第四話 独立しよう
幼馴染剣士とのどったんばったんで、だいぶ時間が経ってしまい、勇者太郎とラスボス子は勇者宅で夕食を食べることになった。
どったんばったん暴れた幼馴染剣士はというと、勇者母の圧力拷問を受け、胃の中身と一緒に勇者太郎との婚約にこだわった理由をゲロゲロと吐いた。
どうやら勇者太郎と結婚して彼のお金を魔法使いチャラ男に貢ぐつもりだったらしい。
あんまりにも残念な理由に怒りを越して哀れになったので、村で取れた野菜を持たせて帰ってもらうことにした。
事件は無事に解決した。そういうことにした。
「それで法律で俺たちが結婚できないってどういうことなんだ」
夕食の席。勇者宅のテーブルには肉、野菜、果物がこれでもかと積まれている。
勇者太郎はラスボス子の隣に座り、自身の両親と向かい合いながら、彼らに疑問を投げかけた。
テーブルの向かいには勇者母が座り、その隣には勇者太郎の父親、勇者父が座っている。中肉中背、ラフに切った髪型は歳をとった勇者太郎を思わせる。そんな男性が勇者父だった。
「それはラスボス子ちゃんが魔族でラスボスだからよ。勇者太郎」
勇者母は端的に言った。それを聞いて勇者父が一息つき、補足の解説を始めた。
「母さん、それじゃ説明になっとらんよ。そうだな、お前が生まれる前の話だ。知らないのも無理はない」
「どういうことだ」
「それは３０年前母さんがまだ天使だったころ――――」
要所に差し込まれるのろけを勇者太郎は聞き流しながら父親の話を頭の中でまとめた。
それは今からおよそ３０年前。
勇者太郎達が住む王国で、魔族であるインキュバス、サキュバスと結婚するデモンフィリアたちが現れた。
そのため人間と魔族のハーフが増え、純粋な人間が滅ぶことを危惧した国王は異種族同士の結婚を厳罰とし、異種族で結婚した者、その間に生まれてきた子供、親類、そのほか彼らの賛同者、全て残らずまるっと火あぶりにしたのだという。
「――――というわけだ。この事件をきっかけに異種族同士の結婚は法律違反になったわけだ」
「なるほど」
納得はできないが現状は完全に把握したとばかりに勇者太郎は相槌を打った。
しゃくしゃくとリンゴを食べていたラスボス子も話に加わってくる。
「その話なら聞いたことがある。魔族の中でも禁じ手になった人間界の侵略方法」
「知っているのか、ラスボス子」
「ええ、実際に生まれたハーフの人権問題や、家族に情が移った彼らが魔族側の機密を漏らす事件が頻発してキリのいいところでやめたらしい。今じゃ人間側も魔族側も誰も得をしない最悪の作戦として歴史書に掲載されているわ」
「そんなことが俺が生まれる前に……」
勇者太郎は少し未来を想像した。
（結婚するということは、いつかは自分の子供ができるということだ。仮に自分のわがままを通した結果、未来に生まれてくる子供が過酷な目に遭ってしまうのは望むところではない、となると……ううん……）
「勇者太郎？」
ラスボス子に声を掛けられ勇者太郎は振り向き、彼女を見た。
紅い宝石のような瞳がじっと勇者太郎を見つめていた。
そのラスボス子があまりに可愛く、勇者太郎は目が離せなくなった。
勇者父はそんな息子の様子を見て彼の本気を察したのか、優しく笑みを浮かべ、一つの提案を持ち出した。
「悩んでいるようだな、息子よ。ちなみに母さんのことなんだが、いつも言っているが母さんは元天使でな。それを天界の秘術である転生術を応用して人間に生まれ変わりこの国の法律問題をクリアしたんだ」
「え……？ いや、そんな冗談を」
勇者父の突拍子のない発言に、それはないと勇者太郎は否定した。
しかし勇者父は、普段出さない本気のトーンで言葉を返した。
「マジ、だよ。息子よぉ……お前あれだけ話したのに今まで信じていなかったのか？」
「嘘だろ……。いつも昔話でおふくろのことを天使、天使と言っていたのって、ただのろけていたわけじゃないのかよ！」
「本当のこと、みたいね」
勇者太郎は薄っすら、ラスボス子から魔力を感じ取った。
どうやら幼馴染剣士に使った過去視認の魔法をつかったのだろう。
「お前がどうしてもラスボス子ちゃんと結婚するならば、この国ではこれしか方法がない」
「これしか、だって……！」
その時、勇者太郎の脳裏にひらめきが走った。
勇者太郎は体質上、選択肢がこれしかないとか、世界を救うか彼女を救うかと問われると条件反射的に第三の選択肢を探してしまうのだ。
しかもその時の脳の活動速度は主人公補正で二倍、ヒロインのことが絡むので五倍、さらに今回はそのヒロインが可愛いラスボス子なので十倍、しめて百倍速。ほとんど直感に近い速度で答えをはじき出していた。
「いいや、親父。それは違う。それだとラスボス子に妥協をしてもらうことになってしまう」
「なんだと」
言葉とは裏腹に勇者父はにやにや笑った。
勇者父も元勇者、勇者太郎に何が起こったのかはすぐに察していた。
勇者太郎は言葉を続けた。
「妥協はダメだ。俺はラスボス子のお義父さんに彼女を幸せにし続けると約束したんだ」
「なら聞かせて頂戴、勇者太郎。あなたの答えを」
勇者母はワクワクしながら息子へ次の言葉を促した。
「俺はラスボス子がラスボス子のまま結婚できるよう、新しい国を作る！」
「え？」
思ってもみなかったのか勇者太郎のアイディアに、ラスボス子は驚きで目を見開いた。
彼女の驚いた顔はちょっとレアなので勇者太郎は心のカメラで激写した。
