SS 戦いはこれから【アフターストーリ ナジミ視点】
「知らない天井だ……うっひゃぁ、これ一度、言ってみたかったんだ。テンション上がるわ」
水流迫ナジミは目を覚ました。
ここは病院の個室。彼女は心臓の病を患いここで生活をしていた。
そして延命するための手術を行い、今の今まで眠っていたのだ。そう、長い冒険の果て、彼女にとっての終着点はこの部屋だった。
付け加えて言うならば、彼女自身の目覚めはその手術が無事に成功したことを意味していた。
「それにしても、ああああ、んもったいない!」
ナジミは眠っている間に体験した異世界での出来事を思い出し、ベッドの上をじたばたする。
それは自身が作っているゲームと恐ろしく酷似した世界だった。
「本当にバカ、ルートの選択肢、完璧に間違えたぁぁぁ! バカ、私のバカ、あそこは体真っ二つでもいいじゃない!……いや、流石に悪いか」
ひとしきりじたばた暴れたところで息が上がる。
手術が成功したとはいえ、まだ自由に体を動かすことはできないみたいだ。
ナジミはため息をつき、今度はゆっくりと体を起こした。
「でも、まあ、ああいう話もありと言えばありよね。勇者とラスボスがくっつくかー。勇者と美少女魔王っていうのは結構見るけど、案外露骨にラスボスっていうのはあまり聞かないわけだし、ね……はは」
(うん、正直なことを言えば、いつまでも幼馴染剣士で居たかった)
自由に動ける体が楽しかった。無茶ができる体が楽しかった。そのせいで思わず窓ガラスを割りまくった。アニメみたいな動きもした。
web作家の8割が憧れるという異世界転移(意識だけ)だ。さらには備わっていたチート能力が【運命の契約ーディスティニーコントラクトー】と正しいルート進行時は彼女の望む通りの展開になるという破格のスキル。
「やっちまったわ……まったく……」
ため息を一つ吐き、彼女は病室の机からパソコンを手に取り、膝の上に載せてカタカタとシナリオをメモし始めた。
ゲームづくりは体の弱い彼女の趣味だった。
(手術をしてから一週間か、向こうじゃ10年ぐらい生活したんだけどね)
「ま、でもお陰で、次のコンテストまでもう少し時間があるわけだし、隠しルートぐらい実装しても罰は当たらないわよね」
そう算段をたてナジミはカタカタとシナリオをまとめていく。
しかし彼女はまだ知らない、この隠しルート実装のせいでコンテスト前日までまともなデバッグができなくなることを。
そしてその隠しルートもこれまでの少女漫画のような乙女ゲームから、突然の少年漫画展開にユーザー評価はがた落ち、主人公に至っては三下キャラと化し、感想欄には『チャラ男様はそんなこといわない』と書かれることになることを。
それでもナジミは作り続ける。自分の想いが世界に少しでも残るように。
水流迫ナジミの戦いはこれからも続く。




