第八話 それぞれ戦いと先輩の戦い
「カモン、ゴーレム、タイプ、タイタンサウザンズ」
ラスボス子は、呪文を唱え国城壁前にあらかじめ配置した千体の巨大なゴーレムを起動させた。
成人男性の三倍の大きさを持ち、自立思考を持つゴーレム達は勝手に隊を組み、進行する王国軍にぶつかっていく。
巧みな連携を駆使し、ゴーレムたちは王国軍の前進を停止させた。
次に魔法使いチャラ男と純朴可愛い系神官が動いた。
魔法使いチャラ男は魅了の魔眼を解放し、最前線の兵士を片っ端から寝返らせた。
これで、王国軍の最前線は一気に混乱状態に陥った。
味方が一瞬のうちに敵に回るのだ。数で瞬殺するつもりだった当初の王国軍の作戦は破綻した。
この男を自由にさせては戦線が崩壊しかねないと判断したのか、遠距離から弓と魔法の狙撃が彼に飛ぶ。しかしそのことごとくは純朴可愛い系神官が張り続ける障壁に弾き飛ばされ、魔法使いチャラ男にダメージが入らない。
魔法使いチャラ男の攻略に時間が掛かれば掛かるだけ、王国軍の造反者が増えていった。
もはや初動に失敗した王国軍の最前線は秩序ある攻撃ができないほど混乱が広がりに広がっていた。
状況が混乱状態に陥ったその隙に先輩記者も行動を開始した。
彼の役割は自身の特性を生かしたかく乱。
先輩記者は敵の陣地に潜り込み、闇から闇へと駆け抜け、指示を出す隊長らしき人物を片っ端から気絶さていく。
このことにより指揮系統が戦線まで届かず、指示に詰まりが生じ始めた。
「うわーもうだめだー」
味方から襲われるこの最悪の事態に指示が出てこないのだ。
最前線で戦う多く戦士のが武器を捨てて逃げ出した。
彼らの多くは金で雇われた傭兵だった。
前金を渡さず、報酬がすべて成功報酬だったのがそれを後押しした。
それでもおそよ100万の軍隊を率いる大群を押し返すには力が足りなかった。
王国軍は最前線で戦う部隊を傭兵から直属の軍隊に入れ替えた。
直属の軍隊はしっかりとした訓練を積んでいるので、指示がなくても各自の判断で状況が対処でき、なにより、王国から給料をもらっているので手前勝手に逃げ出すこともできない。
彼らは死力を尽くして前線を維持した。
これにより、脱走者は軽減、魅了の魔眼とゴーレムたちの活躍でなんとか拮抗状態に持ち込めているが、数的不利な状況は勇者太郎側の首を絞め始めていた。
そこで勇者太郎が出撃を検討するが、ラスボス子に止められた。
現状の指示を回しているのも彼なので離れてしまっては拮抗している状態が崩れかねなかった。
どう計算しても一手足りない状態だった。
「ワタクシの名は幼馴染剣士! 2000の兵とともに、勇者太郎の国を守るため、ここに力を貸しますわ!」
戦場に突如、幼馴染剣士の声が響いた。勇者太郎の連絡を受けた彼女は自身の家が抱えている私兵とともに勇者太郎の国の援軍として駆けつけたのだ。
「ナジミが作ったこの街は絶対ワタクシが守りますわ! これがワタクシのルートです!」
同時にスキル【運命の契約―ディスティニーコントラクトー】が発動し、幼馴染剣士が発光する。
彼女と彼女が率いる隊はなぜか矢が当たらず、適当にピンチや人間ドラマも起こるがなんだかんだで乗り越え、次の場面では勝手に傷も治っている。
それはまるで主人公のごとき活躍ぶりだった。彼女の軍が通ったあとは、消しゴムでなぞるように敵が消えていった。
無敵の軍隊の登場で、状況は再び勇者太郎の国が有利になっていった。
戦闘開始からかなりの時間が経ち、今だ勝利がつかめない王国軍に焦りが見え始めたのか、明らかに指示をされていないだろう無計画な突撃が増えるようになってきていた。
魔法使いチャラ男はそれを見逃さず、突撃した部隊をまるっと魅了。
王国軍は突撃した回数だけ、勇者太郎の国に兵力を分け与えるだけに終わっていた。
対する勇者太郎軍は余力あった。
勝手に判断して勝手に動く体力無限のラスボス子のゴーレムたちと、見るだけで敵を味方に変えていく魔法使いチャラ男と自分と魔法使いチャラ男の体力を回復し続ける純朴可愛い系神官、補正により底なしの体力を得ている幼馴染剣士と、モンスターの力で常人ならざる体力を持ち継続して戦闘が可能な先輩記者がそろい、戦闘はいまだ継続可能な状態が続いている。
王国軍の損耗はすでに半分を超えていた。
「――見つけた」
先輩記者は敵陣深くに潜り込み、総司令であろう旧王の忠臣を見つけていた。
禿げ上がった頭に、無駄に長いひげ、鍛えていない中年の体躯、彼こそが先輩記者に服従の呪いがかかったチョーカーを付け、彼を暗殺者として利用した張本人。そして勇者太郎の国を侵略しようと画策した男。
一際目立つテントを張り、状況に苛立ちながらも旧王の忠臣はあちこちに指示を飛ばしている。
先輩記者は闇に紛れながら、死角から死角へと移動し、テントの裏側に身を隠し、彼との距離を詰める。
(こいつを殺せばこの戦いも終わる)
先輩記者は自身の手を見た。
これまで望んではいなかったとは言え、何人もの人を殺めてきた自身の手。
(今更それが一人増えたところでなにも変わらないだろう)
そしてその場の兵士たちが旧王の忠臣から気を反らした瞬間、その好機に先輩記者はテントから飛び出した。
「な、お、お前は――――」
先輩記者は言葉なく旧王の忠臣の口を塞ぎ、首を絞める。
「が、くっ――――」
ほどなくして、旧王の忠臣の意識は落ちた。脈を確認するとまだ生きている。
それを確認して先輩記者は彼を担ぎ上げ、敵陣からの脱出を図ることにした。
(――――だけど、きっと彼女はそれを望まないだろうな)
かくして頭をなくした王国軍は勇者太郎に降伏し、軍を引いた。
そして夜が明けようとしていた。




