第四話 クイズと大会
ごそごそと何かの音と気配を感じ、先輩記者は何事かと静かに目を開けた。
音の正体は後輩記者だった。
「うーん、先輩どの服が好みかな」
見れば白いブラウスを肩に掛け、健康的な太ももをあらわにし、旅行鞄から何やらスカートを選んでいる。
彼女が体を動かすたびに前を閉じていないブラウスが揺れ、そこからピンクの下着が見えてしまい、今起きたら絶対めんどくさいことになりそうだなと先輩記者は冷静に事態に対応することにした。
(……見なかったことにして、もう少し目を閉じておこう)
そうして先輩記者はそっと目をつぶった。
すっと意識が沈みかける。体に残っていた眠気が強くなってくるのを先輩記者は感じた。
(やばい……これは本当に寝そう。まあ、少しぐらいなら二度寝もいいか)
旅の疲れがまだ残っていたのだろう。気が付くと先輩記者はすっかり二度寝を決め込んでしまっていた。
「……輩」
(……ん?)
「起きてください、先輩!」
「ん……」
先輩記者が目を覚ますと、目の前には後輩記者。
彼女は白いブラウスとキャスケット帽に色を合わせたハイウエストのロングスカートをばっちり着こなしている。
寝ぼけ気味の意識のまま、先輩記者はソファーから降り、体を伸ばした。
「……くあぁぁ。着替えは終わった?」
「なっ!?」
思いがけない一言をもらった後輩記者はワナワナと体を震わせた。
「あっ……」
眠気が抜け先輩記者は自分の失敗に気が付いた。
いろいろ考えたあげく、彼は誤魔化すことにした。
「見ました?」
「見てない」
「見ましたよね」
「いいえ、見ておりません」
「……いいでしょう。それならばクイズです。間違えたら先輩を殴ります」
「うん?」
後輩記者は顔を真っ赤にして声を振り絞った。
「私がつけている下着の色は何色ですか?」
「ピンク」
殴られたくないので先輩記者はマジメにクイズに参加した。
答えはもちろん、殴られた。とにかくいっぱい殴られた。
その後食堂で朝食をとった。先輩記者の負傷具合を見た昨日の金髪の男はサービスでマッシュポテトをおまけしてくれた。その優しさが先輩記者にとってしょっぱかった。
塩味のマッシュポテトを食べ終えた先輩記者は不機嫌な後輩記者を引き連れ、勇者太郎に会うために城を目指すことにした。
「ほんっと、信じられません! ちゃんと謝ってくれれば、パンチ一発で許しましたのに!」
「それじゃ結局殴られるじゃないか」
「そういう問題じゃないです。好感度、そう好感度の問題です!」
「あー……あそこのデビルフィッシュ焼き食べる?」
「はい♪」
屋台で販売していたデビルフィッシュ焼きを後輩記者に与え、先輩記者は彼女の気を反らした。
余計な出費は今後の滞在に怖いが、現状をなんとかしなければと妥協した結果だった。
しばらく二人は屋台を冷やかしながら、城へ向かい歩いていく。
歩くこと小一時間。二人はようやく勇者太郎の城へとやってきた。
「え? 国王様がいない?」
「はい……もうしわけありません。どうも、妃様と建国祭を見に行かれたようで」
「まいったな……」
城に着いた先輩記者を待ち受けていたのは王不在のお知らせだった。
先輩記者からすれば最悪、暗殺ができればいいのだから、取材はしなくてもいいのだが、居場所が分からないことにはどうしようもない。
(さすがに夜には城に戻ると思うが、警備の状況もわからないこの城に一人で忍び込むなんて無謀なことはできれば避けたいし。……痛っ)
先輩記者は首に軽い痛みを感じ、身に着けているチョーカーを触った。
ゆっくりとわずかにだが、先輩記者の首を絞め始めようとしている。
どうやら服従の呪いは先輩記者が任務放棄したのではないか判断しかねているようだった。
「先輩。だったらちょっと探しにいきましょう!」
後輩記者は前向きな発言にチョーカーからの痛みが消えた。
建設的な意見として判断されたのだろう。
(後輩くんに助けられたか。本当、こういう行動力はもう一人前なのだから)
「そうだね。兵士さん、もし先に国王様が戻ってきたら伝言をお願いします。本日中に城に伺うのでインタビューをさせてください。と」
「承りました。必ずお伝えします」
兵士に伝言を頼み、二人は大通りに向かい歩き出した。
建国祭は大盛況のようだった。
喧噪と活気、空砲が鳴り、辺りを人、魔族、モンスターたちが楽しそうに道を歩いている。
屋台が並び、大道芸人が剣を投げ芸をする、大人も子供も皆楽しそうだった。
「おお、この光景は王国では絶対見られませんね! 先輩」
「確かにすごい光景だね」
二人は人々の流れに乗りながら、屋台を見たり、曲芸を見たり、勇者太郎を探しつつも祭りを堪能した。
「先輩、あれを見てください! 何かの大会が始まるみたいですよ」
後輩記者が広場に集まった人だかりを指差し、声を上げた。
先輩記者が様子を確認すると、何やら突貫工事で野外ステージが組み立てられていた。
舞台の上には巨大な看板。そこには――。
「嫁語り自慢大会? 対象をいかに素敵に表現できるか競い合う大会か」
表現という言葉に先輩記者は心を惹かれた。
彼は暗殺者であるが新聞記者、いうなれば表現者である。
表現者として、自身の実力がどのぐらいのものなのかは興味があった。
「後輩くん、あの大会出てみてもいいかな」
結局、先輩記者は興味に負けた。
それに事前に調べた情報だと勇者太郎は結婚した魔族を溺愛しているらしく、どこかでこの大会を見ている可能性もある。それを考慮したのか服従の呪いも発動する気配がない。
そんな楽し気な先輩記者を後輩記者は珍しいものを見たような顔をし言葉を返した。
「あの枯れたヤナギのような先輩の目が輝いている……。分かりました。私のかわいさをじゃんじゃん宣伝してください」
「え?」
「だってほら」
そう言って後輩記者は出場者募集と書かれた看板を指差した。
『出場条件:カップルなら誰でも』
「あー」
「えへへ、先輩が私のことどれだけ思っているか見せてもらいますよ!」
後輩記者はニコニコしながら言った。
いまさら前言を撤回するわけにもいかず、彼女を引き連れ、先輩記者は嫁語り自慢大会にエントリーをした。




