ヒーローインタビュー
嘘つきは悪人の始まり
小さい時によく言われた言葉
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「では武道の経験がおありで?」
『はい 学生時代に空手を少しだけ』
これは本当
「その時の経験が生きたのですね
犯人に立ち向かった時は怖くなかったのですか?」
『無我夢中でしたね
咄嗟の事で体が勝手に動いていたので』
まぁこれも本当のこと
「今回の事件についてどう思われます?」
『誰も怪我なく済んで良かったです
危険ですので私の様な真似はしないように
こういった場合はすぐ避難してくださいね』
これは半分だけ本当
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休みの日に当てもなく街に出歩いたら
刃物を持った男と出会った
後に聞けば最近よく聞く無差別犯のようだ
彼は現状に嫌気がさし誰かを殺して
自分も死にたかったらしい
私は彼を見て少し考え
これ幸いと彼に近づき
相対して見ることにした
私も死にたかったのだ
現状に嫌気がさしていた
ただ人間の身体は良くできていて
そう都合よく動いてはくれないものだった
─部活の時のリンチ─の記憶のせいで
─母の教育という暴力─の記憶のせいで
─自殺未遂─の時の記憶のせいで
気がついた時には身体は防御反応をとり
役に立ってほしくない時に限って
あの時の経験が生きてしまい彼を取り押さえてしまった
これでは彼の願いも叶わず
私の願いも叶わず
何一つとしていい事は無い
だか世間としてはいい事なのだろう
本当にこの現状が嫌いだ
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「では最後に一言」
『もし、私に勇気があれば
この件は私が起こしたものなのかも知れませんね』
「はい?」
あはは…駄目だ記者さんを困らせては
いい子でいないとまた怒られてしまう
ヒーローの様にちゃんとした人間にならなければ
『いえ、聞き流してください 一言でしたね
今回は誰も傷つく事なく済んで本当によかったです』
母さん 嘘はついてしまったけど
私はちゃんと真面目なヒーローになれたでしょうか?