とどいたおてがみとブックトーク
童話「うさぎさん」シリーズの一作です。このお話だけでもお読みいただけます。
ふかい森のおくに、としょかんを開いている白うさぎさんがいました。
コツコツとあつめてきた本を森のどうぶつたちにかし出す、小さな「森のとしょかん」です。
ある日、うさぎさんにおてがみが届きました。若葉のような、あわいみどり色をしたおてがみです。
「わぁ」
そっとひらくと、さわやかなにおいがしました。
目をとじれば、こうげんを風がふきぬけていく光景がうかんできます。
「とってもとおくから来てくれたのね」
それは、あちこちを旅する劇だん「とりのいちざ」からのおてがみでした。
こんどはこの「森のとしょかん」で劇をさせてほしいというのです。
うさぎさんはおどろきましたが、嬉しくもありました。劇だんが声をかけてくれるくらい、みんなに知られるようになったのですから。
ばしょも、いつもみんなとお茶をしている庭をつかってもらえそうです。
それでも、ひっこみじあんのうさぎさんです。会ったことも話したこともない劇だんの人たちをそうぞうして、少しだけ迷いました。
でも、ここで劇がおこなわれ、みんなが喜んでくれたら、どんなに素敵なことでしょう。
「がんばってみよう」
みんなの笑顔が見られるのならと、勇気をだしました。それに、さらに素敵なアイデアもおもい付いたのです。
そうして、サラサラとお返事をかきはじめたのでした。
✽ ✽ ✽
森のとしょかんの庭には、たくさんの動物たちがあつまっていました。おなじ森のなかまである魔女さんと妖精さんの姿も見えます。
うさぎさんが何日もまえから看板をたてて、お知らせしたからです。
「うさぎさん、今日はおまねきありがとう」
「きてくださったんですね」
うさぎさんがかんげいしたのは、いつも色々と教わるためにかよっている「町のとしょかん」のネコさんでした。
せっかくのきかいだからと、招待状を出していたのです。
今日のためのじゅんびにも、アドバイスをもらっていました。
劇だん「とりのいちざ」は名前のとおり、鳥さんのあつまりでした。スズメにハトにキツツキに、ペンギンもいます。
いちざは、庭にもうけた小さなステージのうしろにテントをたてて、劇のよういをしてくれていました。
「こんにちは」
うさぎさんは、おきゃくさんがイスにすわったのをかくにんして、会をはじめることにしました。しん、としずかになります。
そう、ただ劇をしてもらうだけではないのです。
「今日はあつまってくださってありがとうございます。劇はもうすぐはじまります。それまでは、こちらをお楽しみくださいね」
みんなの前におかれたイスにすわり、うさぎさんはぜひ紹介したい本があるといって3冊をとりだしました。
さいしょはえほんです。
小さな鳥のおんなの子がはじめてみた劇にかんどうし、じぶんも劇だんにはいりたいとがんばるお話でした。
今日にぴったりだとおもい、えらんだ本です。うさぎさんが読みよみきかせをすると、みんな熱心にきいてくれました。
森のとしょかんにやってくるだれもが、うさぎさんのやさしい読みきかせが大好きなのです。
とくに、子どもたちはもう1回読みたいといってくれました。
つぎに紹介したのは衣装についてかかれた本です。劇だけでなく、おまつりやパーティーにきていけそうな華やかな服がたくさんのっています。
「つくり方もかいてありますよ」
うさぎさんがページをめくると、みんなも「おもしろそう」と反応してくれました。
つくってみたいと思ってくれたひともいたみたいです。
さいごにとり出したのは、ぶ厚いれきしの本でした。それも、劇のれきしがつまった珍らしい本です。
「劇がどのようにして生まれてきたのか、しっていますか? せかいじゅうのすばらしい劇じょうの絵もあって、おすすめですよ」
これまた、「おもしろそう」という声があがりました。
服にはきょうみがなかったひとにも、この本はみてみたいとかんじてもらえたようです。
「劇をみたあとで、よかったらひらいてみてくださいね」
さぁ、うさぎさんがお話をしているあいだに劇団の準備もととのったようです。
「とりのいちざ」の座長をしているキツツキさんが、あるものをとり出してにこっと笑いました。
「みなさん、こんにちは。わたしたち『とりのいちざ』はごらんのとおり、かわいい人形をつかった人形劇だんです」
それは白いうさぎさんの人形でした。キツツキさんが手をうごかすと、小さなうさぎさんも楽しげにダンスをおどります。
キツツキさんはもう一度にっこりとわらって、りょう手をひろげました。
「どうぞ、さいごまで楽しんでいってくださいね」
✽ ✽ ✽
劇はおわるやいなや、はくしゅかっさい。大こうひょう。うさぎさんも動物たちもニコニコのまま、おひらきになりました。
さいごまでのこっていたのはネコさんです。かたづけを手つだってくれて、今日のがんばりも褒めてくれました。
「がんばったうさぎさんに、『町のとしょかん』のみんなからプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
ネコさんがさし出したのは、一まいの紙でした。少しかたくて、まるで賞状のようにしっかりしています。
紙にかかれていたことに、うさぎさんは目をまんまるにしました。
そこには、しっかりした字でこうかかれていました。
「あなたを 『森のとしょかん』の 司書補に にんめいします」
ネコさんが「おめでとう」と、一番においわいをしてくれました。
《おわり》
お読み下さり、ありがとうございました。