┗SS 夢でデートしよう【第十話ラスボス子視点】
ラスボス子は復讐に燃えていた。
あの悪鬼暴虐の王国をいかになぶり殺しにしてやるか、彼女の思考はそのことでいっぱいだった。
その姿はまさに全人類が恐れる混沌をつかさどる神、ラスボスそのものであった。
(うん、よし経済攻撃の準備も進んでいる。ラスボスを敵に回したことを絶対に後悔させてやる)
悪魔のアイディアが頭の中でまとまったと同じタイミングでラスボス子は勇者太郎が眠っている部屋へとやってきていた。
ノックをするが返事はなく、ラスボス子は息を整え、そっと勇者太郎の部屋に入った。
部屋の中では、勇者太郎がベッドの上で眠っていた。
(そろそろ体を動かしてあげないと……)
ラスボス子をナイフから庇い毒を受けた勇者太郎はずっと眠り続けていた。
ナイフに付着していたのは夢魔の毒、それを受けた者は自分の望む夢を見続け、眠り続けてしまう悪魔の毒。最悪、目覚めなければ毒を受けた本人は衰弱して死ぬ。
対抗するには毒を受けた本人がそれが夢だと自覚し、目を覚ましたいと望むしかない。
勇者太郎が毒を受けて今日で三日が経った。今はただ眠っているだけだが、人間は同じ体勢で眠り続けていると床ずれという障害を患うという。
ラスボス子は勇者太郎の体を動かし床ずれを予防しようと、この三日間、彼の部屋に通い詰めていた。
ラスボス子はそっと勇者太郎の体に触れ、肩を持ち上げるように横に転がした。
何かをつかもうとしているのか彼の右手は開いたり閉じたりしている。
もしかして起きたのかと思ったが、彼は眠ったままだ。
ラスボス子は少し落胆し、勇者太郎に声をかけた。
「これは夢」
そのあと、ラスボス子は今度は自分に向くように勇者太郎の体を転がす。
勇者太郎の寝顔を眺めながら、ラスボス子は囁いた。
「目を覚まして」
夢魔の毒の前にそのような言葉は無意味と知っていながらも、口に出さずにはいられなかった。
大きなマネキンを動かすように、腕を曲げては伸ばし、膝を曲げては伸ばす。
「また私に触れて」
そっといたずら心からかラスボス子は指で勇者太郎の唇に触る。
どんな夢を見ているのだろう、なにやらもにゃもにゃと何かを食べているような動きをしていた。
その動きがなにか滑稽でラスボス子はクスリと笑った。
「貴方の声をきかせて」
ラスボス子は呟き、勇者太郎をもとの仰向けの姿勢に戻した。
日課はここまでだったが、もう少しだけ一緒に居たくなり、ラスボス子はベッドの隅に腰を掛けた。
もしかしたら寝言かなにかで勇者太郎の声が聴けるかもしれない。
(本当は、私を好きだといって欲しい。でも今はそうじゃなくてもいいから――)
ラスボス子はパタンとベッドに倒れる。
体を回すと勇者太郎の顔がすぐそこにあった。
(もう少しだけ顔をみたら、ここを離れて作戦の準備を進めないと)
するとなにやら寝苦しそうに、少しうなされたかと思うと、勇者太郎はラスボス子を抱きしめた。
「ちょ、ちょっとなに」
ラスボス子は戸惑った。勇者太郎を抱きしめたことはあっても抱きしめられたのはこれが初めてだった。
「俺さ、また、この光景が見れるように頑張るよ」
「勇者太郎?」
寝言だろう。いったいどのような夢を見ているのか、ラスボス子から見た勇者太郎の顔は少し辛そうな顔をしていた。
もう少しで目が覚めるのではないかという期待と予感がラスボス子に湧き上がる。
「私を見て」
目を覚ましてほしい。そう願いラスボス子は勇者太郎に声をかけた。
(はっ……今、勇者太郎が目覚めたら、この状況をなんていえばいいの)
突然ラスボス子は我に返った。
ラスボス子の脳裏に、最悪の状況がシミュレートされていく。
(いけない、このままじゃ彼に寝込みを襲うやばい人だと思われる。それは絶対に嫌!)
「チェンジ、ニアシンク」
ラスボス子は近くのものと入れ替わる魔法を使い。自身と掛布団を入れ替えた。
そして素早く椅子に座り勇者太郎の様子を見る。
もにゃもにゃ何かを布団にささやき、目に力をいれ始めている。
そして勇者太郎は目を覚ました。夢魔の毒に打ち勝ったのだ。
「あなたって結構寝相悪いのね」
「……おはよう。ラスボス子」
今一番聞きたい声がラスボス子に目覚めのあいさつを告げた。




