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神殿都市の見習い騎士  作者: 桜飴
私がこの物語のヒロインです
4/8

「カナン、トリア達がきたわ」


メイフィ様の声にカナン様は手を振るだけです。目線は目の前の騎士様達から動かさず。


「お忙しそうですね」

「次がカナンの隊なの。抜けるのは無理ね」


メイフィ様は肩を竦め、私達に向き直りました。


「さ、カナンも起きているし、朝の用事はないわ。朝食を摂って講義にお行きなさい」

「はい、メイフィ様」

「失礼しま――」

「危ない!」


誰の声だったのかはわかりません。ただ、その叫びと同時に視界を炎の塊が埋め尽くします。

トリアがとっさに抱きしめて庇ってくれますが、あの炎の量では二人とも焼かれて死ぬのがオチです。

驚きと恐怖で目を閉じる事すらできなくなった私の視界の中に、炎に負けないくらい赤い髪が翻りました。

そしてそのままスローモーションのようにゆっくりとした動きで、その人は腰の剣を引き抜いて――それを両断しました。

切られた火球はその剣筋に煽られるように吹き消され。あたりにはシン、と静寂が降りてきます。


「さて」


そんな中、ゆっくりと鞘に剣を収めたメイフィ様が、こちらに背を向けているので表情はわかりませんが、優しい声で尋ねます。


「今のは、誰のミスかしら?」


明らかに飛び上がった新人と思われる騎士様に顔を向けると、ゆったりとメイフィ様は歩き出しました。

その靴音によって緊張がゆるんだように、私とトリアは抱き合ったままその場に座り込んでしまいます。


「チビども、大丈夫か?」

「怪我は?」


同じように我を取り戻したのか、私達の周りには小隊長以上の方々が集まってこられました。

ロマンスグレーな騎士団長が膝を付いて確認してきた他、容姿も実力も一級の騎士様達が顔を覗き込んでくる様は、眼福以外の何物でもありません。


「トリア、フィーリ」


そんな中でも、やはりこの方の声は特別です。

いつの間にか傍に来ていたカナン様は私達二人を検分すると、トリアの頭に手を置いて微笑まれました。


「良くやった」


その破壊力抜群の微笑みに思わず気が遠くなりかけます。惜しむらくはその笑顔が私に向けられたものではないということ! いえ、そんな事になれば間違いなく気絶していますから、私向けじゃなくて良かったのかもしれませんが。


「チビども、怖い目に遭わせてすまなかったな。そしてトリア、そんな中で良く動いた。

 ショック状態は後から来ることも多い。講義中に気分が悪くなった時は遠慮なく休め。今日の講師にはこちらから連絡しておく」


膝を折って目線を合わせたロマンスグレー。素敵な紳士の風貌ながら、ちょっと口が悪いのが玉に瑕。


「とりあえずメシ食ってこい。腹が減ってちゃ余計に気持ちも落ち込むからな」


よっこいせと立ち上がったロマンスグレーは傍らにいたカナン様に顔を向けました。


「カナン、今の出来事を今日の担当講師、および救護室へ伝達。ついでに食堂までついて行ってやれ」

「了解しました」


カナン様は綺麗にロマンスグレーに一礼すると、私達を促して廊下に出ます。



「階段、降りられそうか?」


食堂は階下、エスカレーター、エレベーターといった類の物はありませんので、歩いて降りるしかありません。

私は驚きすぎて現実感が無かったせいか、特に歩きづらい等はありません。

ですが、先ほどからトリアの歩みが時折おかしく、カナン様の言葉に改めてよく見れば、足はガクガクと震えていました。


「…すみません…」


小さな声で謝るトリアに、カナン様は頭を振って膝を折り、その顔を真正面から覗き込みます。


「誰でも命の危険に晒されれば、そうなって当然だ。俺達ですら、そういう経験が何度もある」


そしてそのままほらこい、と背中を向けます。トリアは困ったように固まりますが、カナン様の『抱き上げた方が良かったか?』という言葉に渋々とではありましたが背負われる事を了承しました。


「カナン様も、ああいう経験はおありなんですか?」

「騎士なりたての頃に主に訓練で。それに、ああいう事故は今日のように術の使用を許可している訓練ではよくある話だ。

 次から術の行使込みの訓練時は事前に伝えるからあまり近寄るな。身を守る術を持たないうちは大怪我に繋がるからな」


うーん、カナン様にお会いできる時間が減るのは嬉しくないのですが、これも命を守る為と言われれば仕方のない事でしょうか…

悩む私とは別に、トリアは他が引っ掛かったようです。


「訓練って、攻撃術を受けるんですか?」

「最初は調整に長けた奴が直前で消えるように調整した物を向けられる。

 それに慣れてきた頃に不意打ちで撃たれ、最後は向かってきた術を避ける、もしくはメイフィのように対処する訓練に移る。

 それに合格しなければ、正騎士の訓練には混じれない」


訓練を受ける為の訓練という事ですね。騎士とはとても厳しい世界です。


「僕たちも、いつか受けるんですか」


トリアの問いに、少しカナン様は考えたようです。


「お前たちが騎士を目指すなら、いつかはな」


トリアは黙って頷きました。



「よし、着いたぞ。どうする、歩けそうか?」


食堂の前で、カナン様がトリアに声をかけます。

中は私達のような見習い他、塔で働く年若い下働きが見受けられます。

この町は働かざるをえない成人前の子供にはとても優しいので、たとえ孤児でも餓死の心配がないのはありがたい話です。おそらくここにいる大半が、私達と同じように町の下級層に位置する子でしょう。


「大丈夫です、ありがとうございます」


トリアがカナン様の背から滑り降りたところに、ひょっこりと食堂の中から顔を出す人物が。


「カナンじゃん。そんな恰好で何してんの?」


声をかけてきたのは騎士の制服を身にまとった金髪の騎士様。肩章は淡い青の縫い取りで、第四神殿の騎士団所属とわかります。


「レイか。おまえこそ、ここで何してる」

「レイ様、おはようございます」

「…おはようございます」


トリアは直前まで背負われていたからか、ちょっと気恥ずかしそうですね。


「ん、二人ともおはよう。何、トリアは怪我でもした?」


レイ様は心配そうにかがみこみます。ちょっと口調は軽いですが、基本的に面倒見がよく、子供に好かれるレイ様はカナン様の同期の騎士様です。

また第四神殿騎士団は実力においては第一神殿騎士団と遜色ないといわれ、カナン様曰く『剣技においてはレイが上』との事。

ご容姿もカナン様ほど浮世離れはしていませんが、第一にいても全くおかしくない美形です。

ただ、おうちの事情が複雑で、うっかり第一に入ると面倒が起こるからと自ら第四神殿付きを希望した、というのがうかがっている経緯です。


「いや、朝の挨拶に訓練場に来たんだが、ミスった奴に焼かれかけた」

「そうか、何もなくてよかったね」


トリアの肩に手を置いて、うんうんと頷くレイ様。


「で、カナンは付き添い?」

「ここまでな。この後今日の担当講師と救護室に、念のため事情説明して戻る」

「えー、一緒に居てあげりゃいいじゃん。二人はカナンの専属でしょ?」


さすがレイ様、良い事いいます!

しかしカナン様は難しい顔で首を振りました。


「…恐らく今頃メイフィが盛大にキレてる」

「あー…」


レイ様の目が泳ぎます。


「そりゃやばいわ」

一ページ何文字くらいが読みやすいんでしょうね。

もうちょっと短くてもいいのかな?

個人的目安としては3000くらいかな?と思うのですが。

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