第三話 食事とお酒に弱い後輩
部屋をとった宿屋には食堂が用意されており、そこでは夕食を食べる客や、酒を飲んで楽しそうに自慢話をする客たちによって、程よく活気づいていた。
「お客さんも多くて結構にぎやかですね! 料理はまだでしょうか?」
「明日はお祭りだからね。……うん、のんびり、待とう……」
小さなテーブルに腰掛けた二人の表情は対照的だった。
この始まりは後輩記者がメニューも見ず店員に「オススメで」と注文したことから始まる。
後輩記者は異国の地でどのような料理が出てくるかが楽しみのようだ。
だが、その注文が先輩記者の不安を煽っていた。
ここは魔族もモンスターも住んでいる町だ。
モンスターの中には人を喰らい、土を喰らい、毒草をもしゃもしゃするものもいる。
モンスターの力を使いこなせる先輩だったが、食事は人間の舌に合わせたものが出てきてほしかった。
「宿屋愛の巣、特製ディナー、おまちどさん、マジ旨だから、そこんとこヨロで♪」
「また、勝手に宿屋の名前をかえないでください!」
ややあって、宿屋の夫妻だろうか、金髪ロングヘアの女性と、金髪を短めに切りそろえたサングラスの男が漫才をしながら先輩記者と後輩記者のテーブルに夕食を配膳してきた。
「先輩、先輩。芋ですね」
「芋だね」
二人のディナーとして出てきた食事は芋をつぶして固めた、いうなればマッシュポテトだった。
トカゲの丸焼きとかそういう魔界チックなものではないので、先輩記者は少しほっとした。
(さてと、どんな味かな)
物は試しにと先輩記者はマッシュポテトをスプーンですくい口に運んでみる。
ほのかな塩気が芋全体の甘味を引き出し、高いバランスで味をまとめている。
しゃくしゃくと食感を楽しませているのはリンゴだろうか、程よい酸味がとてもいいアクセントだ。
なんだか懐かしい味だった。先輩記者はふと教会の配給を思い出した。
「うん、おいしいよ」
「懐かしい味ですね。あっさりしていてどんどん食べれます」
「あ、分かる。教会の配給思い出したよ」
「ああ、そういえばこんなの出てましたね」
他愛もない会話をしながら二人は食事を平らげた。
思いもよらぬ完成度にかなりの量があったにも関わらず、あっさりと食べきってしまった。
「お客さん食後のはちみつリンゴ酒はどうっすか? これ冷たくてマジ絶品」
頃合いを見計らったのか、タイミングよく金髪の男が皿を下げ、酒を売り込みに来る。
少し喉が渇いたのか後輩記者が手を挙げた。
「あ、はいはい! 飲みたいです。いいですか先輩」
「……それじゃ二つお願いします」
「まいだぁりー。はちみつリンゴ酒いただきましたー!」
そう店いいながら店奥に入っていき、ほどなくして金髪の男は樽のジョッキを二つ持ってきた。
「お待たせしゃーしたー。はちみつリンゴ酒になりますー」
「ありがとうございます」
そうして、二人でちびちびとお酒を飲み進めていく。
軽い口当たりにしっかりとしたはちみつの味、お酒特有のえぐみが弱く、ジュース感覚で飲める飲みやすいお酒だった。
「おいしいお酒だね」
「はい♪」
頬を赤らめニコニコしている後輩記者。
先輩記者が彼女のジョッキを見れば、かなりのペースで飲んでいる。
後輩記者の意識がはっきりしている間にと、先輩記者は確認しておきたいことを彼女に質問した。
「そうだ後輩くん、本当に同じ部屋でよかったの? 仮にもほら僕ら男女なわけだし」
祭りの都合か、宿屋の部屋はほぼ満席で、今回取れた部屋は一室だけだった。
もし、あれならば自分がほかの宿屋を探す覚悟で先輩記者は後輩記者に尋ねた。
「いまさら大丈夫ですよ。自信をもってください!」
後輩記者は胸をはり答えた。もう酔いが回ってきたのか顔が赤らんでいる。
アルコールのせいか、彼女のトンチンカンな言動に先輩記者はため息をついた。
(なんの自信をもてというのだろう……)
「それにその……。初めて異国に来たので、実はちょっと不安で。先輩と一緒にいるほうが安心かなって、えへへ」
誤魔化すように笑いながら後輩記者は言う。
確かに賑やかな雰囲気で誤魔化されているが、この城下町には人とそのおよそ同じ数だけ、魔族やモンスターが住んでいる。
さすがの後輩記者も少し不安なのだろう。
(さすがにこんなところで一人にさせておくわけにもいかないか。……今から部屋を探しても見つかるかわからないし)
「うん、わかった。それで後輩くんが問題ないのなら」
「ありがとうございます! では乾杯~♪」
「なぜ今更。……乾杯」
遅めの乾杯をし、なにやらご満悦の後輩記者は向かうところ敵なしの笑顔を浮かべ、ニコニコしながらはちみつ酒を一気に煽った。
「ふ、ふぁぁぁぁ~きゅ~~」
そして笑顔のままあっさり酔いつぶれた。
「えー」
先輩記者は頭を抱えった。念のためもう一口酒を飲んでみるががそんなに強い酒ではない。
(軽い味わいのお酒だったのが逆に災いしたのかもしれない……)
その後、お酒もそこそこに先輩記者は後輩記者を背負い部屋に戻ることにした。
帰り際に金髪の男が親指を立ててこちらを見送ったが、先輩記者はそれを完全に無視した。
借りた部屋は本来一人用の部屋らしいのだが比較的広く、ベッドが一つと一人なら眠れそうなソファー、背の低いテーブル、テーブルの上にはリンゴなどのサービスフルーツが置かれている。
借りた部屋に入ると先輩記者はベッドに後輩記者を寝かせた。
(僕は……ソファーで眠ればいいか)
ベッドから毛布を一枚拝借して先輩記者はソファーで横になった。
「センパぃ~おやすみ~」
でろんでろんになりながら後輩記者がベッドでうめいた。
(まったくどれだけ信用されているんだか……)
大きく息を吐き、先輩記者は脱力した。
「おやすみ、後輩くん」
そして先輩記者は目をつぶった。




