第十四話 指輪を買おう
勇者太郎は城下町を一人で歩いていた。
王国から流れてきた人々が、物を売り、買い、作り、城下町は活気にあふれていた。
(大分にぎやかになったもんだ)
街を行き交う人を見れば、同性愛者や、スライムを全身にべっとりと張り付けながら歩いているおっさん、イケメンの魔族にべったりなおばさん、などなど趣味趣向のオンパレード。かなり混沌としている。
(ま、まあ凄い光景だが、外道な奴らがいなければいいだろう。それよりもーー)
勇者太郎は街の視察に来たわけではなかった。
不可侵条約の締結を間近に控え、勇者太郎は改めて婚約指輪をラスボス子に渡そうと決心を固めていたのだ。
(さすがに前回二回は何も用意していなかったからな……)
魔族の流儀で指輪は大丈夫なのかは事前にチェック済みだ。
勇者太郎は、装飾品の店にあたりを付け、意気揚々と店の中に入っていった。
「おじゃまするぞ」
「いらっしゃい。げ、げぇ! ゆ、お、王様!?」
店の店主と思われる男が、勇者太郎を見た瞬間、腰を抜かした。
「ずいぶんなあいさつじゃないか。指輪が欲しいのだけどちょっと見せてくれない?」
「へ、へぇ、そうしたらまず大きさの見本を持ってきますので、サイズを教えてだせい」
そういって様々な大きさの指輪が30個ほど連なっているリングを店の店主は持ってきた。
勇者太郎はそれを受け取り、全神経を集中させ、10か月前に触ったラスボス子の指の大きさを思い出していた。
「これだ!」
「8号サイズ……となると女性の方にお送りするものですね。でしたらいくつか用意してみます」
そういうと店主が店の奥からいくつかの指輪を用意し、勇者太郎の前に並べた。
並べられた指輪はどれもやけにデカい宝石が付き、やたらとド派手なものばかりだ。
いかにも貴族の話のタネになるために用意された指輪の数々に、勇者太郎は自分の送りたい指輪のイメージとちょっと違うものを感じた。
(こういうのは友の趣味だな。流石にこんなゴツゴツしたものを指につけたら邪魔だろう。ラスボス子のプレゼントには無しだな)
彼女へ送るにはあまりに品がない。最悪、指にはめるのは邪魔だと文句を言われて突き返される可能性があると勇者太郎は首を振った。
「んー……もうちょっとシンプルなのがいいんだけど。普段使いする感じの」
「なるほど、それでしたら、こちらのデザインの指輪はいかがですか?」
店主が次に持ってきたものは糸が幾重にも編み込まれたようなデザインの指輪だった。
糸をモチーフにしたデザインというのが何か勇者太郎の感性にヒットした。
「店主これを売ってほしい。あと俺の分も同じデザインで」
「は、はぁ……サイズほんとうに大丈夫ですか?」
「おう、ばっちりだ」
勇者太郎はばっちりだといわんばかりに胸を張った。店主は自身の経験からそういうタイプのお客はサイズが合わないとねちねち文句を言ってくるやつらばかりだったので不安でしかなかった。
しかし欲しがっているのならば仕方ないと、店主は勇者の指のサイズを確認し、二人分の指輪を用意した。
「それじゃ指輪ケースを用意足します。しばらくお待ちください」
そして待つこと10分。店主は指輪ケースをもって戻ってきた。
「お待たせいたしました。お納めください」
「ありがとうな。これはお代だから、カモン、ゴーレム」
勇者太郎はミニゴーレムに約三か月は食っていける量の野菜が詰まった木箱を店まで運搬させ、それを指輪の代金として店主に渡した。
王国の一件もあったのでこの街の主な取引方法はバーター取引、ざっくりいうと物々交換を主流にしている。通貨制度は色々落ちついて王国のインフレ対策を考えたあとだとラスボス子と話し合い決めていた。
装飾品の店主は野菜不足だったので、涙を流し喜んだ。
そして勇者太郎は指輪を手に入れ意気揚々と店を出た。
「勇者太郎、何をしているの?」
「うお!?」
装飾品店を出た瞬間、ラスボス子に出くわしてしまった。
勇者太郎は条件反射で指輪をポケットにしまう。
指輪を渡す時には雰囲気を大切にしたいと勇者太郎に変な男心が働いていた。
「あー……いや……」
「どうしたの?」
きょとんとするラスボス子。
その時勇者太郎の脳裏には二つの選択肢が浮かんでいた。
1、今のこの場で指輪を渡すか。
2、このままデートに誘っていろいろ楽しんでから渡すか。
(どうする俺……よし!)
勇者太郎の答えは3、逃げるだった。
この男、デートに誘う時は下調べをしないと落ち着かないタイプだった。
「ぬん」
勇者太郎は全力で反復横跳びをした。
それを見たものは勇者太郎が三人に見えたと大変驚かれる勇者太郎脅威の宴会技であった。
「え?」
突然そんなことをされたものだから、ラスボス子は驚きで声を上げた。
誰だって目の前の人間が三人に増えたら驚く、それはラスボスだって例外ではない。
(いまだ!)
勇者太郎はその一瞬の隙を逃さず、脱兎のごとく走り出した。
ラスボス子の意識の隙をつく完璧なタイミングだった。
「甘いわ――カモン、ゴーレム!」
ラスボス子は反射的にゴーレムを呼び出した。
逃げ出した勇者太郎の足元から緩い顔のミニゴーレムが無尽蔵に湧きだし勇者太郎の足を掴もうと、手を伸ばし、隙あらば、飛びついてくる。
「うわぁぁぁぁあ!」
四方八方から攻められて、勇者太郎はあっさりとゴーレムたちに捕縛された。
ゴーレムたちは重なり合い勇者太郎を一番下にして小さな山を作り、彼の逃亡を封じた。
ラスボス子が勇者太郎の下にゆっくり歩み寄る。
「ふふ、ラスボスからは逃げられないのよ? でも、逃げようとするなんてちょっと悲しい」
ちょっと拗ねたように頬を膨らませるラスボス子。
勇者太郎は己の行いを悔いた。でも、かわいい表情が見れたので少しテンションが上がった。
「あー……すまないラスボス子。弁明させてもらえないか?」
「聞きましょう」
(しかたない。こうなったら真っ向勝負だ)
もうちょっと雰囲気があるところで渡したかったと悲しみと、婚約指輪を渡すという緊張を乗り越え、勇者太郎は意を決した。
「実は、この指輪を……ラスボス子、君にプレゼントしたくて」
そう言って捕縛されたまま、勇者太郎は器用に指輪ケースを取り出し、ラスボス子に差し出す。
「これは……指輪?」
「ああ、その小さい指輪を左手の薬指につけてくれないか?」
「こうかしら。面白いデザインね」
ラスボス子の左手の薬指に嵌められた指輪が輝く、思った通りサイズはぴったりだったようだ。
「そんでもって俺の左手の薬指にもこの指輪を付ける。人界では揃いの指輪を付けることで婚約した証になるんだ」
「え、うん……そう、なんだ」
ラスボス子の紅い瞳は大きく開かれ、白い頬は赤く色づく。
勇者太郎はゴーレムの下敷きになりながら言葉を続けた。
「それで、その……俺はラスボス子と一緒に居たいから、ラスボス子がいいから」
「うん」
「愛している。不可侵条約を結んだら、結婚式を挙げて、正式に俺と結婚してくれ!」
「ええ、一緒になりましょう。私もあなたがいい――」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
二人のやりとりに城下町が沸き立った。
これまで他種族との恋愛、結婚が禁止されていたので、二人の告白は物凄い威力で城下町の人々の胸に刺さったのだ。それはもうぐいぐいと。
住民たちはいてもたってもいられず、叫び声をあげながらゴーレムを弾き飛ばして勇者たちを取り囲み、祝福と言わんばかりに二人を胴上げをした。
勇者太郎は笑った。
ラスボス子も思わず笑みをこぼした。
「もうちょいだ。俺、頑張るよ」
「私も頑張る」
胴上げされながら二人は決意を新たにした。
その日は求婚すると成功する日として、後に記念日に制定された。




