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AIとボットは何を夢見る

作者: 雪見夏

 誰がこんな世界を作ったのだろうか。

 僕は時々そんなことを考えてしまう。きっと考えても答えなど見つからない、無駄な時間だと分かっているのにどうしても考えてしまうんだ。僕たちは作られたロボットなんじゃないか? この世界自体、妄想で実在していないんじゃないか。ファンタジーな空想が頭をよぎる。

 そんなことを考えるとなんだか今の自分という存在がないような気もしてくる。それを考えると胸の奥がキューッと痛んでくる。

 ビルの屋上で曇天を眺めた。

 この世界には晴れというものがない。晴れという言葉も言葉では知っているがどんな感じなのかさっぱりわからない。

 二十四時間工場から煙が上がり、その煙が空を覆っているからだ。

「ケン、休憩そろそろ終わるよ」

 ケンは僕の名前だ。誰がつけてくれたのかわからないけど、名札にそう書かれていたのだから、これが僕の名前なのは確かなのだ。

 ビルの屋上で寝っ転がっていた僕の顔を覗き込んでくる女性。彼女の名前はラン。体毛は真っ赤なルビー色で綺麗な女性だ。髪の毛から、まつげまで全てが赤色。その赤を目立たせるように肌は白く美しい女性だ。

 僕は立ち上がって彼女の横を歩く。僕たちは屋上から職場に戻るのだ。

 なんのための仕事か僕たちは何一つわかっていない。ただ金属の部品を作ったり組み立てたり、これが何に使われているのかさっぱりわからない。

 だけど、記憶がある頃から行っているのだから僕はこれ以外に何をしていいかもわからないんだ。

 それはランも一緒だ。

 僕たちは群青色のつなぎを着て、同じく群青色の帽子を被る。仕事をするときの正装だ。

「次の現場はどこ? 私は組み立てよ」

「僕も組み立てだから、一緒だね」

「そうなのね。ここから離れているし早く行きましょ」

 ランは少し早歩きになった。僕もそれに合わせる。ここの敷地は広い。どれくらいと説明するにはそれはそれは難しく。僕も端から恥まで見たことはない。聞いた話だと、端っこは海だとか。でも、僕は端にある施設に行くような仕事をしていないので、海を見るのはないだろう。

 僕とランはつまらない工場群を歩く。

 コンクリートで埋められた凹凸のない地面。通路の横には太いパイプが何本も伸びている。そのパイプは僕たちが歩く頭上にも張り巡らされて、まるでこの敷地の血管のようだった。

 そのパイプたちは一つ一つ工場に結ばされている。工場は所々サビているトタンでできた古いものから、白い金属で覆われている新しいものまである。その工場の共通点は全て長い煙突が伸びていて、健康に悪そうなドス黒い煙をもくもくと焚いていることだ。

 僕たちはその中の、ボロいトタンの工場に入る。

 工場に入った瞬間、仕事だ。

 何かもわらかない部品をただひたすらに組み立てるだけ。

 それで、僕の一日は終わる。残業はない。個人の終わる時間になったら終わるだけ。決められたプロセスを行うだけだ。

「お、終わったな。お疲れさま」

 工場を出るとそこにはランが手を振っていた。

 ランは僕よりも早く仕事が終わったはずだが、待っていてくれたようだ。

 僕たちは寮に行くまで他愛もない会話をした。

 ここで働いている人みんな、寮生活だ。週七日あるうちの六日は仕事、残った一日は休みだがみんな疲れてしまって寝ていることが多い。

 だから、ここにいる人たちはこの工場群以外の世界を知らない。みんな外はきっと、煙の立たない綺麗な世界なんだろうと希望的観測をする。だけど、誰も外に出ようと行動力を起こせないでいるのだ。

「じゃあ、またね」

 ランと手を振って別れる。男子寮と女子寮に分かれている。男子と女子どちらも五対五の半々くらいの人数がこの工場で仕事をしている。

 総勢なんにいるかはわからないが、数え切れないほどの人が働いている。寮もサイズは大きい。でも、一つ一つの部屋は小さくて六畳一間の部屋を二人で共同して使っている。だと言っても、共同しているもう一人の人を見た時がない。休みの時間が合わないのだ。でも、住んでいるのは確かで部屋を使った痕跡は確かにある。

 寮は一階が食堂になっていてみんなそこで食事を済ませる。他に買うところがこの工場群だとないのだ。

 食事をして、お風呂に入って寝る。そしたら、明日はまた仕事だ。

 誰かがこの工場群を地獄だと言っていた。

 これが地獄だとしたら、ここ来る前の僕はどんな大罪を犯したのだろう。

 そんな働く上で余計なことを考えながら、僕は目を瞑り眠りにつくのだった。


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