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古本屋「ねこのへや」  作者: 雲母あお
第1章 水曜日のお嬢さん
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水曜日のお嬢さん②

店に展示されている“見開かれた本“を見るために、店の一番奥へと進んでいった。

「公園……。」


挿絵は、桜満開の下に置かれた、木製のベンチの絵だった。誰も座っていない…


ああ、そうだ。初めてデートした日。あの人と公園で桜の花を見ながらお弁当を食べたんだった…。美味しいって言って全部食べてくれて、あの時本当に幸せだったなあ…。


「…な、泣きそう…。」


このビルに来てすぐに、彼氏ができた。職場の同僚の紹介で合コンして、気があって付き合い始めた。嬉しかった。

でも、半年ほど経ったころ、他の女性ともおつきあいしていることが発覚した。


たまたま、知らない女性と腕を組んで歩く彼を見かけてしまったのだ。私を呼ぶ時に使う彼が付けてくれたのと全く同じ呼び名で呼ばれる私より若い女の子…。


二股がバレないように…か…

最近呼ばれるようになった呼び名は…。


ズーンと体が一気に重くなる。


どっちが最初だったのかな…

わたし?それとも彼女?

最近になって呼び名で呼ぶようになったから、きっと最近二股をかけるようになったのよ。最初は私一筋だったはず!ううん、最初から遊びだったのかもしれない。私のことが好きなんて、全部嘘だったのかもしれない。1人で考えていたって答えも出ない、彼に聞いたって真実を語る保証なんてない。不毛なことばかり考えてしまう。心がうわあと血が駆け巡るようにおかしくなっているのに、目の前を楽しそうに歩く彼を捕まえて、追求するなんてとてもじゃないけどできなかった。できなかったんだから仕方がない。


「別れましょう。」

次のデートの日、思い切って彼に告げた。

「わかった!今までありがとうな!」

あまりにあっさりとした返事に、言葉も出なかったのを覚えている。そして、

「それじゃあ、元気で。今まで楽しかったよ。さようなら!」

と、爽やかに笑顔を向け、私の前から去って行ったのであった…

私の足は動かない。


ああ、つらいな

ああ、悲しいな

ああ、悔しいな


こんな答えを待っていたんじゃない。

あなたにとって私ってなんだったんだろう。

あっさり手放せる程度の女だったのだろうか。

目の前に解答を突きつけられたのに、疑問形で浮かぶ感情たち。

すぐには受け入れ難い状況に、彼の背中が見えなくなっても、その場から動くことができなかった。


ああ、今日がこんなに綺麗な青空でなかったら、立っていることすらできなかったな…


青からだんだん赤くなっていく空を見上げながら、どんどん心が空っぽになっていく…

自分で終わらせたことを、褒めてあげよう。

帰りに高くていつも買えずにいたケーキを3個買って、1人家に帰った。


次の週の水曜日


カランカランッ


「いらっしゃいませ。水曜日のお嬢さん。」

「こんにちは。」

いつものように挨拶を交わすと、真っ直ぐあの本の元へ。

今日はどんな絵を飾ってあるのだろう。


「!?」


その挿絵は「公園」だった。満開の桜の下にベンチがひとつ。前と同じ挿絵かと思ったけれど、今日のベンチには、熊の後ろ姿が2人、寄り添うように座っていた。


今日に限って、別れる前は誰もいないベンチ、別れた後は2人寄り添う熊の後ろ姿。

「なんで…?」


ああ、つらいな…

ああ、苦しいな…

ああ、………


立ちすくみ、視線を外したいのに、その挿絵から視線を外せなかった……


ああ、こんな幸せな風景見たくない…


私は思わずぎゅっと目をつぶっていた。


目をつぶったって、仕方ないのはわかっている。動かなければまだ目の前にあるのに。

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