと言わんばかりに片目を閉じて、ため息一つ。


 「現場へ偵察するとかを、考えぬのか?」


 二人は実直に喋る清盛に顔を向けていたが、直様また顔を見合わせ、今度は戦が始まった方角と隣の相手を交互に見ては、どちらが行くかと視線だけでやり取りしている。


 「もうよい......期待した儂が、愚かであった。さて、どうしたものかのう〜。百戦錬磨のこの儂とて、あれに突っ込む気合いはないわ。しかしな...いやいや、此処は彼方側の出方を窺った方が、得策か」


 清盛は二人のやり取りに嫌気がさしたのかもう片方の目も瞑り、考え事をする様に少し顔を上げてぶつぶつ独り言を呟いて、バッと何かを察した様に目を大きく見開くと今度は鋭く戦場を睨み付けた。

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