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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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話の真意


「先ずは毒の魔王からだな。彼の名はコルドクト=ドート。各地を転々としながら、医学に関する知識を探求する、旅する医者だった。コルドクトと会ったのは、まだ魔王の魔力を持っていない時の事だ。少しの怪我や些細な病気も見逃さない、繊細な観察眼と、それに見合った知識を持っていた彼は、私の住んでいた集落の流行り病をあっという間に治して見せた」



 話を聞く分には非常に優秀だ。医学に関しては独学なのだろうか。



「碌に礼も受け取らず立ち去ろうとする彼を何とか引き止め、持て成し、語り合う内に友となった。お互いの夢を話し、お互いがそれに賛同し。そして、私は彼の旅の護衛を申し出た。コルドクトは快く引き受けてくれたよ。世界を見て回りたいという私の願い交じりの提案をな」


「…………良いやつだったと言いたいのか」


「そうだ。毒の魔力を持つまでは、良いやつだった。間違いなく……毒の魔力を持ってから、彼はおかしくなってしまった。そもそも毒の魔力を得る事になったのは、自分の毒で苦しむ、前毒の魔王を助けようとしたからだ。魔王の魔力による未知の病症に成す術はなく、男はそのまま息絶えた。その瞬間一番近くにいたコルドクトは、偶然にも毒の魔力への適応力を持っていた。そのまま毒の魔力を吸収してしまった彼は、不幸にも毒の魔王となってしまっていた」


「望んでなった訳じゃないのか」


「魔王の半分は望んでなった訳ではない。少なくとも私の見てきた限りはそうだった。コルドクトも初めはどうにか制御をしようと努力をしていたが……彼の毒に中てられ死んでいく病人達を見る事しか出来なかった。治そうとした人々を逆に死なせてしまっていた。彼がおかしくなってしまうには、十分な出来事だった」



 ……もしかして、俺は、毒の魔王の、コルドクトの死に際にとても無神経な事を言ったんじゃないか? まだ人を治す事は出来たんじゃないかとか、一番言ってはいけない事を言ったんじゃないのか?



「……当てて見せようか。お前の考えている事を」


「え?」


「コルドクトの死に際に余計な事を言ったんじゃないか、などと気に病んでいる。どうだ?」


「なっ!?」



 なんでそこまでピタリと言い当てられる!? もしかしてそういう魔力を他に持っているのか?



「ふふ、笑える程に驚いた顔だな。今のはいわゆる勘に任せたものだったが、そうかそうか。合っていたか」


「く……当ずっぽかよ!」


「勿論なんの確証もない答えという訳ではないが……当たってよかった」


「?」


「何でもない。話を続けよう。次は雷の魔王だ。本名はバルスター=ウェルバー。豪胆だが思慮深さも持ち合わせている、なにより快活で気持ちのいい男だった。あいつと出会ったのはちょっとした私の勘違いからだ。殴り合いのいざこざの中にあいつがいて、私はそれを止める為に割って入った。だが、てっきりバルスターが悪いと思っていた私は、バルスターにばかり攻撃をしていた。本当は相手が悪かったんだがな。アイツの人相、良いとは言えないだろう? まあそれが気に食わずバルスターも反撃をしてきたんだが、決着が着かなかった。その代わり友情が生まれた。拳で語り合った結果、とでも言っておこうか」



 雷の魔王、バルスター=ウェルバーは、確かに人相は良いとは言えなかった。だが話を聞く限りは、これまた悪いやつではない。身内目線の贔屓目があるのかもしれないが、それを加味しても、炎の魔王の、ヤゴウさんの言葉を伝えたり、別れの時間をくれたりと、確かに良いやつだったのかもと思わせる要因はあった。



「アイツが雷の魔力を手に入れたのは、それこそ偶々だった。適合者を失った魔力だけが浮遊していて、それが偶然バルスターに宿った。初めは困惑していたアイツも、適合者だけあって直ぐに使いこなしていた。だが、人々の反応はそうはならなかった。ある日バルスターが喧嘩の仲裁に入ったが、誤って片方を殺してしまった。羽虫を捕まえようとして、間違えて命を獲ってしまった。そんな感覚の間違いだった」



 それだけ、魔力持ちとそうでない人の力には差があるという事。それだけ、普通の人と隔てりが生まれてしまうということ。



「人々の視線、悲鳴、命乞いの声。そんなつもりじゃなかったバルスターには、ひどく恐ろしい光景だった。それこそ、堕王になってしまう程には、恐ろしい光景だった。自分が恐ろしい忌むべきものになってしまった事実を、否応なしに叩きこまれてしまうのは、とても耐えがたい事だったんだ」



 重々しい話を重々しく話す水界の魔王。友人との出会いと、彼らの堕王になった経緯。言葉にすると長くはない。だがその短い言葉に、並々ならぬ思いを感じさせる。



「…………それで、貴方はどうして欲しいの。友人達の身の上話を聞かせて、実は良いやつだったんです許してやってくださいとでも言うつもりなの?」



 辛辣な物言いではあるが、当然の質問をリルフィリアが放った。



「許してもらえるとは微塵も思ってはいない。それだけの事をした。兄弟子とその家族を殺した我々が許されるとは思いもしない」



 ……兄弟子?



「待て、兄弟子ってなんだ」


「私の兄弟子、リマト=レイオナックの事だ」


「知ってたのか!? リマトさんを!」


「知っていた。だから対策を練り、ああいう事をした」


「お前っ!?」



 衝動のままに飛びかかろうとする俺を、リルとバストルが抑え込む。



「なんでっ!?」


「やめようと言ったのはリュウヤだ。事情が変わったからと言ってここで仕掛けるのは道理に合わない。やるならしかるべき場所でだ」


「っ! なら! なんで! 知った相手にそんな事を出来るんだ! 答えろよ!」


「奪う事しか分からなくなっていた。自分ではそのつもりは無かったが、私もとうに堕王になっていたのだろうな」


「ふざけるな!」


「ふざけてあんな事をする。そこまで私は堕ちてはいない……と思いたい」



 呟くような言葉を返し、水界の魔王は席を立つ。



「久々に、美味いと感じる食事だった。礼をいう」


「待て、話はまだ終わってない!」


「……二人の友に、墓を作ってくれたようだな。ここに来る途中に耳にした。厚かましいようだが、その墓に名前を刻んでやって欲しい。そして覚えている限りでいい、供養してやってほしい」


 

 こちらの制止を聞くこともなく、水界の魔王は出口の扉を開ける。



「先も話したが、西の廃墟で待つ。……氷の魔王を保護する準備をしっかりしてくるといい」



 それだけ言い残し、水界の魔王は宿を後にした。



 昇った血が下がり、頭が冷静さを取り戻し始めたころ、水界の魔王の真意が、徐々に明るみになってきた。



「……死ぬ気、だな。あれは」


「うん……」



 氷の魔王の奪還前提の準備を促す。メドル=ロチカの保護を願う。友人の弔いを頼む。どれもこれも、自身が負けた、死んだ後の話。語る様子からも、もう生きて行く気力を感じられなかった。

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